第5話 乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-1

第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス




数多くの疑問は残ったが空間転移は終わり邪神ナイアルラトホテップは古巣の基地に戻ってきた。


悪の秘密結社ドアダ


人体改造で怪人を作り世界征服の野望の道を進む悪の組織。


地球から遠く離れたとある惑星にドアダの秘密基地がある。


そう、邪神は悪の秘密結社に帰還したのだ。


「ナイア様、お帰りなさいませ」


ナイアの帰還に出迎えたのは、自分と同じ組織の大幹部、人型アンドロイドのイブだった。


「ああ、ご苦労」


ナイアはねぎらいの言葉をかけながら、腕に抱えた神羅を見る。


「神羅を頼む」


「はい、わかりました」


イブは神羅を受け取ると奥の部屋に連れていく。


「さて、羅漢はどうするか……」


放っておいても死ぬが、彼の戦闘能力は惜しい。


だが、未熟な神羅や雷音と違い、魔法防御力の高い羅漢は洗脳魔法で洗脳するのは難しい。


「仕方ない、改造手術で怪人に改造するか」


ナイアに引きずられてる羅漢は全身から血を流しながら気を失っている。


「この男を手術室へ運べ」


「はい!」


黒タイツの戦闘員達が羅漢をかつぎ手術室へ向かう。




「……ん」


ふと、意識を取り戻す羅漢。


「ここは……?」


自分は今どこにいるのだろう? そんなことを考えていると頭に何かが被せられる。


目隠しされたようだ。


「誰だ!ここはどこだ!?」


声を荒げる羅漢だがすぐに異変に気付いた。


声がおかしい。


それに体の感覚がいつもと違う気がする。


まるで自分の体が自分の物じゃないみたいだ。


「まさか……!」


嫌な予感を感じ取り慌てて手足を動かす羅漢。


しかし、ガチャガチャという金属音がなるだけで一向に拘束は解けない。


「……くっ!この状況はまずい!!」


このままでは間違いなく改造されるだろう。


いや、すでにされているのかもしれない。


なんとか脱出しないと……! そう思った時だった。


『目覚めたようだな』


頭の中に声が響いた。


テレパシーだろうか。


『おまえをこれから怪人にする。抵抗しなければ命だけは助けてやろう』


「ふざけるな!丁重に断らせて頂く!」


そう答えると同時に全身に激痛が走る。


「ぐぁあああああ!!!」


痛い、熱い、苦しい、様々な苦痛が羅漢を襲う。


そして痛みが消えると共に自分の中にあった大事な何かが失われていく感覚に襲われる。


「ま、ず、い!!」


悲痛な叫びも虚しく再び意識が途切れるのだった。


数時間後、手術室に運び込まれた男が目を覚ます。


男はゆっくりと体を起こすと辺りを見回す。


「……私は一体?」


自分が誰なのか思い出せない。


名前も年齢も家族も友達のことも何一つ思い出せないのだ。


ただ一つ覚えていることは、とても大切な事を忘れているという事だけだ。


「く!思い出せない……」


苛立ちをぶつけるように壁を殴ると手が痛む。


どうやら自分は怪我をしているらしい。


包帯が巻かれた腕を見ながら男はため息をついた。




「首領閣下、7将軍ナイアただいま帰参いたしました。」


豪華な椅子に腰掛ける首領にナイアは深々とお辞儀する。


首領の側には他の7将軍達も参席していた。


盲目の剣闘王スパルタクス、狂乱道化ヨクラートル、戦闘アンドロイド-イブ・バーストエラー、蛇王ナイトホテップ、サイボーグレスラー-キャプテン・ダイナマイトボマー。


後一人の七将軍は自分が封印されている間死んだらしく空席だ。


「帰還ご苦労ナイア。よくぞ戻った。早速で悪いがお前が連れてきたユキルの生まれ代わりだという娘の事が聞きたい」


黒紫の衣装を着たドアダ首領が椅子から立ち上がりナイアに近づいていく。


「お前の事だ。あの娘をここに連れてきた後、ドアダに忠誠を誓うよう絶対服従魔法契約書を書かせたのだろう?」


「はい。確かにユキルの生まれ変わりだと確信しておりましたので、私の下僕として働かせるべく連れて来ました。今はまだ心労で寝込んでますが明日からでもドアダの下僕として洗脳すべく教育プランを練ってるところでございます。」


ナイアの言葉にドアダ首領は満足そうに頷く。


「勤勉だな。それよりあの娘が女神ユキルの生まれ変わりだというのは絶対に間違いが無いのだな?」


「ええ、あの因縁深い女神の事を私が見間違えるわけがありませんわ。あの顔といい立ち居振る舞いといい、全てが転生前の彼女そのもの。DNAの鑑定結果も同一人物と判定がでてます。間違いなく女神ユキルそのものでしたわ。もし彼女が本物なら私以上の天才魔女ですわよ?」


(それになんといっても私の嗜虐心をそそるまなざしと綺麗なモノを信じているいい子ちゃんな性格♡ ああ、早くあの子を忠実な奴隷に調教してあげたい!下級戦闘員達のオモチャにしてしまおうかしら?それとも魔物の苗床?家畜として飼うのもいいわねぇ、ああ、明日からが楽しみだわあ!)


うっとりと頬を染めながら妄想に浸るナイアを見て、他の将軍達は皆一様に呆れた表情を見せる。


「わかった、もう下がってよいぞナイア」


首領は穏やかな表情で笑顔を浮かべナイアを労う


「はい、では失礼いたしますわ♪」


スキップしながら退室していくナイアを尻目にドアダ首領は再び椅子に座ると目を閉じた。


「みな下がれ」


他の将軍達も下がらせ彼は一人部屋に残りじっと目を閉じた。


(やはりあの娘は女神ユキルの生まれ変わりだったか)


目を閉じていてもわかるほどの圧倒的な魔力量、そして転生前と一寸たがわぬ顔立ち間違いなくユキルだ。


(皮肉なものだ。まさかこんな形で失ったあの娘が私の元に帰ってくるなんて)


思わず思い出し泣きしそうになるのを必死に堪え、再び目を開けたときにはすでに先ほどの穏やかな笑みとは打って変わって、鬼のような怒りの形相を浮かべていた。


「ナイアめ! 何が7将軍だ! 邪神ごときが! ワシの孫にナニする気だった!?」


どうやら首領は本当はナイアのことが嫌いらしい。


「……それにしても頭の痛い敵を作ってしまったものだな」


そう言って彼は手元にあった水晶玉に手をかざすとそこに阿烈の姿が映し出される。


水晶に映った阿烈の姿は川辺で上半身裸で鍛え抜かれた筋肉を見せつけるようなポーズをとっている。


どうやら武術の型稽古を行ってるようだ。


その姿はまさに威風堂々たる武人と呼ぶにふさわしいものであった。


水晶に映る阿烈の姿を見ながらドアのダ首領はつぶやくように話し始める。


「阿烈よ、お前はいずれ私の手で必ず倒される運命なのだ。私は決して敵対するものを許しはしない。この水晶球は私の魂の欠片を核にして作った特別製だ。この水晶を通してお前が見ている光景を私も見ることが出来るのだ。せいぜい今は楽しんでおくがいいさ」


そう話す彼の顔はまるで邪悪な悪魔のようだった。


ところが水晶に写った阿烈が首領の方を見てニヤッと嗤った。


ギョッとするガープに向け水晶の中に写る阿烈が拳を振るう。


ガープは素早く防御の型を取り顔面を守った。


一体いかなる原理か?


防御したガープの後ろの壁が物凄い衝撃を受けたかのように凹み崩壊する。


「不敬者め!!」


ガープが水晶の中の映像の阿烈に向け手刀を放つ。


もちろん手刀は水晶玉にはぶつけない。


だが水晶玉に写る異世界スラルの川辺の水が真っ二つに分かれる。


ありえないはずなのだがドアダ基地内から放ったガープの手刀の攻撃波が水晶を介し阿烈に直接迫ったのだ。


次元越しのガープの手刀を阿烈はスウェーで躱していた。


反撃とばかり次なる拳激を虚空に放つ。


次元越しの拳激をガープが纏手功でいなしカウンターの突きを放つ。


さらにそのカウンターの突きを阿烈が同じく纏手功でいなし突きを放つ。


惑星間の次元を超え神の域に達した武仙二人が激しく組み手を交わした。


達人二人の強烈な激突に耐えられず水晶玉がとうとうひび割れ粉々に砕け散る。


「クカカカカ、いかんいかん、ついつまみ喰いしちまったぜぇ」


阿烈は愉快そうに笑うと脱いだ服に袖を通し今日の修業を切り上げた。


「思わぬ稽古相手に遊んでもらったわ、やはり散打は向き合う相手がいないとなぁ、あのじじいまだまだ現役じゃねぇか」


阿烈は次元を超え戦った相手がだれか気づいてるようだ。


一方ガープは割れた水晶を見て呆然としていた。


「あああああ!? ワシの水晶がああああ! これ作るのにほんのちょっぴりだけどワシの魂のかけらまで使ったのにいいいいいいい! ワシの部屋がめちゃくちゃあ!? ぎゃああああ、ワシの首領スーツがビリビリにやぶけてるううううう!!」


拳の優劣はさておき、失ったものはガープの方が多いようだ。


「あんのクソガキャ~! なんちゅう危ない奴じゃ!…にしてもナイアの奴あの化け物相手にケンカを売ってよく生きて帰れたな。まぁ流石ドアダ七将軍が一人といったところか…」


「しゅ、首領閣下! いったい何ごとでございますかぁ?」


黒スーツの戦闘員が爆音に気づき慌てて集まってきた。


「ん? あ~そうそうゴキブリが出てびっくりしただけじゃ。」


「へ?」


説明が面倒くさいのでいい加減な嘘をつき瓦礫の上に腰かけボロボロになった服を脱ぐ。


「それよりナイアが連れてきたあの神羅という娘はまだ目覚めんのか?」


着替える首領のもとに新たな報告が入った。


「首領閣下、例の娘が目を覚ましましてございます!」


部下の報告を聞き、首領はすぐに立ち上がった。


そして足早に彼女の部屋に向かうのだった。




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