第6話八千代は八尺様

尺菜毛館に泊まることを一ノ瀬さんに告げると彼はそうですかと笑顔で言い、車で帰って行った。


夕食は八千代さんと一緒にとった。

彼女のつくる唐揚げはご飯によくあい、とても美味しかった。

彼女と結婚したらこんな食事を毎日食べられるのだろうか。

「ええっ毎日つくってさしあげますよ。ぼっぼっぼっ……」

八千代さんは言った。

それにしても妙な口ぐせだな。


食事の後、僕は温泉に入るようにすすめられた。

温泉旅館というだけあって、そのお風呂は素晴らしいものだった。

山道をぬけてきた疲れが吹き飛ぶ。

ガラガラと扉をあけ、誰かが入ってきた。

それは八千代さんだった。

八千代さんはその豊満な体にバスタオルだけを巻きつけていた。大きすぎるバストのためか、バスタオルが今にもずり落ちそうだ。

僕はタオルが落ちることを祈った。


「ぼっぼっぼっ……」

またあの口ぐせだ。

「背中ながしますね」

八千代さんはそう言い、僕の背中に胸を押し付ける。背中に無上の柔らかさがつたわる。

「ぼっぼっぼっ……」

あの口ぐせが耳元に聞こえる。

その口ぐせを何度か聞いて、僕はある都市伝説を思いだした。

尺菜毛八千代という名前に尺と八という文字が使われている。ひっくり返すとハ尺になる。そう八尺様だ。

巨人の女妖怪で、男をとらえて食べてしまうという。

ぼっぼっぼっといいながら、男に近づくというのだ。


「は、八尺様……」

思わず僕は呟く。

振り向くと巨大になった八千代さんがいた。昼間に会ったときは百九十センチぐらいだと思われたが、今はもっと大きくなっている。

背中から手を伸ばし、僕に抱きつく。

温かくて柔らかで、気持ちよすぎるのだが力強くて脱け出せない。


「そうです。わたくしは八尺です。この尺菜毛村は妖怪の村なのです。一ノ瀬さんのところに行けるのは妖怪を認識できるものだけなのです」

それはあまりにも衝撃的な事実であった。

一ノ瀬の言っていた特別とはそう言うことだったのか。

「ぼ、僕を食べるのか」

僕は尋ねる。

「いいえ、旦那様を食べたりしませんよ。この村の妖怪たちは村からでられません。長であるわたくし以外は。だから外界とのつなぎ役をしてもらいたいのです」

八千代さんは耳元でささやく。


僕はその話を受けることにした。

妖怪でも八千代さんのような美人と結婚できるなら、それでいいと思ったからだ。

その日から妖怪が住む尺菜毛村での生活がスタートした。

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