第4話
女の子は
Axamの元マネージャーを語る男と、その男と知り合いらしいちゃらんぽらんそうな女という怪しい組み合わせに対して明らかに警戒してはいるが、駅の近くにある安いカフェに3人で入って話をすることにした。
だが、初期の警戒心はどこへやら、俺がクビになった経緯をかいつまんで話すと、卯月は「許せません!」と義憤をあらわにした。
「まぁもう一ヶ月も前のことだから……」
「けど、何となく合点が行きました。アヤの新曲の初お披露目が昨日あったんですよ。生歌配信。なんか……こう……いつもとまるで違ったんです。歌も踊りも自信が無いみたいに下を向いていて……ネットでもプチ炎上しているみたいですよ」
卯月が深く頷く。
そうだったのか。アヤに関する話題はすべてシャットアウトしていたので知らなかった。ただ心当たりはある。
「あぁ……まぁそうなるよな。俺が手取り足取り教えてた訳だし」
「そうなんですか!?」
「そうだよ。歌詞カードを作ってメモを書き込んで、ダンスも基礎から。ま、売れたらさっさと捨てられちゃったけどさ。ただ、持続可能じゃなかったんだな。実力がしっかりついていたわけじゃない、と」
「く、黒子さんは一体何者なんですか?」
「別に……ただのマネージャーだよ」
「ただのマネージャーが一流アイドルに歌唱指導やダンス指導ができるんですか!?」
そりゃ過去に色々あった。卯月はそれを見抜いていて確かに鋭い。だが、今日会ったばかりの人に言うことではない。
「まぁまぁ、落ち着けって。そのうち――」
「え? あっ……『やっくん』!?」
俺が本題に入ろうとした瞬間、卯月は何かに感づいたようにそう呟いた。そして「やっくんですよね!?」と身を乗り出して尋ねてくる。
本名である
同時に黒いモヤモヤが吹き出しそうになって慌てて下を向き、手の甲をつねって痛みでもやもやを追い出す。
「……やめてくれ」
「……ごめんなさい。けど、私の初恋なんですよ。やっくん」
卯月は身を引きながらもニッコリと笑ってそう言う。
「ちょちょ、私にも分かるように説明して欲しいんだけど!?」
話についていけていない響が割って入ってくる。
「あー……つまり、俺は昔『やっくん』って名前で人前に出ることをしてたんだ。歌のお兄さん的なやつだな。だけどすぐに辞めちゃって今は裏方にいる」
「なるほどなぁ……だから歌もダンスも人に教えられるくらいできるってことか。で、辞めて裏方に転向した理由は仲良くなったら教えてくれる、と」
「教える前提なのかよ!?」
二人がどっと笑い、冗談になったところで本題に入る。
「まぁそんなわけで俺の実績は伝わっただろ。それで、俺はこれから新しいアイドルグループを作りたいんだ。アヤを超えるアイドルを、俺の手で作り出したいんだよ」
「で、何で私達を?」
「そりゃメンバーにするためだよ。響と卯月。二人共だ」
「はぁああああああ!? 私がアイドル!? 無理無理! もう25だよ!?」
響が目を見開いて自分を指差す。
「ギリいけるだろ」
「あ、ギリなんだ……」
響が今度は肩を落とす。驚いたり落ち込んだりと忙しい人だ。
「まぁ響さんは美人だし、私は歌が歌えるから全く可能性が無いわけじゃない……ということですか?」
「卯月も可愛いだろ」
「えっ……」
卯月は顔を真赤にして俯く。こいつ、謙遜が過ぎるぞ。
「じょしこーせーを口説いちゃだめじゃん!? 犯罪だよ!?」
「口説いてねぇよ! で、やるのか? やらないのさ?」
「まぁ……ダンスは昔やってたけど……ってか私達二人でやるわけ?」
響は渋々だが乗ってくれた。案外こういう事に興味があったのかもしれない。
クール系美人の響、王道美少女の卯月。ギャップがあって映える二人だが、まだピースが足りない気がする。
「うーん……もう少し欲しいな。四人……いや、せめて五人は欲しいところだな」
「曲はどうするんですか? 振り付けは? 練習場所は? 衣装は? ライブは出られるんですか? 活動資金もいりますよね?」
卯月はやると決めたのか矢継ぎ早に必要になりそうなものを挙げてくる。
「そうなんだよな。まぁ……考えとくよ。二人は出来たらメンバー探しをしてくれると助かるかな」
「分かりました! じゃあ連絡先を交換しておきましょうか?」
卯月の提案で3人で連絡先を交換する。
この日はこれで解散となり、俺はやるべきことを次々と書き出して実行に移し始めたのだった。
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