死に戻り人狼ゲーム

一ノ瀬るちあ🎨

スタート

 酷い悪夢で目が覚めた。


 平衡感覚を失うかのように痛む頭を押さえて、おのれと周囲を確認する。

 柔らかな陽光が降り注ぐ、はめ殺しの窓に見覚えはない。

 いや、どこかで見たような気がする。

 デジャブを覚えるというより、記憶が欠落しているような違和感。

 思い返そうとするほどに頭痛と吐き気が強くなる。


 ここはどこだ。


 ズキズキと、うるさいくらいに主張する頭痛を堪えながら、知らない部屋から飛び出した。

 扉の向こうに広がっていたのは、広々とした大広間だ。

 西洋のお城に敷かれているイメージがある高級そうな真っ赤なカーペット。天井からつるされた豪奢なシャングリラ。

 見るからに豪華絢爛な空間に、一つ、大きな違和感があった。


 死体だ。


 大広間の中心に、四肢を食い破られた女性が転がっている。


 なんだ、これは。

 いったい、何がどうなっている。


 頭痛はますます激しくなっていく。

 この死体が、頭痛の鍵を握っている。

 そんな確信めいた予感を頼りに、頼りない足取りで、ふらふらと惨殺体へと近づいた。


 めいっぱい近づいたとき、背後で、かちゃりと錠が開く音がした。

 振り返れば、俺が出てきた部屋とは別の部屋から、生きた女性がこちらをのぞいている。


「きゃぁぁぁぁぁっ! 人殺しよぉぉぉぉ!」


 そんな叫び声が、屋敷の中に反響した。


 がちゃりがちゃりと、次から次へと錠が開く音がして、残りの部屋からも、一室につき一人、やってくる。


  ◇  ◇  ◇


 つまり、状況はこうだ。

 俺たちは、互いが互いを知らない他人同士。

 全員、どうやってこの屋敷にやってきたのかもわからない。


 屋敷の出入り口はすべて外側から鍵を掛けられていて、スマホは圏外。固定電話はそもそも存在しない。

 クローズドサークルが完成した。


「ふざけるな! 殺人鬼と一緒の部屋にいられるものか!」


 バァン。


 銃声が響いて、次いで熱い、熱い何かが、俺の体を蝕んだ。


 貫いていた、弾丸が、俺の体を。


 薄れ行く意識の中、俺は、俺を打ち抜いた男のことを見ていた。だから、気づいた。


 ぐちゃりと、トマトをつぶすように、男の体が弾けて血肉をまき散らす。


【誤った殺害にはペナルティがございます。ペナルティを回避するためには、投票により、全員の総意として処刑を実行してください】


 どこからともなく声がする。

 すでに意識は半分飛んでいて、言葉の意味ははっきりと理解できない。


 それでも、


【それでは、リアル人狼ゲーム、スタートです】


 最後の一言だけは、やけにはっきりと聞き取れた。


  ◇  ◇  ◇


 酷い悪夢で目が覚めた。


 平衡感覚を失うかのように痛む頭を押さえて、おのれと周囲を確認する。

 柔らかな陽光が降り注ぐはめ殺しの窓に見覚えはない。


 いや。

 この窓には、どうしようもなく強烈な既視感があった。


 よくよく、部屋を確認すれば、一枚の、トランプサイズの紙切れが、俺の枕元に置かれている。


【あなたの役割は、デスリーパーです】


 俺は、死んだ。

 少なくとも二回。


 そして、いま。

 三度目のデスゲームが始まろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死に戻り人狼ゲーム 一ノ瀬るちあ🎨 @Ichinoserti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画