第8話 乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-4

それから数日後、再びあの怪人がやってきては撃退し更にまたやって来ては撃退する。


そんな日々が1年近く続いた。


おかげで俺はアーレススーツの力を大分使いこなせるようになっていた。


そして今日もまたボマーはやってくる。


今度はいつもよりも大人数を引き連れてやってきたようだ。


「ふははは!青の勇者よ!今日こそ決着をつけてくれるわ〜!」


「かかってこい!」


「今日は一味違うぞ〜! いでよ我が最強の軍団たち!」


そういうと、地面が割れて中から大量の戦闘員が出てきた。その数およそ100体! さらにその中から一人の少女が歩み出てきた。


「うーははは! 我が名はユキル! ドアダ7将軍が1人! 桜色の魔法少女プリティ・ユキル・ドアーダなり! さぁ我を倒してみるがいい!」


そう叫ぶと、ユキルはピンク色のフリフリ衣装を着た魔法少女へと変身した。


今のユキルはいかにも魔法少女といった風貌をしていた。


見た目は朝イチアニメでやる正義の味方魔法少女なのだがどうやら、彼女は一応悪の組織ドアダの7将軍の1人らしい。


「いくぜ! ユキルちゃん!」


俺は、一気に距離を詰めると、パンチを繰り出そうとする。


だがその前にユキルは懐から白い色紙を出すと俺にお願いした。


「あ、ちょっと待って! クラスの友達にあなたのファンの子がいるから先にサイン色紙ちょうだい! その後から戦闘続行ね。」


「う、うぬぅ?調子くるうなぁ」


ぶつぶつ言いながらも俺は素直にサインを書いてユキルに渡した。


ヒーローはファンを大事にするものなのだ。


「ありがとう〜♡これ宝物にするね♡」


そう言いながらユキルは色紙に頬ずりすると、それを大事そうにしまってから改めて構えなおした。


「よーし、それじゃいっくよ〜!」


ユキルはそう言うと俺に向かって桜の木で出来たステッキを振りかざした。


「顕現せよ、聖弓ユグドラシル」


魔法ステッキが弓の形に変形する。


「機神招来封獣ユグドラシル!」


次の瞬間、あたり一帯に光が満ちたかとおもうと、無数の光の矢が出現し一斉に地面に降り注いだ。


光のまぶしさに目を閉じる。


目を開けると、目の前にはピンク色、いや赤紫色の巨大ロボがあった。


それはまるでロボットアニメに出てくるようなデザインをしていた。


全体の色はピンクと赤紫を基調としており、胸にはハート型のコアが付いていて、頭にはそれぞれうさ耳を模したパーツが付いていた。


背中には大きな翼が生えており、その羽ばたきによって突風を巻き起こしていた。


その巨大ロボの胸の装甲が開き、中から一人の少女が姿を現した。


少女はわざわさ中で着替えたのかピンクのフリフリドレスの上に黒いマントを羽織り、悪の女幹部よろしく仁王立ちしていた。


「んフッフー!これが私の封獣ユグドラシルだよ! さぁ、お兄さんも封獣アーレスタロスを招来しなよ!」


「イヤイヤイヤイヤ! 俺巨大ロボなんか持ってねーから!」


「何言ってるの? お兄さんの持ってるその変身ベルトは封獣だよ? お兄さん位の強さなら単独で封獣招来が使えるはずだけどなぁ?」


そう言ってユキルは首を傾げている。


どうやら俺が変身しているのはただのコスプレではないらしい。


しかし俺はそんなもの持っていないぞ?


「あ、もしかしてまだ気がついてない? その腰についてる変身ベルトが封獣なんだけど……ほら、ここ見てみて?」


ユキルはそう言って俺の腰を指差した。


そこには確かにバックル部分が紋章になっている。


蒼い狼の紋章のようだ。


「封獣は全部で12体あってそれぞれ干支に因んだ霊獣の力が封じられてるんだって。お兄さんの封獣は狗、狗の霊獣の力を魔改造した<蒼い狼アーレスタロス!>ちなみに私のはウサギ! 桜の兎姫ユグドシラル! そうだ、お兄さんが巨大ロボを招来できるように私が手伝ってあげる! だってお兄さんが巨大ロボ召喚できないと私の巨大ロボとロボット対決できないもん!」


「はぁ?なんでそんなことする必要あるんだ?」


「え? だって巨大ロボ対決だよ? 燃えてこない!? ぶつかり合う巨大ロボの豪腕と豪腕! ユキチューブにアップしたら再生数爆上がりだよ!! ロボ対決って燃えない? ねぇ燃えない!?」


「はぁ? そんなもんクッソ燃える決まってんだろ! やろう! ぜひやろう!!」


「くぅ~~っ! やっぱお兄さんわかってるぅ!!」


ユキルはいたずらっ子のように目をきらきらさせ喜んだ。


「ロボ同士の殴り合いは男のロマンだ! ロボ最高!!」


「じゃあ巨大ロボで決着つけよう! ロボファイトォ!!」


「おう! ロボファイトだな!!」


ユキルと漢児の盛り上がりにボマーと戦闘員達も同調してロボファイトを連呼していた。


どうやらこの場にいる人間は皆同じ種類の馬鹿野郎らしい。


「じゃぁお兄さん、お兄さんの封獣を招来するからヘルメットを取っててホッペの素肌を見せて。」


「あん? なんでそんなことする必要あるんだ?」


「機神召喚の儀式だよ儀式! 自分で封獣を巨大ロボ化できない勇者は魔法少所のキスで臨時で巨大ロボの力を顕現できるんだよ! 巨大ロボ招来は魔法少女も勇者もすごく疲れるから3分がタイムリミットだけどね!」


「わかったぜ」


漢児は素直にメットを外しほっぺを差し出す。


「うりゃっ」


チュッ 軽くキスをしてみたが特に何も起きない。漢児は不思議そうに首をかしげる。


「あれぇ? おかしいなぁ、魔力が足りないのかな? それとも私が女の子として魅力がないからかな?」


少し落ち込んだようにうつむくユキルを見てボマーは慌ててフォローをする。


「ユキルお嬢様ユグドラシル! ユグドラシル! 封獣ユグドラシルを顕現したままです! 封獣顕現は二人がかりでも一体顕現できるかどうか! ユグドラシルを顕現させたままもう一体巨大ロボを顕現させるのは無理があります!」


「あ、いっけなぁい! よし、引っ込めユグドラシル!」


赤紫のロボットは光に包まれ虚空に消えていく。


「そっかー、そうだったかぁ~でもまぁいいや、お兄さん、準備ができるまであと10秒くらいだからちょっと待ってね、うりゃっ」


ちゅっ 再びほっぺにキスをされる。


「……これでよしっと、もういいよ、ありがとうお兄さん!」


「どういたしまして、それでどうやってこのデカブツを呼び出せばいいんだ?」


「えっとね、まずは起動呪文を詠唱してそれから……」


ユキルの説明によるとこうだ。


1、まず自分の魔力をベルトに流し込み蒼い狼っぽい人型巨大ロボをイメージする。


2、周囲に被害が出ないようロボに安全フィールドを形成させる。


3、次に自分の魔力を使って機体を操作する 。


4、最後に必殺技を放ってかっこよく立ち去る!


以上!


「うん、分かった」


俺は早速、言われたとおりにやってみることにした。


「それじゃいくよー! 我、汝と契約せし者なり! 今こそ契約に従い我が前に姿を現せ! いでよ! 蒼き狼! 戦神アーレスタロス!」


するとロボが光を放ち次の瞬間には巨大なロボットが立っていた。


大きさ的には20メートルくらいだろうか。とにかくでかい!しかもかっこいい!


「うおおおおおお!!!」


俺が興奮してると突然頭に声が響いた。


そして俺以外の周りの人間が、時間が止まったように動かなくなった。


(やあ、漢児くん)


「うわっ!?なんだ!?」


(ああ、すまない驚かせてしまったかな、自己紹介がまだだったな私の名前は戦神アーレスタロスだ。よろしく、と言ってもヒーロースーツを介し君に何度か戦い方を伝授してるはずなんだけど…)


「ああ! もしかしてあの機械音の! おう! こちらこそよろしくな!」


(はは、君のその気っぷの良さ母親のユノさんにそっくりだな。)


「ん? お袋のこと知ってんのか? イヤイヤ、それよりその戦神さんが何の用だ?」


(うむ、実はな君に伝えなければならないことがあってね……)


「伝えなきゃいけないこと……?」


(そうだ、最悪の魔女エクリプスの復活が近い。女神ユキルが目覚めだしたのがその兆候だ。スラルという異世界の戦乱事情が端を発する問題だが、これは君たちの住む地球の存亡にも関わることだ。エクリプスが復活すれば全ての宇宙、全ての人類が滅亡することになる。それだけは何としても阻止しなければならない)


「エクリプス?」


(そうだ、15年前に5組の勇者と女神たちによって倒された魔女達の頭目の名だ)


「その魔女が復活しそうなのか? 俺はその魔女に対抗できる勇者ってわけなのか?」


(その通りだ、そして今、スラルに再び戦乱が起きようとしている)


「スラルが動き出すってどういうことだ?」


(スラル覇権を巡り各部族の王達がもうじき戦争を起こす。戦争で犠牲者がでたらエクリプスは戦死した死者の魂や負の感情を吸収し力を取り戻していく。エクリプスはあらゆる宇宙のあらゆる人類を憎んでいる。アレの放つ呪いに分別はない。人と呼ばれるカテゴリーの存在は全ての智と理性、人としての姿を奪われ皆化け物になる。わかりやすく言うとエクリプスが復活したら地球人は全員ゾンビ映画のゾンビになってしまうと想像してくれ。)


「なんだって!! つまりそんなことになったら地球滅亡じゃないか!」


(そうだ、地球だけではない、すべての世界のヒト種が滅びるだろう)


「だったらなんでもっと早く教えてくれなかったんだよ!」


(それはできないのだ、何故なら君はまだ覚醒していないからだ)


「え……? どういうことだ?」


(君にはまだ正式なパートナーがいない。勇者が巨大ロボ化した封獣を扱うには大抵の場合、女神ユキルと仮契約するか同じ属性の魔法少女の協力がいる。君の相方となる青の魔法少女を見つけるんだ。今はまだ未完成の君では私の力は引き出せない。君の覚醒を促してくれる青の魔法少女を見つけるんだ)


「そいつは何処にいる?」


(君の家にいる。君の妹エリスだ。と言うより君の母ユノは15年前7罪の魔女エクリプスと戦った青の魔法少女だった。ユノの娘ならきっとユノと同じように魔法少女の力を持っているはず。実はユノの昔の仲間である地の魔法少女アタラがエクリプス復活の予兆を感じとり、黒天ジャムガに依頼して戦神帯アーレスタロスをユノの元に送り届けようとしてたんだ。)


漢児は自分に変身ベルトを渡してくれたグラサン男を思い出す。


「ああ、ジャムガが俺に戦神帯をくれたのはそう言う裏があったんだな。とりあえず帰ったらお袋や妹に今日のこと話してみるよ。」


(それがいい。そしてユキルについてだが今日会ったユキルちゃんの事を必ずユノに知らせるんだ。ユキルは今記憶を奪われドアダに囚われている。今は優遇されているが奴等はユキルをエクリプス復活に利用するだろう。今代のアーレスよ! どうか女神ユキルを助けて欲しい。)


そう告げるとそれきり封獣の声は聞こえなくなった。


そして先程まで顕現していた蒼い巨大ロボも光に包まれ消えてしまった。


光が消え動くようになったユキルがキョロキョロと辺りを見回す。


「なになに? 何が起こったの?」


どうやら俺とアーレスタロスとの会話はユキル達には聞こえていないらしい。 


「えーっとだ。さっき青いロボの声が頭の中に聞こえてきたんだが、そのロボが言うには巨大ロボを乗りこなすには俺は正式なパートナーを見つけないといけないらしいんだ。どうやら俺の妹が青の魔法少女でパートナーの資格があるらしい。」


「ほうほう!」


「それでだ。これから青の勇者として戦うために色々準備が必要になりそうだ」


「なるほど!」


「つまり簡単に言うと巨大ロボ対決はもう数日待って欲しい。ちょっくら妹に青の魔法少女になってもらうよう頼んでくる。」


「お兄さんの妹さんて魔法少女だったの?」


「今はただの一般人だ。けど俺みたいに戦神帯を介したら魔法少女の力に目覚めるかもしれない。」


「ハイハイハーイ! 私も青の魔法少女に会ってみたい! 今度お兄さんの家にご招待して!」


「ああいいぜ、明日にでもウチに来るか?」


「うん♪」


こうしてこの日は解散となったのだった。




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