第7話 乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-3

俺の名前は狗鬼漢児


本名じゃない。


とあるプロレスラーのポスター見て思いついた偽名だ。


それは今から1年前のことである。


ある夏の日のことだった。


その日、俺は家族と一緒に山へキャンプに来ていた。


テントを張ってバーベキューの準備をしている時だった。


突然あたり一面が真っ暗になり、同時に轟音が鳴り響き地面が大きく揺れたのだ!


突然の事に、みんなパニックになった。


しかし揺れはすぐに収まった。


一体何が起こったんだ?


俺たちは家族と手分けして付近を探索することにした。


すると近くの茂みの中からうめき声が聞こえた。


そこには大きな岩があり、黒い覆面をした戦闘員みたいなコスプレをした男が下敷きになっていた。


下敷きと言うよりは運良く岩と岩の隙間に挟まっただけの状態だ。


男は怪我をしたのか気絶してる風だった。


かわいそうに思った俺はその岩をどけてやることにした。


だが予想以上に重くてなかなか動かない。


俺が苦戦していると、後ろから声がかかった。


「おい、お前何やってんだ」


振り返るとそこにいたのは同い年くらいのサングラスをかけた男だった。


全身黒ずくめのヤクザみたいな雰囲気の男だ。


「いや、この岩をどかそうと思ってさ」


「そんなのほっとけ、そのうち誰かが助けてくれるだろ」


「そういうわけにはいかないだろう、この岩が倒れて潰されちまったらどうするつもりだ」


「知るかそんなこと」


「とにかく手伝わないならあっちに行ってろ」


「ちっ、わぁったよ」


そういって男はどこかへ行ってしまった。


ガラの悪いヤツだ。


それから少し経ってようやく岩を動かすことができた。


そこで改めて周囲を見回すとそこはまるで地獄のような光景が広がっていた。


あちこちから煙が上がり、あちこちに倒れている人がいる。


怪我人もかなりいるようだ。


見れば、皆、俺が助け出した黒覆面戦闘員のコスプレをしている


いったいここで何が起こったのだろうか……?


そんなことを考えているうちに救助隊がやってきたようだ。


彼らは手際よく怪我をした人を担架に乗せて運んでいく。


俺もそれに協力しようとしたが、何故か止められた。


何でもまだ危険かもしれないから近づかないほうがいいそうだ。


まあ確かにそうかと思いその場を離れることにした。


しばらく歩いているとまたあのグラサン男が声をかけてきた。


「よう、どうだった?」


「どうもこうもひどい有様だよ」


「そうなのか、ところでお前は大丈夫なのか?」


「大丈夫って何がだ?」


「だって爆発が起きた時に近くにいたんだろ、何か影響とかないのか?」


そういえばさっきの地震で転んで擦りむいたくらいで他には特に何もないな。


「別に何ともないよ、そっちはどうなんだ」


「ああ、俺様は大丈夫だぜ、頑丈だからな」


そう言って彼は力こぶを作って見せた。たしかにすごい筋肉だ、こいつ結構鍛えてるな……


その後俺達は色々な話をした、お互いの事や自分の事についてだ。


彼の名前はジャムガといい、なんとこことは別の世界から来たという。


しかも魔法が存在するファンタジーな世界のようだ。


そして彼以外にも何人か来ているらしい。


彼らとは今も連絡を取り合っているらしく、たまにこっちに遊びに来ることもあるそうだ。


ちなみに彼も元の世界では格闘技をやっていたそうで、俺の趣味に興味を持って色々聞いてきたりした。


そうやって話しているうちにすっかり打ち解けることができた。


ふと気が付くと日が傾きかけている、そろそろ帰る時間だな……


「それじゃあ俺はもう行くよ、楽しかったよありがとう」


「おう、こっちこそいい暇つぶしになったぜ、じゃあなアンちゃん。」


そうして別れようとした時だった、突然地面が大きく揺れだしたかと思うと轟音とともに巨大な何かが姿を現したのだ!


それはまるで恐竜図鑑で見たティラノサウルスのようだった。


しかし大きさが尋常じゃない、軽く20メートル以上はあるぞ! そいつは俺達を見つけるといきなり襲いかかってきた!


「危ない!」


とっさに彼を庇うような形で前に出る!


するとそいつは大きく口を開けて俺を一飲みにしようとした!


ああ、これ終わったな……せめて彼女くらいは作りたかったなぁ……


などと諦めかけた瞬間だった!


バシュッ!


何かが風を切るような音がしたと思ったら、そいつの体は真っ二つになっていた!


何が起こったのか全くわからなかった、あまりにも一瞬の出来事だったので頭がついていけない、今起こった事をありのまま話すぜ!


俺が食われると思ったその時、ジャムガがそこらの土産物屋で買った木刀でティラノサウルスをぶった切ったのだ。


間違いなく土産物屋の木刀だ。


店のタグがついたままだった。


あまりに非現実的な出来事に唖然としていると、彼は俺に話しかけてきた。


「大丈夫か?」


「ああ、大丈夫だ……」


なんとか返事を返すことができた、それにしても今のは何だったんだ……? それからしばらくしてやっと頭が働き始めたので、彼に聞いてみることにした。


「さっきのアレはいったい何なんだ……?」


そう聞くと彼はこう答えた。


「あれはまぁこの世界における最強生物さ、名前は確か……ティラノザウルスだったか?」


うん、まぁこの時代に復活したあれはこの世界の最強生物だろう。なんか20メートル以上あったが•••いやいや聞きたいのはそこじゃない!そんな奴を木刀一本で倒してしまうなんて一体こいつは何者なんだろうか……そんな事を考えていると、彼が口を開いた。


「まあ、そんなことより早くここを出ようや」


どうやら彼も俺と同じことを考えていたようだ。


そして俺達はすぐにこの場を後にしたのだった。


------


あの後、彼と一緒に家に戻ったのだが、案の定大騒ぎになった。


そりゃそうだろう、ティラノサウルスが出たのだから。


結局その日は警察やらなんやらが来て大変だった、もうあんな思いはしたくないものだ……


俺が落ち着きだしたころジャムガが声をかけてくれた。


「気をつけなアンちゃん、ああいうのがあとしばらくお前さんを襲う予定らしい。まぁパチンコ代恵んでくれんなら俺様が守ってやったっていいぜ?」


そんないことを言いながら金をよこせと手を出している。


なぜこんなことになったのかさっぱりわからない。


だが一つだけ言えることがあるとすればそれは……


「おうジャムガよ! 俺だって漢のはしくれだ。姫様よろしく守ってもらうなんざぁ漢のプライドがゆるさねぇ!てめぇの命はてめぇで守らぁ!」


……ってまあ、そう言いながらも俺にはジャムガみたいな恐竜を真っ二つにする力はないってことはわかってる。


だから俺はジャムガに頭をさげた。


「パチンコ代だろうが何だろうが払って見せるから、さっきあんたがティラノを真っ二つにした技を俺に伝授してくれ!」


直角に頭を下げたまま俺はジャムガの返事を待った。


すると彼はこう言ったのだ。


「おいおい頭ぁ上げなよ、悪ぃがあれは俺の家に伝わる秘伝の奥義でよう、ちょっと教えるのはまずいんだわ。…そうだな、お前さん変身ヒーローってやつになってみねぇかい?」


「へ?……変身ヒーローってなんだよ?」


「俺の雇い主からこいつを預かってる。お前さんが自分で自分の身を守りたいって言ったらこれを渡してくれって頼まれてる。戦神帯アーレスタロスって言うらしい」


「戦神帯…変身ベルトみたいだな…」


「ま、とりあえずつけてみな」


そう言われたので俺は腰に巻いてみた、意外と軽いんだなこれ。


そしてそのまましばらく待っていると俺の体が光り始めた。


「うおっまぶし!」


思わず目をつぶってしまったが光が収まったので目を開けるとそこには青い鎧を着た騎士が立っていたのだった。


「お、おお……すげぇ……力があふれてくる……!」


「そいつの名前は戦神帯アーレスタロスって言ってな、お前さんのイメージに合わせて変化するようになってるらしいぞ」


「へぇ~そうなのか、どれどれ……?」


試しに手を前に突き出してみると、そこからビームが出てきたではないか!


「うぉおおお!? なんだこりゃ!?」


「そいつはお前さんの必殺技さ。」


「す、すごいじゃないかこれは!よし、さっそく使ってみるぜ!」


『必殺!』


「うおぉおおおおおおおおおおお!!!!」


俺が叫ぶと同時に全身からすさまじい力が溢れてきた! そしてそのまま勢いよく飛び上がり、近くの岩山に向かってパンチを叩きこんだ!するとその拳圧だけで大爆発が起きたのだ!


「……すげえ威力だな……この力はどこから来てるんだ?」


「さぁ?俺もよくわかんね?まあ気にすんな!とにかくこれでお前は今日から無敵になったわけだ!やったじゃねぇか!ちなみにお前の技名は超鉄拳アーレスブレイクだ。名前はさっき読んだ漫画を参考に適当ーにつけた。じゃ、そういうことで後は頑張れよ。じゃあな!」


そう言って男は去って行った。


「いやちょっと待て!名前はともかくどうやって使うのかとか色々教えてくれぇえええ!!」


そんな叫びもむなしく男の姿は見えなくなってしまった。


まぁいい、使い方はそのうちわかるだろう。今はとりあえずこの力を試してみたい。そう思った時だった。


【警告します】


突然頭の中に声が聞こえてきた。それはまるで機械音声のような声だった。


【これより半径20キロ圏内における戦闘行為を禁止いたします】


「……ん?おいどういうことだ?」


【これからあなたはあなたの敵と戦うことになりますが、あなたが敵を倒すたびに周囲の地形が大きく変わってしまいますので、戦う場所を指定させて頂きます】


どうやら俺の力の制御が上手くできていないせいで周囲に被害が出てしまうようだ。俺は仕方なくその場所に向かうことにした。


そこは街の外れにある小さな草原だった。ここなら人も来ないし大丈夫だろう。そう思って待っていると、遠くから何かがやってくるのが見えた。


(あれはなんだ……?)


それはいつぞやの黒覆面戦闘員達の集団だった。


集団の先頭には禿頭のいかつい大男がいる。


右手に巨大なバルカン砲を装備したサイボーグみたいな風体だ。


挿絵(By みてみん)


「ぬはははは我輩はドアダ7将軍が1人、サイボーグレスラー・キャプテンダイナマイトボマーなり! 黒天ジャムガよ。いざ我と正々堂々勝負せよ!」


そう言うとそいつはいきなり俺に飛び蹴りを放ってきた。


「うわわっ」


間一髪かわす俺だったが、なんとその攻撃の余波で地面が抉れてしまったではないか。なんてパワーだ……。


攻撃を避けたあとそいつは言った。「ん? あれ? ジャムカじゃない? 誰だお前は? 黒天はどこに行った?」


「あいつなら、俺にヒーロースーツを渡してどっか帰っていったぜ」


「ぬはははは黒天め、さてはこのキャプテンダイナマイトボマー様に恐れをなして逃げていったな!」


「いやあいつはそんな奴じゃねえ」


「いいや、そんな事あるね! だって我輩ドアダ7将軍の一人だもん。ふん、まあよいわ。見れば貴様青の勇者だな? ちょうど良い。貴様もスカウトしてくれる! さあ、かかってこい! 貴様を倒し我が軍の仲間に加えてやろう!」


「生憎だが断る」


「なんだと? ならば力づくでも言うことを聞かせてやるまでだ!」


「行くぞ。キャプテンダイナマイトボマー! このアーレスタロスの力見せてやるぜ!」


俺はハイテンションになり、ノリノリで戦闘ポーズをとった。


「ぬはははは、吠えるな小僧! いや、青の勇者アーレスタロス!! ドアダ7将軍が1人Dynamiteボマーの力! とっくとその身で味わえい!」


サイボーグのハゲ男もノリノリで口上を上げる。


奴はミサイルランチャーを取り出して連射してくる。


俺は素早く身をひるがえして回避したが、何発か被弾してしまった。


「ぐはっ!?」


「どうだ参ったか!」


まずいな。このままだとやられてしまう……。


ここは逃げるしかない? イヤイヤ、そんなダサイ真似は俺の美学に反する。


なんとかこいつを倒す方法を考えなければ。


そうこう考えていると、頭の中に例の機械音が聞こえ、俺にアドバイスをくれた。


『新しい必殺技のご使用をお勧めします』


え!? そんなのがあるのか? じゃあ早速使わせてもらおうじゃないか。しかしどうやればいいのかよくわからないのでとりあえず叫んでみた。


「必殺!!漢の鉄拳ドリルパ〜〜ンチ!!」


ドガアァァァァァンッ!!!!  すると突然巨大なパンチが現れドリルのように回転して敵に命中したのだ! 敵はぶっ飛び岩壁にめり込んだ! やったか!?と思ったが、相手はすぐに壁から出てきてこう言った。


「ぬははは! なかなかいい攻撃をするじゃねえか。褒めてやるよ。でも我輩には効かなかったようだな〜残念でした〜」


クソッダメだったか……こうなったら最後の手段、超鉄拳アーレスブレイクを使うしかないのか……


これはかなり体力を消費するが仕方ない!俺は大きく息を吸い込み叫んだ!


「いくぞぉぉぉぉっ!!うおおおぉぉっ!!!」


「ぬはははは! くるか! よかろう我輩もこの右手のバルカンで応戦してくれよう!」


そう言って、右手のバルカンを構えたダイナマイトボマーの体から煙が立ち上がりだした。


「ん? あれ?」


ボマーの機械の体がパチパチと火花を上げる。


「あれ? あれれ?」


どっかーん!


激しい爆発音とともにサイボーグの体は爆発四散した。


「おいおいドリルパンチしっかり効いてたんじゃねーか!」


ごろごろとボマーの生首が転がる。


その生首を戦闘員たちが慌てて拾う。


生首の状態のままボマーは俺に悪態をついてきた。


「うぬ〜、今日のところは引き分けにしておいてやる! プロレスは3本勝負がデフォだこのやろう! 次会う時がお前の命日だからな! ゔぁーかゔぁーか!!」


ひとしきり悪態をついた後、生首のボマーは戦闘員に抱えられたままブザマに逃げていった。


ほとんどの戦闘員が去った後、小柄な戦闘員が漢児にスマホを見せ尋ねた。


「すみません。先程の戦闘を撮影したのですがネットに上げてもいいですか?ユキチューブ配信動画です。報酬はもちろんお支払いします。あ、自分はドアダ広告部臨時社員戦闘員895号といいます。」


そう言ってその戦闘員は名刺を出した。


「え?あれ?さっきのはテレビの撮影かなにか?あれ?でもあのハゲ頭が使ってたのは本物のミサイルランチャーだったよな?」


「あ、はい、本物です。たしかに我々ドアダは世界征服を企む悪の秘密結社ですが、ここ地球の侵略に関しては平和的に世界征服をしようという方針だそうです。」


「え?そんな事出来んの?」


「さあ? とりあえずトップの方針としては、地道に地域活動を経て人気者になってアメリカ大統領になろうというのが第一目的だそうです。」


「は、はあ…」


なんか変な悪の秘密結社だなと漢児は思った。


「その活動の一環に先程のヒーロー対決の動画を使いたいのですがご許可は頂けるでしょうか? あ、これ報酬金額です。」


「うお!?こんなに!!是非もなし!使ってくれ!!」


「あ、もしよければ今後一月週間に一回のペースで動画撮影に協力してくれませんか?報酬は今回と同額のモノをしはらいます。」


「マジで!?よし、その仕事受けた!!」


これが変身HEROアーレスタロスと悪の組織ドアダとの戦いの始まりだった。




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