第14話

 ホームページやSNSの各種媒体も完成。アー写も地雷メイクの四人がメイド服で中指を立てるという中々にパンクなものが仕上がった。


 そんな訳で今日は初お披露目の日。ここまでせっせと固めては大きくしてきた雪玉を遂に斜面から転がし始める日だ。


 駅前の広場での路上ライブのため、夕方の人通りの多い時間帯に集合し、セッティングを進める。さすがにメイド服で作業をするのは寒いので、ベンチコートを着た四人にも手伝ってもらいながらのセッティングだ。


 服装を隠している事がより人を惹きつけるのか分からないが、セッティングが終わる頃にはステージを囲うように既に2列、3列と数十人規模の人だかりが出来ていた。


「わぁ……弾き語りの時もこんなに人が集まったことないんだけど……」


 卯月は想像以上の人の集まりにビビっている様子。


「大丈夫。このくらいで緊張してたらライブハウスなんて立てないぞ。頑張れよ」


「は……はい!」


「卯月も飲む? 緊張が解れるよ〜」


 響はほろ酔い状態だ。どうしても緊張してしまうというので一本だけ許可したのだが、吉と出るか凶と出るかは本番の結果次第だろう。


「俺達以外は未成年だからな……やめとけよ」


 響に釘を刺すと俺はさっさと捌けてアップロードするためのカメラのセッティングに向かう。


 少しすると、メンバーの四人も準備ができたようで、ベンチコートを脱ぎ、思い思いに伸びをしたり発声練習をしながら立ち位置についた。


「ようし……ブチかませ!」


 独り言のように願いを込めて呟く。それと同時に一曲目のイントロが流れ始めた。


 俺が教えた通りに全員が踊り始める。まだまだ荒削り。それでも、ダイヤの原石の光具合は十分に見ている人に伝わったようだ。


 響がアンプに足を載せて煽ると前列の人たちが手拍子を始める。


 世莉架と卯月の歌上手コンビが綺麗にハモると老若男女が足を止める。


 茉美のラップパートに入ると若者が続々と足を止めて動画撮影を始めた。


 雪玉はついに転がり始めた。


 俺は邪魔にならない位置に移動し、エトワールの宣伝を始める。


「新人アイドルグループ、エトワールでーす! ライブの告知、彼女達が働くカフェのSNSのフォローはこちらから〜!」


 事前に用意していたQRコードを印刷した紙。それを手当たり次第に配っていく。こんな泥臭いことは数年ぶりだ。金もなければ人もいない。全部自分でやらないといけない。だがそれが良い。自分が作り上げた雪玉アイドルが斜面を勢いよく転がり、どんどんと大きくなっていく様が今目の前に広がっているのだから。


 世莉架のビジュアルが『つよつよ』だとバズれ。卯月の歌が上手いとバズれ。茉美の乳首のカラーコードでバズれ。事前にやれることは全部やった。後は箱を開けるだけ。


 夢中になって彼女達の宣伝をしていると、気づけば警察がやってきていた。人が集まりすぎて歩道を埋め尽くしてしまったので交通整備のために来たのだと気づく。


 俺は慌てて警察に近寄る。


「私が責任者です。許可は取っていますが……」


「あー……それは知ってるんだけど、ちょっと人が集まりすぎてて危ないから中止にしてもらうかも」


「そっ……そんな……っ!」


「普通にライブハウスでやればお金も取れるし良いじゃない。何でこんなところにファンを集めなくても……」


「今日初めて人前で披露するんです。だからこの人達は全員が初見。ファンはまだ一人もいません」


「えぇ!? それでこんなに集まったの!? こんなに人がいるの初めてみたよ!?」


 警察の人も驚くほどの異常な盛況っぷり。


 俺はギリギリまで粘って警察の人と雑談を続けたが、2曲目を披露したところで危険と判断され、あえなく初ライブは中断となってしまったのだった。


 ◆


『地下アイドルさん、乳首の色を公開してしまうwwwww』


『昨日、◯✕駅でライブしていたアイドルグループの名前わかる人いる?』


『新人アイドルさん、貫禄がありすぎる模様』


『背の高い子、めっちゃ可愛くない?』


『分かる。歌い方もクセになるわ』


『新人アイドルグループ、エトワールのメンバーは? 誰? 四人? 彼氏はいる? 調べてみましたがな~んにも分かりませんでした☆ミ』


 翌日、インターネット上の話題はエトワールが席巻していた。


 SNSのフォロワーも一気に数千人単位で増え、問い合わせ用のメールアドレスには早速ライブイベントの招待が来ている有り様だ。


 晩の路上ライブの映像を見るため、全員で店に集まったのだが、妙に皆が浮足立っている。


「うはぁ……ついに私も普通に街中を歩けなくなるのかぁ……」


 響は早くも芸能人ヅラをし始める。


「まだ大丈夫だよ。メイクだって普段と違うんだからそうそう気づかれないって」


「それはそれでなぁ……」


「ま、この調子だと近々本当にそうなるかもな」


 転がりだした雪玉は止まらない。一気に大きくなり始めた雪玉に、ワクワクが止まらなくなってきたのだった。

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