◆第三章⑭ 悪魔の計画

 先頭にビト、アルルを抱えた俺、横並びにブラダとテオ、ランバート、ハーディーという陣形で、俺達は順調にハイマー村に向かっていた。


 まさか、ハーディーが『魔神器:有翼のアンクレット』に選ばれし者だったなんて、驚きだ。選ばれし者ってからには、『魔神器』には人格のようなものが備わってて、認められないと所有者になれないという事なのだろうか。ここまで歩きながら、俺達はその話で持ち切りだった。


 


 視界が開けた崖の上を通った時、今まで見えなかった南の空に浮かぶ2つの巨大な月が目に入り、俺は驚愕した。2つの巨大な月は、かなり低い位置に浮かんでいた。


「え⁉ 何あれ……⁉ あれも『月』……なの?」


「あ、初めて気付いたのね。確かにさっきまで森や山が陰になって見えてなかったね」


 ブラダが応えた。テオは「そんなの当たり前だろ?」と、きょとんとしている。


「南西の月は『ルナ・フォルテ』だよ。並行する二重の輪っかが特徴ね。南東の月は『巨月のオヴム』で、気が付けば、色が変わるような不思議な月なの」


 ルナ・フォルテには幾何学的な模様があるように見えた。そして、巨月のオヴムはまるで木星のように渦巻いていて、手を伸ばして持ったバスケットボールのように大きい。異常な大きさだ。木星のように大きな斑点があるが、より中心に近い位置にあるため、まるで『巨大な目』に見られているかのようだ。


 俺はルナ・フォルテと巨月のオヴムに、不自然な違和感を感じた。


「なんか……形がおかしくない……?」


「え? 何が?」


「だって、真上にある白と赤と緑の月は、半月みたいになってるのに、あっちの2つは半月じゃないよ……」


「確かにそうなのよねぇ……。昼間は同じように半月に見えるんだけど、南の大きな2つの月は、夜は基本的に満月なの。不思議よね」


(どういう事だ……? まるで自己発光してるみたいだ……)


 


 真夜中の山中だったが、さすがに5つも月があると、月明かりで『都会の夜』程度の視界が確保されている。相変わらず、もう1つあるはずの月は見えなかったが……。


 さらに、ビトとハーディーは暗視魔法を使って夜目が効くようだ。特に感知能力が高いビトが居る事で、安全な道を選べている。仮に魔物が出ても、ハーディーがすぐにやっつけてくれるだろう。ようやくまだ見ぬ『我が家』に帰れる。


「でさぁ、テオ。結局、ボクが狙われてる理由って、何なの?」


「あ~、そう言えば、言いかけてから話せてなかったね。なんか、『ザハール』っていう気持ち悪いジジイが、レイリア姉ちゃんは〈アニマル何とかの少女〉って言ってた。魂を封印する力があるんだってさ。自分で気付いてる?」


「アニマル……魂……つまり動物の魂を封印……ってコト?」


 俺は『気合いだーっ‼』を連呼するおじさんを頭の中に浮かべ、少しばかりニヤけてしまったが、ブラダは蒼褪めて、少し震えるようなそぶりを見せた。


「ブラダ? どうしたの?」


「わ……わからないの……。お、覚えているようで思い出せなくて……何か、恐い動物の夢を見た気がして……」


 ビトが振り向いた。


「もしや……、アニマルではなく、『アニマ・アルカ』……ではないか……?」


 この時、最後尾のハーディーが「ピクッ」と反応したが、黙って聞いていた。


「あーっ‼ そうだ‼ それだっ! それそれ!」


 どうやらテオは勘違いしていたらしい。


「よー知らんが、聞いた事はあるのぉ……そもそも、確か……」


 ビトが顎を押さえて考え込んだ。ブラダは「ハッ」とした。


「あ……、ごめんなさい。恐い動物って、ビトさんの事じゃないですよ?」


「ん? はっはっは。気にせん気にせん! ワシの事なんて思っとらんし! こんなにかわいい兎ちゃんじゃぞ?」


 ビトが珍しくかわい子ぶって両手の指でほっぺをぷにっとした。


 ポカーン……全員、呆気に取られた。


「さて、気を取り直して、進むとするか」


 ビトが振り向いて、再び先導し始めた。そして、テオが話を続ける。


「それで、ここからがザハールのヤバいところなんだけど……『白い髪の少女の手足を切り取って、死なない程度に生かして、その能力だけを利用しよう』って話をしてるのを聞いちゃったんだ。まさに、レイリア姉ちゃんの特徴そのまんまだった」


 テオは、さらっと、とてつもなく恐ろしい情報を伝えてきた。一同、ドン引きした。


「オイラはそんな計画には賛同できない。オイラはレイリア姉ちゃんを助けたい一心で逃げたんだ。誰よりも先にレイリア姉ちゃんを見つけて、助けるために……‼」


 ブラダは少しショックを受けたようで、口を押さえ、蒼褪めていた。


 俺はその話を聞いて、血の気が引き、「ゾゾゾッ」と、背筋が凍る思いがした。


(……マ、マジかよ……。思ってた以上に危ないところだったらしい……)


「そ、そっか……。本当に助かったよ……ありがとう……テオも命懸けで……」


「お、お姉ちゃん……? ど、どうしたの?」


「え?」


「レイリア?」


「レイリアちゃん?」


「お、おい、レイリア……」


 無意識的にボロボロと涙が零れていた。


 少し離れて警戒しながら歩いていたランバートとハーディーも近くに来た。


「レ、レイリア! 大丈夫⁉ 大丈夫だよ……。私が……、いえ、ハーディーもビトさんもランバート君もテオ君も、アルルもいる! みんなで護ってくれるから……‼」


 ブラダはそう言って、俺の肩をグッと引き寄せて、歩きながら抱きしめてくれた。


 あぁ……、何て幸せな気分になれるんだろう……。母親の温もりを思い出した。


 アルルも「く~ん」と鳴いて、俺にスリスリして、慰めてくれているようだ。


 アルルを『もふもふ』して、さらに気分が癒されていった。


 ブラダとアルルには、強い癒しの力があるに違いない。少し気分が落ち着いてきた。


「ねぇ、テオはどうしてサー盗賊団ペントなんかに居たの? あんなヤバい組織に……」


「……それは、グライフさんに憧れて付いて行ったんだ……。オイラはグライフさんに助けてもらった……。だから、勝手に抜けたのは『申し訳ない』と思ってるよ……」


 テオは空を見上げた。

 

 

 

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