好きな女の子のためにボクは今日も女装する
めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定
君のそばにいたいから
「ねぇ。ちょっと時間ある?」
「ごめんなさい! 友達を待たせているから」
「悪いようにしないから! その友達も一緒にこれからランチどう? もちろんこっちの奢り」
街の雑踏。
しつこいナンパ。
日常的な風景かもしれない。
道行く人は興味なさそうに過ぎ去っていく。
たまにボクの方を二度見する人もいるが、足を止める人はいない。
地雷系はナンパされやすいっていうけど、今日は本当に多かった。
これで三人目だ。
おかげでシズクとの待ち合わせの時間にも遅刻している。
地雷系ファッションを指定してきたのもシズクだけど。
「けっこうです!」
「ねえ、そう言わずにさ」
「いたっ」
振り払おうとした手が強引に掴まれた。
これだから話の聞かない男は嫌いだ。
横暴に振る舞うなら可愛い女の子に生まれ変わってくれ。
それなら少しは許せるのに。
もう面倒だから告白してやろうか。
ボクは男だって。
意を決して口を開こうとする。
けれどその前にボクのヒーローが登場した。
「私のアオイに触れんなこのナンパ野郎」
現れた黒髪ロングの長身美人。
切れ長の目。
長い足から繰り出された踵落としがナンパ男の腕を襲った。
黒いセーターにジーンズかと思いきや、今日はジーンズ柄のストレッチパンツらしい。
ボクには地雷系なんていう面倒な服装をさせておいて、自分はラフな服装で来やがって。
そう思わなくはないが、現在ナンパ男に対して本気で怒っているようなので許した。
軽くゆるふわパーマのかかったボクの髪が崩れないように、頭を優しく抱き寄せられる。
「これは私のだから! 行こうアオイ!」
「あっ! えと?」
「ナンパ男のことなんかどうでもいいから」
「う、うん」
腕を抑えていたナンパ男は怒り狂うでもなく呆けるようにボク達を見ている。
周りで無関心を装っていた観衆達も足を止めて呆けている。
どうやら颯爽としたシズクちゃんの王子様っぷりに魅せられてしまったようだ。
相変わらず罪作りな幼馴染である。
そのまましばらく手を引かれながら歩き続ける。
周りに人がいなくなるとシズクちゃんの足が止まった。
そして大きくため息をつかれる。
「はぁ……待ち合わせ場所に来ないと思って、探してみたら案の定ナンパに引っかかっているし。どうしてアオイはそうナンパされやすいかな」
「シズクちゃんが地雷系ファッションを指定して来るからでしょ」
「前もナンパされていたよね? 一人で振り切れないの? 男なのに」
「振り切ったよ! 二回も! でも三人目がしつこくて」
「三回!? 駅からも出れてなかったよね?」
「……地雷系ファッションがナンパされやすいって本当だったんだね」
今日のナンパ回数は異常だった。
誤魔化すために視線をそらし、髪をいじっているとシズクちゃんがじっとボクを見て黙り込んだ。
「なに?」
「かわいい……男なのに。地雷系ファッションが似合いすぎる男ってなんだろう? 私じゃ絶対似合わないのに」
「シズクちゃんもしてみれば?」
「いや……目の保養はアオイでできたからいいや。どうせ似合わないし」
「またそういうことを言う。シズクちゃんも可愛いのに」
シズクちゃんは昔から可愛いモノが好きだ。
でも自分には似合わないと思っている。
シズクちゃんお母さんもシズクちゃんと同じように可愛い服装が好きでよく買ってきていたのだが。
『男女が変な格好をしてる』
小学生男子の愚かな暴言によって、着なくなってしまった。
シズクちゃんは可愛いのに。
今は美人だけど性格は昔と変わらず可愛いモノ好きなままで。
ボクを着せ替え人形に見立てて、自分が着たい服を着せてくる。
『ねえアオイは私のこと好き』
『うん』
『なら一緒に髪を伸ばしてくれる? 髪を伸ばせば私も女の子らしくなれるかもしれないから』
『わかった』
始まりは小学生の口約束。
元々女顔だったボクが髪を肩までおろすようになると女の子に間違えられるようになった。
けれどショートカットで男の子と間違えられやすかったシズクちゃんが、どこからどう見ても立派な美しい女性に育ったのだから大切な約束だ。
ボクが髪を切ろうとするとシズクちゃん必死に止めてくるし、シズクちゃん以外からも止められてしまうのは意味がわからないが。
「ねえシズクちゃん」
「なにアオイ?」
「ボク達もう高校二年だよね」
「そうだね」
「ボクはいつになったら男らしくなるのかな? 髭も生えないし声変わりも始まらないんだけど」
「……アオイはそのままでいいと思うよ。可愛いし」
好きな女の子のためにボクは今日も女装する めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定 @megusuri
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