スタートラインに立つのをやめて勝者になる私

鹿嶋 雲丹

第1話

「位置について、よーい!」

 スタート!

 っていうあれ。

 心臓に悪いんですよね。

 勉強もいまいちだったけど、運動はピカ一でダメだった私……短距離走なんてもってのほか。

 だけど、そんな個人的な事情により運動会や持久走大会は中止にならず、私はいつも暗い顔でスタートラインについていましたよ。

 親は揃って楽しそうに観戦しに来てましたし。

 なにが楽しいのか……もう、位置について、っていうけどさ、わたしゃ今すぐここから逃げ出したいよ!

 それが本音でした。

 

 逃げ出したいスタートラインは、人生の内でしばしば訪れました。


 ここにいくつか例を挙げます。


 例えば、出産時。

 いいったああああいぃい!!

 今すぐ逃げたい、逃げ出したい、助けてぇ!

 はい。痛かったんですよ、出産時。

 二人目三人目となると、もうどれだけ痛いか知ってるから、うっすら覚悟ができてたけど、一人目の時は知りようがなく。

 おい! こんなに痛いなんて聞いてないよ! なんとかならんのかい! おいぃい!

 ……なりません。命を生み出すってのは大変な作業なんでございます。


 例えば、子育て。

 はい、私、育児ノイローゼになりました。

 22年程過去のことにございます。

 上の子は2歳、真ん中の子がベビーだった頃ですね。

 逃げ出したい、というより、意識的には逃げ出していた気がします。だって、記憶がほぼありませんもの(笑)。

 これ、いまだから笑えますけどね。

 今の私が当時の私の前で笑ったりしたら

「なにがおかしいんじゃ、ワレ?」

 と、まちがいなくブチギレられるでしょうね。

 まあ、でもこの出来事があったからこそ、自分はやる気になれば何でもできちゃう人間じゃないんだ、と気付いたわけです。

 それまでは、ここまでやりゃあいいんでしょ的な感じで生きていたので。

 挫折を味わうのも、けして無駄ではないですよ。

 ……多分ですけど。


 位置について、よーい!

 スタートの掛け声は、今は必要ありません。

 なぜなら、他の人と競う必要がないからです。

 ああ、やっといい時代がきましたね。

 背比べをするなら、過去の自分自身と。

 やりたいことやってる?

 人生楽しんでる?

 イエス!

 そう言えたら、私は常に勝者だと思います。

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