◆第三章⑮ 『月』の盗賊団=クレセント
――約3年前。テオ、若干7歳。
孤児だったテオは、北東のグラハム王国の貧困街でコソ泥をしていた。
「おい、『月』の連中がまたやってくれたそうだぞ! 南部の諸侯の1人、暴君ザルノクの宝物庫を襲撃したらしい! 奴隷も解放されたそうだ‼」
「やるねぇ! 暴君ザルノクもおしまいだな‼」
その日は、ある一団が正体を伏せ、貧困街で炊き出しをしていた。
その一団の名は、『
テオはそんな事を露知らず、ある男の持ち物を〈掏ろう〉としていた。相手は、
当然、グライフは見逃さず、テオを捕まえた。
「何故、お前のような子供が盗みを働くんだ?」
「……い、生きるためには仕方ないだろ……み、みんなが称える
「俺達は、これでも義賊と云われている」
「……あ、あんた、
「確かに、盗みは悪党のする事だ。俺達は別に正義の味方じゃないし、褒められたもんじゃねぇ……だがな、この世にはもっと悪い連中が権力を振りかざして、好き勝手にやりたい放題だ。表向きは清廉潔白なツラをしておきながら、裏で人身売買をしてる連中もいる。俺達はそういう奴等を野放しにしたくねぇのさ」
「……ね、ねぇ! オ、オイラも仲間に入れてくれよ! て、手伝わせてくれ……‼」
「…………お前、親は?」
「……お、お父ちゃんは、ザルノクの配下に殺された……。な、何にも悪い事してないのに、村の女の子が連れて行かれるのを見過ごせなかったんだ……。お母ちゃんは女手一つで一生懸命育ててくれたけど……去年、病気で死んだ……」
テオはグライフの腕を掴み、ボロボロと涙を流し始めた。
「は、半年前に……、い、妹も……死んだ‼ オ、オイラに力があれば、妹を助ける事ができたんだ……‼」
「……わかった。この俺の一瞬の隙を突く程だ。お前の腕を見込んで、受け入れてやる」
こうしてテオは
◇ ◇ ◇
――およそ20年前。
財宝がある洞窟の探検から始まり、初期はその辺の『冒険者』と大差のない活動を繰り返していた。グラハム王国の大臣の依頼で魔物を退治して、財宝を得る事もあった。
仲間が増えて徐々に活動の範囲を広げ、ある程度、力を付けた頃、強権的な権力者の悪行を暴き、財宝を盗み、半分以上を苦しむ人々に分け与えたりした。
所謂、『義賊』だったのだ。
評判は広がり、徐々に仲間が増え、数十名の盗賊団に膨れ上がっていった。
◇ ◇ ◇
グライフとグレースは幼馴染で、グラハム王国北東部の小さな村で暮らしていた。
グライフ14歳、グレース12歳の頃、魔物を使役する軍団に村が襲われた。2人は地下室に閉じ籠もり、何とか生き長らえた。村を救ったのは、『聖騎士団』と、ダンケル率いる『
狙いはグレースだった。
グレースは近隣諸国に知れ渡るほど、優れた占い師としての名声を得ていた。類い稀な予知能力を持つ、『魔神器:ハリの水晶』に選ばれた血族の末裔だからだ。
そして、グライフとグレースは、『
ダンケルとハイトの兄弟は、グライフの師となった。
グライフはメキメキと力をつけ、数年後、裏で繋がりがあった『聖騎士団』から勧誘を受けた。グライフ自身は、チャンスをモノにしたいと考えていた。
ダンケルは仕方なく、それを承諾した。
聖騎士団は、グラハム王国に属しているわけではない。
この大陸全土に広がる『月神信仰』の『アフラ・ルナ教』の『聖王』直属である。
聖騎士団には、ハーディーがいた。彼らは数ヶ月差で、ほぼ同期だった。
しかし、今から約4年ほど前、グライフは『聖騎士団』を脱退し、『
グライフは聖騎士失格の烙印を押された。グライフが
◇ ◇ ◇
――テオが加入した翌年。
ある日、昔からツテがあったグラハム王国の大臣から、魔物退治の任務を請け負った。
それはグラハム王国の中枢にまで昇り詰めたザルノクの謀略であった。
ザハールは『蛇の霊薬』を用いて、盗賊団の強化に成功した。
ザハールが加入し、『
ダンケルは『蛇の霊薬』の効果で、狂暴性と凶悪性が増し、弟のハイトを殺された怒りも相まって、タガが外れ、良心を失っていった。
極めつけは、グラハム王国消滅事件だ。
グライフ達はそれらの野蛮な計画に参加しなかったが、心を痛めている。
グライフは、どうにかダンケルを内部から止めようと努力している。師であるダンケルを改心させ、その妻のグレースを救おうとしている。
グライフにとって、グレースは幼馴染でもあり、誰よりも『大切な女性』だ。そして、その娘のエマと、生まれたばかりのリヒトも救おうとしている。
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