第4話 乂阿戦記1 第一章- 赤の勇者雷音と炎の魔剣クトゥグァ-4

羅漢は阿烈と雷音の戦いで神羅に被害が及ばないよう常に最大限の配慮を見せていた。


例えば砕け散るがれきや衝撃波などから彼女に流れ玉で当たらないよう合気の技を駆使し破片や衝撃波から彼女を守っていた。


ナイアが自分の胸の中で眠る少女を見ると、ナイアの顔が影がかかったように黒く染まり、三つの燃え上がるような目と嗤っているような形の亀裂のような口が浮かび上がった。


まさかこんなにも早く因縁の宿敵に出会えるとは!


「兄さん、兄さん! 正気に戻れ! 雷音、雷音! 目を覚ますんだ!!」


銀の勇者羅漢は二人に声をかけ正気を呼び起こそうとする。


しかし、その声は届かない。


それより彼にはやるべきことがあった。


雷音と阿烈の戦いの衝撃で、このスラルという世界が滅びないよう戦いの余波を中和する事だ。


今さっき魔剣クトゥグァの力で火山が噴火しそうなところを押さえ込んだ。衝撃波が町の方角に飛びそうだったのを合気の技術で空の方角にそらし町の壊滅を防いだ。


覚醒した雷音と阿烈


神域の強者同士が闘うときは最低一人は神域の強さを持つ者がフォローに回らなければならない。


そうしなければあまりに大きい力のぶつかり合いで世界が滅びるからである。


ナイアは目の前の雷音と阿烈のことを考えた。


二人はまさに死闘を繰り広げている。


いや、もはやそれは闘いではなく殺し合いだった。


決着がついたとき勝った方に自分は殺されるだろう。


だが自分は奴等に易々と殺されるつもりはない。


ワープトラップの多いこのダンジョンで滅多やたらに壁を壊しまくったのが連中のミスだ。


ナイアは阿烈達にきづかれぬよう自分のバラバラに千切れ飛んだ肉片を使い、使えるワープトラップの装置をこのエリアに集めていた。


肉片は自分の本体のところまで戻れれば、いくらでも回復可能だ。


連中を出し抜いた後、神羅を連れてこのエリアを脱出すればいい。


ナイアルラトホテップはワープ装置を作動させ阿烈をどこともしれぬ異次元の世界にはじき飛ばそうと準備する。


だが戦いのさなかにもかかわらず阿烈はジロリと見て言った。


「ワープ装置でワシをどこかに飛ばす気か?」


こちらの企みを全て見ぬいたような物言いだ。


先ほどまでの獣の眼光ではない。


知性と思慮の光がある。


(こいつ!? 今までのは演技で実は正気なのか!?)


下等な人間相手に怖気が走る。


邪神ナイアルラトホテップはとうとう本当の切り札を切ることを決意した。


雷音を洗脳したように神羅にも洗脳魔法をかける。


「にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!  女神ユキルよ! 赤の勇者雷音と機神同調しろ! 封獣クトゥグァを今こそ解き放て!」


ナイアの呼びかけに応じて雷音と神羅の身体が白く発光する。


雷音は全身を包む赤いオーラを纏い神羅は背中から白い翼を生やす。


「雷音! あなたは私と一つになってあの化け物をやっつけるのよ!! ふんぐるい むぐるうなふ くとぅぐあ ふぉまるはうと んがあ・ぐあ なふるたぐん いあ! くとぅぐあ! 」


操られる神羅はそう言うと雷音の唇を奪い呪文を唱える。


そして二人は青白い光の繭に包まれ、その姿は見えなくなる。


代わりに炎をまとった鳳凰をおもわす巨大なロボットがその場に顕現していた。


「雷音! 私の愛しい人! あなたの力を見せてあげなさい!」


ナイアの洗脳下でなければ絶対吐かないようなセリフを神羅が吐く。


神羅は操者雷音を介し巨大ロボとなった魔剣クトゥグァの力を解放させた。


「そのクトゥグァの力で阿烈兄さんを攻撃する気か!?」


羅漢はケルビムベロスの首飾りを握りしめると詠唱した。


「機神招来!」


次の瞬間、羅漢の前に銀の鎧に身を包み白虎を思わせる巨大なロボットが現れた。


「銀の勇者め! 魔法少女の助力無しで機械神を招来するか! やはり貴様も化け物! だが封獣最強と名高いクトゥグァに勝てるとは思うなよ!」


鳳凰クトゥグァと白虎ケルビムべロスが同時に動き出した。


「うぉおおおあああああっ!!」


「ガァオオォオオーーーーンッ!!」


二体の巨大ロボがぶつかり合う。


白虎の牙と爪がクトゥグァの装甲を削り取り羅漢が吠える。


「白虎はあらゆるものを噛み砕き、切り裂く! いかなクトゥグァが頑丈な機体であろうと、その牙と爪を防ぎきれるか?」


「確かに白虎ケルビムベロスは強敵だね。けど世界を守りながら戦えるかな? ユキル、雷音! クトゥグァの能力でこの山の火山を活性化させろ! この山を大噴火させるんだ!!」


目の焦点が定まらぬユキルと雷音は言われるがまま邪神の命令を受け入れる。


「やめろー!! そんな事をしたらこの山の麓にいる人たちが死んでしまうぞ!!」


羅漢の叫びを無視して呪文を唱える。


『我は願う地脈の血流を操り、我が意のままにする!』


『私は望む大地の脈動を自在に操る』


直後、山頂を中心に地面が大きく揺れ始めた。


山肌が崩れ始め土砂崩れが起きる。


その振動は地中深くにまで伝わり、やがて大爆発を起こした。


まるで大地震のような激震が周囲を襲い、山全体が燃えているかのような真っ赤な炎が立ち上っていた。


「さあさあ早く噴火を押さえないと麓の町は全滅だよう~」


邪神ナイアルラトホテップは愉快そうに嗤った。


しかしそれはすぐに驚愕の表情に変わった。


白虎が地面に手をやり爆発のエネルギーと地震の震動を合気の技術で中和しているのだ。


一体どういう理屈の武術なのか?


とにかく地震と爆発がロボットの体術で中和されていた。


「ぐ、ぐぬうううう!」


大分無理をしているのか操縦者の羅漢が苦しそうにあえぐ。


「おのれぇええええっ!!」


激昂したナイアルラが魔力を高めると空間が歪み、無数の触手のようなものが現れ白虎に絡みつくように襲いかかる。


「雷音! まず先に白虎を殺れえええ!」


機械神クトゥグァが大地に指した大剣を引き抜き白虎に振りかぶる。


白虎は地震を押さえるため動けない。


袈裟懸けに振り下ろされ剣は白虎機の肩を裂けコックピット内まで届いた。


羅漢は重症をおったが絶命せず生きていた。


刃を受けたはずの白虎機の腕が動きクトゥグァの腕を掴む。


そして剣を握っていた腕を引き千切ったのだ!


さらに頭部の角が伸び、頭突きのようにクトゥグァの胸に突き刺さる!


胸に穴が開きそこからスパークが飛び散る!


クトゥグァのコックピッドがむき出しになり雷音と神羅の姿が見えた。


雷音はコックピッドの操縦席に座り神羅は後ろの培養液が詰まった透明なカプセルの中で一糸まとわぬ姿で浮かんでいた。


「雷音、神羅! 今助けるぞ!!」


「ふふふふふ! これで勝ったつもりか?」


クトゥグァ機は胸を貫かれながらも破壊された右腕を振り上げるとちぎれたままの右腕で力任せに殴りかかる。


その一撃で右腕は全壊したがまだ左腕が残っている。


「死ねえっ!!!」


拳をそのまま白虎機の頭に叩きつける!


バキイイイイッ!!


頭を砕かれた白虎機が前のめりに倒れた。


「ふふふふ……もうじき世界は終わる」


邪神は不敵に笑うのだった。




***


***




一方その頃、火山の麓では人々が逃げ惑い混乱していた。


そこへ突然現れた白い巨大なロボットと白い翼を持った天使が空から舞い降りたのだ。


「みんな逃げてー!!」


「ここは危険です!急いでください!!」


「うわああああっ!!」


「なんだあれは!?」


『我の名はリーン・アシュレイ』


『私は従者の白水晶』


『皆、火山の噴火はじき収まるのであわてないでくれ』


「うおおっ!!神子様じゃああーっ!!!」


「ありがたや~ありがたや~」


人々から歓声が上がる。


「白水晶、追跡装置の準備は万全か?」


「イエスマスター、問題ありません」


「そうか、では乂阿烈、君のお手並み拝見しよう…」


***


***


白虎機が光に包まれ消滅し、後には無くなった巨大ロボから落ちてきた羅漢の体が横たえていた。


コックピッドごとクトゥグァの剣撃を受けたため深手を負ってしまったのだ。


「さあ雷音とどめをさせ!」


ナイアがそう言うと雷音自身の意志とは関係なく操縦桿を動かす手が勝手に動き出した。


クトゥグァの剣を振りかざし倒れている羅漢に近づく。


「3分経った。大人の時間は終わりだ雷音」


そう呟いたのは阿烈だった。


「ああああ!?」


突如雷音の体ががくがく震え2メートルあった体が縮み始めた。


変身前の11歳の少年に戻ったのだ。


「ワシが戦いの折、雷音に放った攻撃は倒すための攻撃ではない。魔力の付与で強制的に大人になった状態を元に戻すための治療打撃だ。武、医、芸、三つの技術を活用できてこそ真の武道家よ」


「き、貴様!? 今まで弟を治療しながら戦っていたのか!!!?」


「……あれ? 俺なんでここに?……兄さん?」


目の前に横たわる血まみれの兄を見て驚く雷音。


「ら、羅漢兄さん!!」


雷音が慌てて駆け寄る。


「ぐうっ……」


「しっかりしろ羅漢兄さん!」


傷口を押さえながら立ち上がる羅漢。


出血多量で意識が朦朧としているがかろうじて意識はあるようだ。


「ちぃ! 潮時か…」


ナイアは左腕を無数の触手に変え培養液のカプセルを壊し中にいた全裸の神羅を捕らえた。


神羅がカプセルから出ると機械神クトゥグァは光に包まれ姿を消した。


どういう原理か神羅の服も元着てた服に戻っていた。


神羅は今だ気を失ったままである。


彼女を抱えそのまま飛び去ろうとするナイア。


「待てぇええええっ!!」


それを追いすがる雷音と羅漢。


「ワープ装置起動!」


本来阿烈を異次元に追いやるため用意した罠を自分に使う。


行き先は15年前自分が所属していた組織の秘密基地


逃げられる直前に羅漢はナイアの体にしがみついていた。


「はい、残念」


だがナイアは右腕をドリルに変形させ羅漢の胴を貫いた。


ガフ、羅漢が血を吐き膝を落とす。


「羅漢ーーーッ!!!」


絶叫する雷音の前で空間転移が始まる。


雷音は疲労で気を失い倒れ伏した。


倒れ伏した雷音を阿烈が丁寧に抱き上げる。


阿烈は微動だにせずナイアと羅漢と神羅が空間転移していく光景を見ていた。


(…なんだ? 何を考えている乂阿烈?? その落ち着きは一体なんだ? お前はこの事態を全て予測してたとでも言うのか!?)


ナイアは一切の動揺を見せずこちらの動向を伺う阿烈に違和感を感じていた。


邪神が去った後阿烈は一人呟く。


「揺籃の時は終わりを告げた。女神を巡り再び運命が動きだす。戦が始まる。弟達よ、これより我らが歩むは冥府魔道修羅の道なり」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る