◆第三章⑩ 人間の魂(前編)

 破壊音が響く〈結界の石碑〉では、濃紺のローブを着てフードを被ったサー盗賊団ペントの魔導師2人が結界の効果を相殺するように魔力の波動を放射している。そして、〈結界石〉を破壊しているのは、巨大なハンマーを手にした、牛頭で人型の魔物『ミノタウロス』だ。このミノタウロスは体中に傷と縫い目がある。


 ガゴンッ! ゴッ‼


 ミノタウロスは結界石への攻撃を続けている。


 そこに、スプレンディッド、アインハード、ノーマッズの3人が到着した。


「おいおいおい……どういう事だ……魔物の侵入を防ぐための結界を発動する石碑を、魔物自身が破壊している……だと?」


「あの、魔導師2人が『結界の魔力』を相殺しているんだわ!」


「チッ! 何だ貴様らは……」


 右側の魔導師が鋭い眼光を見せた。ミノタウロスは動きを止め、こちらを向く。


「グモォオォ……」


 ミノタウロスは牛と魔狼の鳴き声が混じったような声を出した。


「イージーだわ。あの魔導師2人をやっつけちゃえば、ミノタウロスは結界の魔力で身動きが取れなくなる! イクレア‼」


 スプレンディッドは『紅玉の魔杖』を向け、右側の魔導師に向けて電撃魔法を放った。


 パキィイィン! とガラスが割れるような音が鳴り響き、〈青白い電光〉が放たれた。


「バカが……」


 バリバリバリバリ……‼


 電撃魔法は、右側にいた魔導師自身が纏う防御結界によって拡散された。


「あ、あれは、防御結界魔法『アミナ・バリエラ』……‼」


「なるほど、結界を結界魔法で相殺させて魔物を侵入させたか……」


「しかし、常にかけ続けなきゃいけないみたいよ……それなら!」


 スプレンディッドとアインハードが戦いの構えを見せたところ、ノーマンが突如、左側にいた魔導師の側面に現れた。


「何ィッ?」


 グサッ!


 ノーマンは圧縮して隠し持っていた『黒影の槍』を出し、魔導師の腹部を突き刺した。


「ぐふっ」


 左側にいた魔導師は意識を失った。


「やるじゃない!」


「足音を消して、さらに迷彩魔法と圧縮解除魔法を使ったのか……!」


 スプレンディッドとアインハードは驚きを隠せない。


「あぁ、魔導師と違って持続時間は数秒程度だがな……初手の不意打ちには良いだろ」


「どうだ、ワイらのリーダー中々やるだろ! 戦士でもこういう戦い方ができるんだぜ」


 坊主頭のホリオが後ろから言った。


 シュンッと風を切る音がして、同じ技で、小柄なマッツが右側の魔導師の背後を狙うも、バンッと、マッツは後方に吹き飛ばされた。こっちの魔導師は、より高レベルだ。


「つっ……」


「バカどもが……魔力感知をすれば、こんな手は通用せん。ミノタウロス‼」


 ミノタウロスがスプレンディッドに向かって突撃し、巨大な槌を振り下ろす。


 バゴォンッ! と地面を砕くが、スプレンディッドは素早く回避し、距離を取る。


「アイン、あんたはその化け物をやっつけて頂戴!」


「了解!」


 魔導師は無詠唱で魔力弾『マギア・スフェイラ』を撃ち、スプレンディッドを牽制した。スプレンディッドも同じく魔力弾を撃ち返し、相殺する。


 一方、アインハードは、アンダースローのような軌道で『白鳥のレイピア』を振り、切っ先で地面を斬りつけた。


「クールス・ド・ジーヴル‼」


 アインハードがレイピアの切っ先で地面を斬ると、真っ白な氷結が走り、斬った場所からミノタウロスの足下まで一直線に伸びた。


 パキィン!


 ミノタウロスの足下が凍り付く。


「何だと⁉ ……氷の魔法か! 剣士の分際で、珍しい魔法を使う!」


 魔導師は驚きを隠せない。


「これは魔法を応用した『魔技』だ……そしてこっちが魔法! グラキエス‼」


 アインハードは無詠唱で氷結魔法『グラキエス』を使いこなせるが、あえて呪文を唱えた。アインハードの左掌の前に、氷の塊が生成される。全ての指を前方に向ける。


「バル・ド・グラス‼」


 アインハードが生成した氷の塊が、無詠唱の衝撃魔法『パイネ・アールト』の衝撃波で砕け、氷の弾丸となる。魔技『バル・ド・グラス』だ。


 ヴァキィン‼ ドガガガガガガガガガガガガ‼


 ミノタウロスは数十発の氷の弾丸の直撃を受けた。質量が重い氷は、電撃と違って防御結界魔法『アミナ・バリエラ』でも防ぎにくく、ミノタウロスの防御結界を貫通した。


「グモオォオォッ!」


 ミノタウロスはもんどり打って倒れた。凍り付いた足下の皮膚が剥がれる。ドス黒い血が出たが、出血は少ない。ミノタウロスの魔霊気によって、氷の弾丸のダメージはそれほど深くないようだ。


 倒れたミノタウロスに、すかさずノーマッズのノーマンとホリオが追撃する。


 ホリオが『魔鋼の斧』で首を狙い、ノーマンが『黒影の槍』で心臓を狙う。


「ボアァッ‼」


 ミノタウロスがこれまでと違った雄叫びを上げた。


 ボンッ


 衝撃波がホリオを上空に吹き飛ばし、「ぐあぁっ!」とホリオは声を上げ、落下した。


 しかし、ノーマンの『黒影の槍』は命中し、深く突き刺さった。


「ふぅ……。大丈夫か、ホリオ⁉」


「ぐへぇ……な、何とか生きてるぜ……」


 その時、魔導師が不敵な笑みを浮かべた。ノーマンは油断した。ミノタウロスは心臓を一突きにされたにもかかわらず、動き出して、ノーマンを素手で殴りつけた。


 ガッゴォンッ‼


「な……っ! 何だと……⁉」


 ノーマンは油断してモロに喰らい、数十メートルぶっ飛ばされた。


「な……、何故、生きている⁉」


 アインハードは驚愕した。


「ノーマン! コノ野郎‼」


 起き上がったミノタウロスの背後にマッツが飛び掛かろうとするも、素早く振り向いたミノタウロスの角に弾き飛ばされる。


「ぐぁっ‼」


「アルミュール・ド・ラム・ジュレ」


 パキパキパキパキ……


 アインハードは全身に氷の刃の鎧を身に纏い、ミノタウロスと対峙する。


 ガンッ!


 アインハードは、氷の籠手『ガントレ・ド・グラス』をクロスさせ、ミノタウロスの巨大な槌を防いだが、氷の籠手は砕かれ、弾き飛ばされた。アインハードの顔が歪む。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

良かったらフォローといいねをお願いします☆

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る