第38話

 一次審査のパフォーマンスから2週間後。収録されたパフォーマンスの放送と視聴者による投票期間を経て結果発表の日となった。


「さぁ! それでは結果発表です!」


 司会の人による合図で大型モニターに1から10までの数字が並んだ。


「今から、獲得票数が多かった順で順位付けした結果を発表します。脱落するのは一次審査のパフォーマンスで敗北した5組の中で、視聴者からの獲得票数が少なかった2組。これから発表される結果が10位だからといって脱落確定ではありませんので安心してください」


 逆に言えば7位だろうと8位だろうと脱落の可能性があるということ。


 どのグループもメンバー同士で手を繫ぎ、祈るようにその画面を見つめ始めた。


「では……7位からの発表です!」


 順当にいけば脱落するのは9位と10位。当落線上ギリギリのところから発表するなら8位からなんだろうが、何か後まで隠したいことがあるんだろう。


 その理由は7位から始まった発表が2位まで終わったところで察した。残る椅子は1位と、8位以下の全部で4つ。


 まだ順位が発表されていないのはエトワール、毎晩がマスカレイド、アヤ、アヤの対戦相手だった地下アイドルの4組。


「脱落組はほぼ確定か……」


 パフォーマンスで敗北したのは毎晩がマスカレイドとアヤの相手の地下アイドル。この二組のどちらかが投票で一位になりさえしなければ、脱落は確定だ。


 地下アイドルの方はまだその事を理解していないようで必死に祈っている。いや、まだ一位という僅かな望みに賭けているのかもしれない。


 だが残酷にも10位としてグループ名が表示された。アヤの対戦相手だった地下アイドルは脱落が確定。


「――ということで、アヤ、毎晩がマスカレイド、エトワールの3組が残りました。毎晩がマスカレイドが生き残るには一位でないといけません。自信はありますか?」


 司会の人が『毎晩がマスカレイド』のメンバーに話を振る。当然「あります」と答えるし、その言葉に現実味がないことも分かっているんだろう。


「では、毎晩がマスカレイドの順位を発表します!」


 司会の声とともに大きなタメもなく、8位の場所に名前が表示される。そして、『脱落』の2文字も。途端にメンバー達が泣き崩れる。


 本来ならどのグループが脱落するかが結果発表の醍醐味のはず。だからこんな話題は最後に持っていくべきなのに、まだ席は2つ空いている。


 1位の席と9位の席。そこに座る候補はエトワールとアヤ。


 ここに来てやっとこの発表順になった理由が分かった。


 新進気鋭のグループであるエトワールと、既に斜陽の最中にいるアヤの対立構造を番組側が作りたいんだろう。そのために脱落するグループよりも後に結果発表が回ってきた、というところだろうか。


「さぁ! エトワールの皆さん! 残っている席は1位と9位。どちらに座れると思いますか?」


「9位です!」


 茉美が食い気味にボケるとスタジオに笑い声が響く。


「アヤさんはどうですか?」


「1位しかありえません」


 まぁそう言うしかないよな。


 だが実際、勢いの有無は別としてもエトワールのファンとアヤのファン。数で言うなら後者の方が圧倒的に多いはずだ。エトワールが9位であっても驚きはしない。


「では……発表します!」


 司会の合図でドラムロールが流れる。


 数秒のタメを挟んで、一位の場所にエトワールの名前が表示された。


「うおっ……良かったぁ……」


 これで9位だったら目も当てられなかった。1位通過。それだけ多くの人に5人のパフォーマンスが刺さったということ。


 安心して大きく息を吐く。


 その間にアヤは9位の席に移動していた。みすぼらしいパイプ椅子。それがアヤの座る場所。


 対してエトワールの5人は1位として豪華なソファに座っている。


「それでは脱落した2グループの皆さんはここで退場となります。ありがとうございました」


 順位発表が終わると、即座にアヤの両脇にいたグループがいなくなった。


 大量のパイプ椅子が残された中にぽつんとアヤだけが座っている様はなんとも物悲しさがある。


 そもそもアヤは僅差で10位だったグループに勝利していた。だから、本来ならここで脱落していてもおかしくなかったということ。そんなアヤの凋落すらエンタメにするのか、とやり切れない気持ちになってくる。


「さて! では二次審査の方法を発表します!」


 司会が気を取り直して次の説明を始めた。


「二次審査では、番組で作成したオリジナル曲を披露して頂きます! まずはこちらをご覧ください」


 司会の合図でモニターに動画が流れ始める。知らない曲が流れ、その曲用の振り付けをダンサーが披露している動画だ。


 フル尺で4曲。15分をかけて視聴した後に司会が「さて!」と声をかけた。


「ご用意した曲は4曲。グループは8組。何をすると思いますか? マミさん」


 司会が茉美に話を振る。


「えぇと……対決はもうやったので……2グループ共同でパフォーマンス……ですか?」


 んなわけ無いだろ、という笑いが起こる。茉美、平場もいけるじゃないか。


「せっ、正解! そうです! 二次審査は4曲、4グループで競っていただきます。つまり、一時的に2グループずつ合併してチームを結成。仲間となってもらいます」


 全員が左右を見渡す。他のグループと共同でやるのか。面白い試みだが不安がつきまとう。


「グループ分けはくじ引きで行います。まずは1位のエトワールさんから。くじを引きに来てください」


 司会に言われるがまま、5人が前に出ると代表して卯月が箱に手を突っ込んでくじを引く。


 一枚の小さな紙を広げると、確認することもせずカメラに映るように両手で持ってみせた。


「決まりました! エトワールと一緒にチームを組むのはアヤさんです!」


 ……エトワールとアヤが一緒にやんの!?

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