◆第三章⑨ ノーマッズ
推定時刻 17:30
スプレンディッドとアインハードは、ハイマー村に滞在中の冒険者3人組の『ノーマッズ』を追っていた。彼らは余りにも怪しい。
既に日が落ち、森の中は暗いが、5つも浮かぶ月明かりで全くの暗闇というわけでもなく、さらに2人とも暗視魔法『ナハト・ジヒト』を使って夜目が効いている。
引き続き静寂魔法『シレンシオ』と迷彩魔法『ヴェルフ・エフェクト』で足音も出さず、周囲に溶け込んでいた2人は、暗闇の中、目立たずに行動できていた。
ノーマッズの後を追う。彼らは別の石碑=結界石に到着した。再び結界石を調査するように見て、何もせずにさらに北に向かおうとした。
パキッ
その時、スプレンディッドが足音を立ててしまった。静寂魔法『シレンシオ』の効果が消えたのだ。ノーマッズは振り向いてこちらを見ている。
「何だ? ……兎か?」
30代半ばで長身痩せ型の飄々とした顎髭の男が聞いた。
ノーマッズは全員同年代に見える。
「い、いや、見ろ……ゆ、幽霊だァーッ!」
小柄な無精髭の男が叫んだ。
迷彩魔法『ヴェルフ・エフェクト』の効果も薄れ、半分背景に混じった人間となって見つかってしまった。日も落ちているので、ノーマッズからは幽霊にしか見えなかった。
「うわわわわ……だぁから、『もう帰ろうぜ!』ってワイは言ったじゃねぇか!」
坊主頭で筋肉質な男がそう言って、ノーマッズの3人は、慌ててハイマー村の方角に逃げ戻って行った。
「どうします?」
「確かに、もう日が落ちて暗いし、姿も見られた。何か幽霊と思われ続けるのもシャクだわ。追いかけて問い質すっ! 待ちなさいっ‼」
スプレンディッドは無詠唱でヴァロア・ソーマを自分とアインハードにかけ、即座に追いかけ、あっという間に追いついた。ノーマッズの前に立ち塞がる。
「うわわわわっ! さ、さっきの幽霊⁉」
坊主の男はいちいち大袈裟な反応をする。
「あんたらバカぁ⁉ あたしは幽霊じゃないっ! 魔女よ‼」
「ま、魔女……? 女魔導師と何が違うんだ?」
小柄な男が聞いてきた。
「魔女と女魔導師は違うわ! 魔女はもっとこう……素敵なのよ!」
バァーン‼
と、スプレンディッドは見得を切った。しかし余りにも雑な説明。スプレンディッドが見得を切るだけだったので、アインハードが前に出て、レイピアを構えた。
「正直に答えろ。何故、結界石を破壊した?」
「な……何? 破壊だと……? お前達は何か誤解しているぜ!」
「そうだそうだ‼ ワイらは結界石の調査をしていただけだぞ!」
小柄な男と坊主の男が反論した。アインハードが再び問う。
「調査だと……? しかし、現に複数の結界石が最近破壊された事を確認している」
「あれは俺達じゃねぇ! 勝手に決め付けんな‼」
「そうだそうだ‼ 決め付け良くない!」
「む……確かに、決め付けていたかも知れないわ……でも、あんたらは怪しいのよ‼」
「何ぃ~? 話が通じない女だなぁ……」
「何ですって~?」
「まぁまぁ、おめぇら落ち着けってぇ……」
それまで黙っていた長身の顎髭男が話し始めた。
「俺はリーダーのノーマン。こっちの坊主頭の田舎もんがホリオで、強気なチビがマッツだ。あんたらは?」
ホリオとマッツはイラッとした顔を見せた。
「あたしはスプレンディッド様よ! こっちの王子様はアインハード」
「ちょ、ちょっと……! 私は王子様じゃないですって……‼」
アインハードは顔を真っ赤にして否定した。
「…………」
気を取り直して、ノーマンが口を開く。
「とりあえず、遺跡を破壊したのは俺達じゃねぇ。目星は付いてる。犯人は、『
「
「……めちゃくちゃ有名ですよ! 確かグラハム王国の崩壊に関係してるとか……」
アインハードが指摘した。ノーマンが続ける。
「そうだ。奴等が最近、この地域に進出してきて、魔物を防ぐ結界を張るための石碑を破壊しまくっている」
「ど、どうしてそんな事を……? 少なくとも、人間の一団であれば、魔物の侵入は誰も得しないと思うが……」
ノーマンの説明にアインハードが質問をぶつける。
「それが、理由があるんだよ。あいつらは、魔物の軍団を作り上げようとしている」
「何ですって⁉ バカげてる」
「……なるほど、それをあなた方は調査していたという事か……疑ってすまなかった」
「あ~、まぁ別に気にはしねぇよ。俺達こんなナリだからな……放浪者は常に疑いの目で見られるから慣れっ子だぜ」
ノーマンはニヤリと歯を見せて笑った。
「あんたらも、もう帰るんだろう? まぁゆっくり話して行こうや」
ガッ! ガッ‼ ガゴンッ‼
その時、先程まで居た〈結界の石碑〉の方角から破壊音が轟いた。魔力が籠もった衝撃で、スプレンディッドは魔力が伝播する波動を感じた。
「まさか……‼」
「あぁ、そのまさかだ! まさに今、結界石が破壊されるところだ‼」
ノーマンが叫ぶ。
「おめえら! 行くぞォッ‼」
「おーっ‼」
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