◆第三章⑫ 空中戦

 上空には霧が発生している。ハーディーは暗視魔法『ナハト・ジヒト』を使って夜目を効かせている。その上、月明かりが強く、霧が浮かんでいるのはよく見える。


「なるほど……霧隠れ魔法『ヴェルム・ミストゥル』か……それに静寂魔法を合わせて、音もなく近付かれたってわけだな」


 ハーディーは考えていた。


(飛行時間、最低30秒は必要だ……。だが、ゆっくり歩きながら、集中して、飛行エネルギーをチャージする事ができていた。後は、有翼のアンクレットに魔力を集中し、最短時間で起動する)


 ハーディーの両足それぞれの足下から螺旋を描くようにフワッとした柔らかい光が発生し、両膝下それぞれが光の旋風で包まれ始める。


 飛行エネルギーのチャージは、本来は地面にしっかりと足を固定しなければならなかったが、ハーディーは長年の修練で、多少は動きつつもチャージできるようになっていた。しかし、ガイウスの上空からの攻撃を回避すると、チャージが疎かになり、折角チャージされたエネルギーが無駄に放散される惧れがある。


(なるべく最小限の動きで、足下に集中しながら、敵の攻撃を防ぐ……‼)


 ガイウスの飛竜が、上空からハーディーに何度も攻撃を仕掛ける。


 キィンッ! ガキィンンッ‼ ガンッ! キィンッ‼


「ハッ! ハァッ! いいぞヴィフル‼」


 ガイウスはまるで馬を駆り立てるかのように声を発した。


 レイリアとブラダからすれば、目にも留まらぬ速さと、恐るべき強さの攻防だ。


 ハーディーは衝撃魔法『パイネ・アールト』を発して、衝撃波で飛竜を若干吹き飛ばし、素早くバックステップして、距離を取る。


 そして、魔力を『魔神器:有翼のアンクレット』に集中する。


 それまで他者にはほとんど見えていなかったが、ハーディーの両膝下それぞれを包んでいた光の旋風が、加速度的に勢いを増し、光を放つ。


「んん? 何だそりゃあっ⁉」


 ガイウスが目を見張る。


「ピイィイィィィエェェェェェェ‼」


 飛竜が甲高い雄叫びを上げた。


 ブンッ


 ハーディーは垂直に浮き上がった。


「な、何ィッ⁉ こ、こいつ、飛べるのか⁉」


 ガイウスは驚愕した。


「えっ⁉ ハーディーって空飛べるの⁉」


 レイリアも驚きを隠せない。ブラダが目を輝かせてニヤリとした。


「そうよ! だから言ったじゃない! ハーディーは最強だって……‼ ハーディーは、『魔神器:有翼のアンクレット』に選ばれし者なんだから……‼」


「えっ⁉ えっ、えぇっ⁉ ま、『魔神器』に選ばれし者……⁉」


 


 ハーディーは上空から飛竜を見下ろした。


(30秒だ‼)


 ハーディーは空中を蹴るような挙動を見せる。『ファルコン・ダイブ・アタック』だ。


 まるで空中に下向きのジャンプ台が存在し、弾かれるかのような爆発的加速。


 ボンッ‼


 ハーディーは飛竜の首に狙いを定め、瞬時に、最高速度の時速400キロ以上まで加速して急降下した。急降下時の速度はさらに上回る。


 ザシュッ‼


 しかし、ガイウスが上手く操作して、致命傷を免れる。


 ハーディーの攻撃は〈飛竜の魔霊気〉を貫通するが、ドラゴンである飛竜の鱗は硬い。


 さらに、ドラゴンライダーの恐るべき特徴で、ライダーのガイウスと飛竜は、『魔力共鳴』による相互作用でお互いのレベルを上昇させ、強化し合う関係性ができている。


 即ち、〈バフ効果〉があるという事だ。


「チッ! エレメ・ピセラ‼」


 ガイウスは飛竜を操作しながら、回復魔法で飛竜の首を治療する。


「まさか飛べる奴がいるとは……ヴィフル、霧を発生させろ!」


 飛竜のヴィフルは魔法使いタイプの飛竜だ。魔物なので当然無詠唱で魔法を発動できる。ヴィフルは霧隠れ魔法『ヴェルム・ミストゥル』を発生させ、同時に静寂魔法『シレンシオ』で音も消す。この霧は魔力感知を乱す事もできる。


 一方でハーディーは紛れもない戦士タイプだ。多くの属性を広範的に極められる魔法使いと比べ、戦士タイプは、1~2種類と得意な属性を絞りつつ、強化魔法を極める事に向いている。しかしハーディーが唯一得意とする属性は『風』だ。空中戦との相性が良い。


 ハーディーは霧の中に突入し、無詠唱で旋風魔法『ヴァルテージ』を発動して乱気流を起こし、霧を飛ばしつつ、飛竜の飛翔を乱す。


 しかし、既に飛竜は上昇している。今度は逆に、飛竜が上空から突撃してきた。爪ではなく、牙を剥く。


 ガキィイィンッ!


 ハーディーは二刀流になり、攻撃を防ぐ。通常、ハーディーはもう2本の剣を装備しているが、レイリアを背負った時に外して、ブラダに持たせていた。


 ハーディーは左手の剣『鷹鸇ようせん』を落とした。ガイウスはその隙を見逃さず、「ニィッ」と嗤い、飛竜から乗り出て、圧縮して装備していた『竜槍』を無詠唱で元のサイズに戻し、拡大時の勢いも利用して、高速で刺突する。「ビュッ!」と風を切る。


 ガンッ!


 ハーディーはその攻撃を類まれな動体視力で瞬間防御魔法『エスクード』で弾く。


 ハーディーが落としたはずの左手の剣が、彼の左脚に〈強力な磁力で吸着されたように固定〉されている。拘束魔法『コンストレイン』で〈自らの足に剣を拘束した〉のだ。拘束魔法の効果は、強力な握力でしっかり握り込んでいるほどの強さ。決して離れない。


 ハーディーは蹴りを繰り出し、足先に拘束装備した剣で飛竜の喉元に剣を突き刺した。


 ブシュッ!


「ギィイィエェエエエェ‼」


 飛竜の喉元から激しく出血し、墜落していく。ダメ押しで、ハーディーは再び上昇し、右手の剣『鶻影こつえい』を両手持ちして、最高速度の急降下攻撃を繰り出す。


 ザンッッッッ‼


 ハーディーは飛竜の首を一刀両断した。ガイウスの飛竜は絶命し、墜落していく。


 この高度で真っ逆様に落ちれば強化魔法で強化しても全身骨折は免れない。ガイウスと飛竜は拘束魔法で繋がっていた状態だったが、ガイウスは拘束状態を解き、バランスを崩しながらも自ら飛び下りて着地しようとした。


 ハーディーはそれを見逃さず、追撃の強烈な蹴りでガイウスごと飛竜を蹴落とした。


 ドシャアァンッ‼


「グッ……クソがぁっ‼」


 ガイウスは右腕と両足を骨折し、頭部からも血を流している。即座に中級回復魔法『エレメ・ピセラ』で自らの傷を修復し始めたが、これ程の大怪我だと時間がかかる。


 勝負は決した。


 ハーディーも着陸。「クハァーッ」と息を吐いて片膝を突き、剣を地面に突き立てた。


「ハーディー‼ 大丈夫⁉ エレメ・ピセラ!」


 レイリアとブラダ、2人から回復魔法をかけられる。元々この2人の回復効果はガイウスの回復魔法を上回っている上、2人同時となれば、かなりの回復速度だ。


「あぁ、ありがとう。2人とも……」


 ハーディーは起き上がり、ガイウスに近付いて、剣を首元に突き立てる。


「降参しろ」


「……ぐっ……ちくしょう‼ ……てめぇ、何なんだ? その飛行能力は……?」


「……さぁな? 何だろうな?」


「チッ……」


「‼ ハッ!」


 一同は、強い魔力が近付いて来る事に気付いた。


 ゴッ


 ハーディーは直感的にガイウスの顎をぶん殴って、気絶させた。 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

良かったらフォローといいねをお願いします☆

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る