第9話 乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-5

翌日学校帰りにそのまま家に帰った俺は、妹の絵里洲の部屋の前に立っていた。


ノックをすると中から返事が返って来たので中に入ることにした。


「アホ兄貴どうしたの?なんかあった?」


部屋に入って来たアホ兄貴はなんだか少し浮かない顔をしていたけど、どうしたんだろう?


「ちょっとお前に頼みがあってな」


「何なに~? 珍しいね~」


「実は今日うちに俺の知り合いが来てるんだ」


「ふ~んそれで?」


「その知り合いなんだけど、その子がお前に会いたいって言うんで連れてきたんだ」


「・・・・・・・・・はぁ?」


「ほら入って来い」


「失礼します」


「・・・・・・あれ?ユッキー?」


「あれ?絵里リン?」


「ん?なんだお前ら知り合いか?」


「うん、同じクラスの同級生、ほらアーレスタロスの色紙を友達が欲しがってるって言ったじゃない。エリリンがアーレスタロスのサイン欲しがってたんだよ。」


「ああ、なるほど」


「アホ兄貴、ママ達まだ帰ってない? おやつ買いに行ったきりまだ帰って来ないのよ。あたし紅茶が飲みたい。ユッキーにもお茶だすから携帯使って早く茶菓子持ってくるよー言って」


「あいよ」


そう言ってアホ兄貴は部屋を出て行った。


携帯で呼び出せばいいのにわざわざ走って迎えに行くとは本当アホな兄貴だ。


あたしはユッキーこと永遠田・ユキちゃんをリビングのソファーに座らせると台所に行ってお湯を沸かす事にした。


それにしても驚いたなぁ、まさかこんな所でクラスメイトに会うなんて… でも何でわざわざあたしの家に来たんだろ? 


そんな事を考えながらお湯が沸くのを待っていたら部屋のドアが開いてアホ兄貴が入ってきた。


「ただいまー母さん達が帰って来たぞー、エリ降りて来いってさ」


「おかえり〜分かったわ」


さてっとじゃあ行くか…と思ったけど、どうしよう? この子も一緒に連れて行くべきなのかな? 


「ねえユッキー良かったら一緒に行かない? 私のお母さんを紹介してあげるわ」


「え?いいの?是非お願いします!」


よしっ!そうと決まればさっさと行こう! そう思って立ち上がった時だった、玄関の方でなにやら騒がしい声が聞こえたのだ。


誰だろうと思い廊下にでて玄関の方を見やると声を掛けられた。


「絵里洲!ユキルという少女はまだ家にいるか!?」


声をかけたのは私のお母さんだった。


狗鬼優乃、女だてらに格闘道場を経営し切り盛りする我が家の大黒柱。


いつもは武士のように冷静沈着なのにこんなに血相を変えている母はすごく珍しかった。


母の様子に戸惑いつつも質問に答えることにする。


「うん、居るけど」


すると、母が私の肩を掴んでこう言った。


「どこだ? どこにいる!?」


何事かとユッキーがひょっこり私の後ろから顔を出し母の顔を覗いた。


母はユッキーの顔を見たとたんボロボロと泣き出し彼女に抱きついた。




エリスの母ユノは心の中で泣き叫んでいた


(ユキル! ユキル! 15年前とかわらないその顔! ああやっぱりユキル! 無事転生を果たしていたんだな!!)


「ちょっとお母さん! ユッキー困ってるよ!」


私がそう言うと母はハッと我に返り彼女の体から離れた。


「す、すまない」


「いえ・・・」


「そう、そのあれだなんだ! ろくすっぽ友達のいないうちのバカ娘に友達ができたから、思わず感激しすぎて泣いてしまったのだ! ハハハハハハ!」


「ひど! ちょっとお母さんなんてこと言ってくれちゃってんの!? もうユッキーうちのお母さんちょっと変な人だから相手しなくていいよ! 上で一緒に遊ぼう!」


「あー絵里洲、獅鳳ももうすぐ帰ってくるから、後で一緒に遊びに混ぜてあげなさい。」


「えーわかったー」


私はしぶしぶ了承し、ユッキーを連れて自分の部屋に戻ったのだった。


部屋に入るなり彼女が私に尋ねてくる。


「ねえ、さっき言っていた獅鳳って?」


「ああ、私の弟分っていうのかな? うちのお母さんの知り合いの息子さんなんだけど、ちょっと訳ありで一緒に暮らしてるの。すっごくいい奴なんだよ!」


「そうなんだ・・・その獅鳳って子はあなたの弟分なのね。」


「ただいま、兄貴〜、絵里洲、お菓子買ってきたよー」


「噂をすれば、なんとやら獅鳳が帰ってきたよ」


「おかえり獅鳳。」


「あ、はじめまして。私ユ•••」


挨拶しかけたユキルが硬直する。


ドアを開け入ってきた少年獅鳳は、彼の義弟、雷音に瓜二つの顔をしていたからだ。




雷音と同じ顔の少年を見てもユキルは、雷音のことを完全には思い出せずにいた。


とても大切な人、とても大切な存在なのに、それが誰だかどうしてだか思い出せない。


記憶の欠落がひどくユキルの心をざわつかせる。


「……」


「どうしたの?」


「あー……えっと、あの、その……」


「うん」


「あの獅鳳君、私たちどっかで会ったことない?」


「……さあ? 気のせいでは?」


「そっかぁー」


「ところでなんでそんな事聞くんですか?」


「だってなんだかさっきから胸騒ぎするんだもん。なんかこうすごく嫌な予感が……」


ユキルは混乱する頭を落ち着かせ、何を話すべきか頭の中で整理しようと頑張ってみる


「あの、だいじょうぶですか?」


そんなユキルの様子を獅鳳が心配する。


「ええ、大丈夫よ」


「そうですか」


獅鳳の気配りにユキルはよりテンパってしまい、とうとう雷音との記憶のなかで1番鮮明に頭の中に残っている映像を引き当てた。


それは魔剣クトゥグァの力を解放し、巨大ロボのクトゥグァを招来したあの記憶


「そうそう! 私いろいろあって、昔の記憶がないんだけど、私ってあなたとキスしたことってないかしら!?」


「……え!?い、 いや、そんなことはしてないですよ!?」


顔を真っ赤にする獅鳳を見てユキルはしまった!と後悔した。


絵里洲がキスのセリフに目を輝かせ、マシンガンのように質問をぶつけた。


「えーー!! なになに?どういうこと?それってつまり二人はそういう関係だったってことなの??」


「いやいや違うわよ! ただ、私が魔剣クトゥグァの力を解放したときに、雷音君の唇を奪ったような気がしただけで・・・」


「はいはいはい、中二病設定みたいなこと言ってごまかそうとしたってそうはいかないわよ? なになにユッキーって私に会いに来たってのは建前で獅鳳に気があるわけ!? ヒューヒュー堅物だと思ってたのにやるじゃない獅鳳! で?で?どこ2人はどこまで仲が進展してるの?」


「ち、ちがうってばー! 私まだお付き合いだとかに興味なんかないんだから!」


ユキルは絵里洲のおもちゃになりそうなのを恥ずかしがり、一瞬で魔法少女に変身して空飛ぶステッキに乗って逃げていった。


「あいええーえ!? 魔法少女!? なんで魔法少女? 夢見てるの私? 獅鳳ちょっと私のほっぺつねってみて!」


獅鳳は思いっきり絵里洲の両頬をつねった。


「痛い痛い! もういいよありがとう」


頬をさすりながら絵里洲は立ち上がった。


そして、兄のもとに駆けつける。


「アホ兄貴〜! 聞いて聞いて! アホアニキが連れてきたユキちゃん


魔法少女に変身したのよ!」


「おう、ちなみに俺は変身ヒーローアーレスタロスだ!」


そう言って、狗鬼漢児は妹の前でアーレスタロスに変身してみせた。


(あいえええ?私の憧れ変身ヒーローアーレスタロス様がうちのアホ兄貴?あれ?あれ?なんで?)


現実離れした情報量の多さに脳がパンクしたエリスは「はう!」と一言つぶやいて気絶した。




その晩、狗鬼一家は家族会議をした。


母優乃、兄漢児、妹絵里洲、居候の獅鳳の4人による家族会議だ。


議題はもちろんユキルについてである。


「というわけで、明日からあの娘をこの家にしばらく泊めることになったからみんな仲良くするように」と兄漢児が言うと、一同拍手をして歓迎の意を表した。


「それで、お兄ちゃん、あの子のことどう思う?」


と妹絵里洲が質問すると、兄は少し考え込んだ後こう言った。


「あの子はお前が一人前の魔法少女になれるよう修行をつけてくれるそうだ。絵里洲面白そうだからお前魔法少女になれ!」


妹は一瞬固まったあと、怒りをあらわにして兄に殴りかかった。


しかし、拳は空を切り、妹はそのまま床に倒れた。


妹のパンチをかわした漢児は妹を抱え上げ、優しく諭した。


「落ち着けよ絵里洲、お前の気持ちはわかるがこれはチャンスだ、あのユキルとかいう娘と一緒に特訓すればお前は必ず立派な魔法少女になるはずだ。そして俺と同じようにユキチューブ配信で生活費を稼げ! そしたら俺達の晩飯の献立が一品豪華になる!」


妹はしばらく沈黙した後、ポツリと言った。


「・・・わかったわ、お兄ちゃん、私魔法少女になる! そしたらアイドルみたいにテレビに取り上げられて、みんなにもちやほやされて勝ち組の人生を送れるのよね? 夢のセレブ生活を手に入れることができるわよね!?」


その後、母兄妹たちは4人で今後のことを話し合った。


話し合いの結果、とりあえず3週間ほどは今まで通り普通の生活を送りつつ、その間にできる限り魔法少女になるための訓練をするということでまとまった。


翌日、さっそく訓練が始まった。


まず、魔法少女とは何かということから始まり、変身ポーズや決め台詞など細かな指導を受けた。


変身しなくても一応魔法自体は使えるので、ひとまず基本的な魔法をいくつか教えてもらうことにする。


まずは水系の魔法で小さな水の玉を出してみた。


「さすが青の魔法少女! もうウォーターボールを出せるようになった」


ユキルに褒められてエリスは目を輝かせながらその水の玉を見つめていた。


次は雨雲を呼び雨を降らす呪文に挑戦してみた。


成功だった。


「うーん、まあ最初はこれくらいかな?」


エリスの魔法少女の才能はなかなかのものらしくユキルは成長の早さに満足していた。


「ちょっと待って!! これじゃあ私が風邪ひいちゃうじゃない!!!」


一瞬何のことだと思ったが、すぐに気がついた。


「ごめん、確かにこれじゃずぶ濡れな上、衣装が透けてパンツもブラも丸出しだよね、配慮が足りなかったよ」


兄漢児はゲラゲラ笑い、獅鳳は恥ずかしそうに顔を背けている。


「うん、ここまできたら巨大ロボアーレスタロスをそろそろ招来できるかな?」


エリスは自信満々といった様子で頷いた。


「よし、それじゃあいくぞ、『いでよ!アーレスタロス』」


すると巨大なロボが現れた。


しかしその姿はあまりにも大きすぎたため、出現した途端に家の屋根を突き破って家を半壊させてしまった。


幸いにも周りには誰もいなかったため被害はなかった。


ロボのサイズは20メートル


ロボを見たとたん、獅鳳が突然興奮し始めた。


「すごい!なんてかっこいいロボなんだ!?こんな大きいロボット初めて見た!」


ロボが動き出すたびにキャッキャッとはしゃぎ回る獅鳳を見て、漢児は思わず笑ってしまった。


その後、今度はロボに乗り込んだ獅鳳だったが、乗り込む際に操縦席の後ろにある培養ケースみたいなカプセルの中にエリスが裸で浮かんでるのを見てしまい鼻血を出して卒倒したのはご愛嬌である。


とりあえず、巨大ロボアーレスタロスによる飛行訓練を行った後、エリスは機神招来を解いた。


機神招来を解いてから、ふと彼女は自分の服装を見直した。


今の彼女はロボに乗り込む前まで着ていた服ではなく、学校の制服を着ていたのだ。


(あれ?変身する前は確かパジャマ姿だったのにいつの間に着替えたんだろう?)


不思議なこともあるものだと思いながら、家に戻ることにしたのだった。

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