第6話

『アヤさんが生歌を披露した結果wwww』


『超人気アイドルのアヤ、口パクだった?』


 スマートフォンが否応なしに進めてくる自分に関する記事の見出しに目を通したアヤは無言でスマートフォンを壁に向かって投げ捨てる。


「はァ……何よこれ!!!」


 割れたスマートフォンの画面が乱反射する光を見て我に戻ったアヤが絶叫する。


 確かに昨日の生放送では少し失敗した。その前は「やらない」と公言していた被せをしていたことがバレた。


 このところ歌もダンスも本調子ではないが、それは一時的なものだ。決してあいつがいなくなったからではない。


 新しいマネージャーはとにかく仕事ができない。スケジュールや行き先を間違えることはしばしば。歌のアドバイスもダンスの振付の質問も「私はわからないので……」で流されてしまう。


 黒子はなんだかんだでそれっぽいことを答えてくれていた。それが的確だったかと言われたら、違う考えのときもあったからどっちもどっちだろう、と無理やり自分を納得させる。


「おーい……アヤぁ……」


 事務所の社長が眉尻を下げて部屋に入ってきた。もう何回目か分からないが、それが良くない知らせを持ってきた合図だと言うことだけはアヤはわかっている。


「なんですか?」


「仮押さえされてた『ニッポンポンフェス』だがな……バラしになったよ」


「えっ……本当ですか……」


「最近は別のアイドルに仕事を取られる事が増えてきたよなぁ……」


「私のせいって言いたいんですか!?」


 アヤはきっと顔をしかめて社長を睨みつける。


「おっ……おいおい……そんなに怒るなって……事実だろ? ったく……歌のレッスン、増やしといたからな。早く調子戻してくれよ。歌もダンスも並の女なんてゴロゴロいるんだからな。バラエティの平場も弱いんだからお前が差別化するにはそこしかないんだぞ。悪いけどこの調子が続くようならNG出していたもんも解禁するしかないな」


「何ですか?」


「グラビアとか……まぁその先は分かるよな?」


 社長は言うことを言うとさっさと部屋から出ていく。


「……っ……分かってるわよ……それだけはいやっ!」


 アヤは床に落ちていたスマートフォンを拾う。黒子に連絡すべきだろうか、と一瞬だけ頭をよぎる。


「いや……関係ないか」


 今の不調は黒子がいなくなったからではない、と楽観的な自分に流され、アヤは黒子の連絡先を消去して、微妙に音程のずれた歌の練習を始めるのだった。

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