第2話 乂阿戦記1 第一章- 赤の勇者雷音と炎の魔剣クトゥグァ-2

雷音達の母ホエルについて説明しよう。


雷音達の母は15年前魔法少女の国に仕える魔法少女だった。


当時彼女は火の魔法少女と呼ばれ、空の魔法少女ユキル、地の魔法少女アタラ、水の魔法少女ユノ、風の魔法少女プリズナという4人の友人と共に七罪の魔女と呼ばれる魔女達と闘っていた。


白の魔女にして最悪の魔女、七罪頭目エクリプス


灰の魔女にして最強の魔女、戦争狂いのラスヴェード


緑の魔女にして魔王の魔女、暁の明星ヴァールシファー


黄緑の魔女にして邪神の魔女、千匹の仔を孕みし森の黒山羊シュブニア


黄の魔女にして魔獣の魔女、魔物の巣エキドナ、


黒の魔女にして時の魔女、正体不明のルキユ


そして最後に紫の魔女にして淫欲と奸智の魔女ナイアルラトホテップ


奸智の魔女ナイアルラトホテップは人間ではなく本来は外宇宙からきた邪神で、初代紫の魔女エメサキュバから魔女の力を奪い魔女になったというイレギュラーな存在だった。


そのいやらしい奸智と謀略に5人はずいぶん苦しめられてきた。


だが母ホエルはナイアルラトホテップが苦手とする魔剣クトゥグァの力を手に入れ、激闘の末15年前ついにこの山に封印したのだという。


7罪の魔女達との戦いで、彼女たちは心の支えであったユキルを失った。


自らを犠牲にしてこの世界を守ったユキルの伝説は有名だ。


クトゥグァ火山はそんなユキルと母ホエルの伝説が語り継がれるスラルの名山である。


魔剣クトゥグァがこの山のどこかに刺さって以来この山は火山活性化が進んで危険になり、今はだれもこの山に近づいていない。


だが冒険にあこがれる雷音と神羅は大人たちの忠告を無視し兄達を探しにこの山に踏み込んでいた。


しばらくすると2人の前に小さな祠が見えた。


「ねえ雷音、あそこに何かあるよ」


「ん、なんだありゃ、行ってみよう。」


そこには、紫色の服を着た少女が触手の化け物に襲われていた。


自分たちと同じ年頃の魔法使いとおぼしき少女だ。


触手の化け物は粘液滴る嫌らしい触手を伸ばし服の隙間から入り込んで少女の肌をいやらしく撫で回していた。


魔物の中には人間の女を襲い自分の子を孕ませるタチの悪い魔物もいる。


あれはその類いの魔物だ!


女は悩ましげな吐息を吐きながら雷音達に助けを求めた。


「ああ、誰か、誰か助けて!あ、あう!いや!そこはダメ!!」


「大変!助けなきゃ!」


2人は連係プレイで触手の化け物を倒し紫の少女を助け出した。


雷音は彼女を助け起こし尋ねた。


「おい、お前何者だ。こんなところで何をしている」


「私、私は・・・その旅の魔導士見習いです。名をナイアと申します。お願いします、どうか私の願いを聞いてください」


雷音の質問には答えず、少女は雷音に頼み込んだ。


「いいだろう、話を聞こうじゃないか」


「ありがとうございます。実はエクリプスという魔女が復活し、世界を滅ぼそうとしているのです。それを阻止して欲しいんです」


「何!?あの伝説の七罪頭目が!? ふむ、それで俺は何をすれば良いんだい?」


「はい、貴方は赤の勇者の力を持っています。その力で、魔女を倒してください」


「ちょっと待ってくれ、俺が赤の勇者だって?」


「はい、間違いありません。貴方こそが赤の勇者なのです」


「なるほどね、じゃあ行くか!」


「…ってオイオイ、雷音、本当に勇者の旅に行くの?」


しばらく雷音達のやり取りを聞いていた神羅がこらえきれなくなって突っ込みを入れる。


「当たり前だ、この世界の平和を守るためだからな」


「いやいや、ちょっとはこの状況疑おうよ? いきなり貴方は勇者様ですって言われて鵜呑みにする馬鹿がどこにいるの? ちょっとは罠じゃないかなぁって思ったりしないわけ? もし本気で自分は勇者様だって思い込んでるならお姉ちゃん弟の馬鹿さ加減に頭抱えるよ!?」


「うっさいなー、いいんだよ。世界を救うのはいつの時代も正義と勇気のある奴だけなのだよ。つまり勇者とは選ばれた存在なのだ!!」


「あーハイハイ、それより先に洞窟に先行した阿烈兄さんと羅漢兄さんを見つけるよ。二人にこの魔剣を見せて早く家に帰って来てもらお!」


「……あっ、あそこの岩陰からだれか出てきますよ。」


ナイアが指さした洞窟の物陰から出て来たのは2人の偉丈夫だった。


1人は2メートルを超える筋骨隆々の大男で角刈りの白髪に虎模様の黒髪が混じっている。


もう1人は黒髪長髪の筋肉が引き締まった美丈夫だった。


「まあ、あれは兄さん達だわ!」


「阿烈兄、羅漢兄、無事でよかった。心配したぞ」


基本寡黙な阿烈は返事を返さず次男の羅漢が雷音達に返事を返す。


「ああ、お前達か。心配をかけて悪かったね。実はかくかくしかじかでな、いろいろあってここに飛ばされたんだ。最初から盗賊スキルを持つ雷音に同行して貰えば良かったよ」


羅漢は雷音達の後ろに付いて来ていたナイアに目をやった。


「それで、その女の子は誰なんだ?」


「私は、ナイアと申します。私も、その、道に迷ってしまいまして、伝説の魔剣を探していたところ、いきなり魔物に襲われ囚われてしまいました。そこを通りかかった雷音様にお助けいただいたのです。」


「そうだったのか。でも何だってこんなところに? そもそもどうして君は一人で旅をしているんだい?」


羅漢は少し怪しむような表情を浮かべながら尋ねた。


するとナイアはうつむき、小さな声でつぶやいた。


「……分かりません。気づいた時には、この洞窟にいまして、何も覚えていないのです……」


それを聞いた雷音は驚いた。


「記憶喪失なのか! かわいそうだ。きっと何か辛いことがあったに違いない。よし、俺たちが一緒に冒険してやるぜ! 俺は赤の勇者雷音! 俺にどんと任せてくれ!」


ナイアは感激し笑顔になった。


「ありがとうございます! よろしくお願いします! 雷音様!!」


「ああ、こちらこそ! じゃあ早速だけど俺の家族たちを紹介するね。こっちの筋肉ムキムキなのが俺の兄貴の阿烈だ。阿烈兄、この子はナイア!」


花のような笑顔で、会釈するナイアに対し阿烈は獲物の前で舌舐めずりする猛獣の笑みを見せた。


そして阿烈はナイアの全身を下から上までなめ回すように眺めると言った。


「ほう。邪神ナイアルラトホテップ、復活していたか。雷音が魔剣クトゥグァを引き抜いたのでウヌを縛っていた封印が解けたのだな? 神殺し……一度経験しておきたかった。羅漢、この美味そうな獲物ワシがいただくぞ?」


「はぁ!? な、何を言ってるんだよ阿烈兄!」


雷音は必死に抗議の声を上げたが阿烈は聞く耳を持たず、羅漢も止めようとはしなかった。


羅漢は腕を組み仁王立ちしながら阿烈の好きにさせた。


阿烈が手を出す前に、雷音は慌ててナイアの前に出て両手を広げ彼女を庇った。


「ちょっと待ってくれ! 阿烈兄! ナイアに手を出したら許さないからな!」


だかナイアは観念した風にかぶりを振り悪意ある表情をその顔に浮かべこう答えた。


「ち、やりにくいな貴様は!」


「フッ……。雷音、この愚か者が。貴様は母者から聞かされた魔剣クトゥグァの物語をもう忘れたか? 母者は15年前魔剣クトゥグァを使いナイアルラトホテップなる邪神をこの山に封じ込めた。ならば魔剣を抜き現るは一体何者だ?クカカカ……。」


雷音はその言葉を聞きハッとした。


「バカ弟…私はとっくに気づいてたわよ?」


やれやれと神羅が被りを振る。


ナイアと名乗った女の体はみるみる内に膨れ上がり巨大な化け物へと変貌していった。


それはまるで悪夢に出てくるような恐ろしい怪物だった。


その背には黒い翼が生えていた。


阿烈は感嘆の息を漏らした。


「ほう。やはり外なる神がこの世界に紛れ込んでいたか。さあ、かつて7罪の魔女エメサキュバから力を奪いし邪神よ!ウヌはワシにいかなる戦を馳走してくれる?」そう言うと阿烈はゆっくりと歩き出した。


その動きに合わせるように邪神も一歩ずつ前に足を踏み出す。


そして2人は向かい合った。




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