第4話お見合い準備

賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶという。僕はこの言葉は間違っていると思う。本当の愚者は何も学ばない。経験から学ぶのもまた賢者だと思う。


僕の好きなサイゼリアを否定されたのは悔しいが、高柳美彩季が言っていたことにも学ぶべきことはあった。

確かにあのときの僕は着古した服でいき、ばっちりおしゃれをしていた美彩季とつりあっていなかった。


僕はあの絶世の美女である尺菜毛しゃくなげ八千代やちよとお見合いするための服を買いにユニシロに来ていた。

新しく服を買うにしてもどこに行ったらいいかわからないので、僕が知る限り一番無難であろうユニシロにした。

僕はあのいかにもリア充なショップ店員が苦手なので、このユニシロなら安心して買えるんだよな。

でもいざ来てみたら、服が多すぎて迷ってしまう。軽くパニックになっていたら、僕の名前を呼ぶ声がした。


「里中じゃないの?」

声の方を見ると小柄で猫のような顔をした女性が僕の顔を見ている。

同期の鈴木里江だ。

「あんたこんなところで何してるのよ」

「お見合いに行く服を探しているんだ」

パニック状態の僕は思わず言ってしまった。

言ってしまって後悔した。

こんなことを知られたらまたどんな悪口を言われるかわからない。


「お見合い……」

鈴木里江は笑わずにその単語だけを繰り返した。

「ふーん。キモナカあんたお見合いなんかするんだ、今時ねえ」

鈴木里江は小さな胸の前で腕を組む。

「いいわ、私が選んであげる。キモオタのあんたじゃアニメ柄の服とか着そうだし」

何故か笑顔で里中は僕の手を引き、あれこれ選びだした。

里中は強引に僕の手を握ると試着室に連れていく。ブラウンのジャケットと同じ色のパンツを試着させる。

「うん、まあまあね。これなら人前に出られるわ。あとはそのうっとうしい髪ね」

背の低い鈴木里江は背伸びし、僕の髪に触れる。

「髪質つやつやじゃないの、キモナカのクセに」

鈴木里江はくるくると僕の髪を指に絡める。

「特別サービスよ、私の行ってる美容室に連れていってあげる」

鈴木里江はそう言うと試着した服を僕に買わせ、これまた強引に手をつなぎ、むちゃくちゃおしゃれな美容室に連れていった。


その美容室は陰キャの僕にとってかなり居心地の悪い場所だった。

そこでキャサリンさんという国籍性別不明の謎の美人に僕は髪を洗われ、カットされ、髭をそられた。さらにマッサージまでしてくれた。

「ほら、里江ちゃんの彼氏ハンサムになったわよ」

キャサリンさんが言う。

鏡に写る僕はハンサムには程遠いと思うけど、かなり小綺麗にはなっていた。


「もう、そんなキモナカなんて彼氏なわけないでしょう。ま、まあちょっとは見れるようになったんじゃない」

鈴木里江は何故か顔を真っ赤にして、そう言った。


美容室を出た僕は鈴木里江に礼を言った。かなり強引だったけどこれで尺菜毛八千代さんにあっても恥ずかしくないと思う。


「どうせキモナカのお見合いなんか失敗するに決まってるんだからね。だからその時は私がサイゼリアで慰めてあげるわ。今日のお礼も込めておごりなさいよ。私、あそこのディアボラハンバーグ好きなのよね」

里中は別れ際にそう言った。

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