第2話一ノ瀬結婚相談所

僕は一ノ瀬弧二郎と名乗る男の後に続き、その雑居ビルに入る。エレベーターで三階に登り、その相談所に案内された。

「どうぞどうぞ、お掛けください」

一ノ瀬に促されて、来客用であろうソファーに座る。


「ようこそ、一ノ瀬結婚相談所へ。刑部ぎょうぶさん、お客様にお茶とお菓子を」

一ノ瀬がそう言うと奥から、ぽっちゃりとしたおばさん事務員が姿をあらわし、僕の前に紅茶と マドレーヌを置いてくれた。

彼女は刑部ぎょうぶ狸菜子りなこという名で、この相談所で事務員をしていると一ノ瀬が紹介した。


僕は紅茶をひとくち飲み、マドレーヌを食べた。マドレーヌは心地良い甘さで、無糖の紅茶にとても合う。

「里中様、さっそくですが当相談所は特別な方のみ仲人をおこなっています……」

一ノ瀬は特別という言葉のイントネーションを強く言った。

そんな言い方をされると疑心がむくむくと沸き上がる。


「そう身構えなくても大丈夫ですよ。当方は誠実をモットーに仲人をおこなっています」

一ノ瀬はその言葉のあと、入会金は無料で、紹介料のみ一万円だと言った。

料金はそれのみだと言った。

結婚相談所の相場はよくわからないが、格安なのではと思えた。

こんな料金で相談所を経営していけるのだろうか。


僕は憧れの先輩にふられたばかりで、どこか自棄気味でこの一ノ瀬結婚相談所と契約してしまった。

「それでは里中様に良いご縁を……」

その言葉を背に、僕は相談所を後にした。

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