◆第三章⑧ 事件(後編)
「いぃいぃぃ……、イヤァアアアアアアアアアアァッ‼」
プツンッ
レイリアの蒼碧色の瞳が〈青白く〉光り輝き、虹彩の内側に赤みを帯びる光輪が浮かんだ。風が吹くように、真っ白な髪が光を帯びて舞い上がる。
レイリアの全身は青白い炎に包まれ始め、〈青白く燃えるオーラ〉を纏ったライオンのような頭部の『獣人の亡霊』が、レイリアの身体から浮き上がってきた。
3人の男達は事態が飲み込めず、「は?」「え?」「何?」と呆然とした。
バキンッ
手枷と足枷は力づくで外され、砕かれた。
「な、何?」
バンッ
レイリアの目の前にいる男の上半身が四散した。
ブシュウウゥゥゥゥゥゥゥ…………
上半身を失った腹部から血が噴き出し、倒れた。鉄の臭いが混じった異臭。
「は? ……な、何だよ……これ……?」
残り2人の男は恐れおののき、「ヒクッ」と顔の筋肉が引き攣り、フリーズした。
真っ赤な世界――。
バシュッ
一瞬にして、一方の首は吹き飛び、一方の半身が吹き飛んだ。血の海が広がる。
「グルルルルルル……」
レイリア自身なのか、浮き上がった亡霊なのかはわからない。唸り声が響く。
ドタドタドタ……と足音が響き渡る。
「な、何だ⁉ どうした⁉」
複数の盗賊団員が集まる。
ボンッ。バシュッ。グシャッ。バンッ。ドグシャッ。ボンッ。
途中、道を遮った者達は、全て半身や頭が吹き飛ばされ、血の海が広がり続ける。
レイリアは無意識的にブラダのいる牢屋に向かっている。
彼女は何人もの鮮血を浴びていたが、浄化魔法が使われたように、浴びた鮮血は光の粒となって蒸発していった。
「い、一体、何が起きてるの……」
後ろ手に縄が縛られてはいるが、ブラダは無事だった。しかし恐怖でブルブルと震えている。ブラダの牢屋を開けた男は、既にレイリアに突撃して半身が吹き飛んでいた。
青白いオーラを纏ったレイリアが、ブラダを見つけた。
「ひっ」
ブラダは、青白く燃えるオーラを纏ったライオンのような頭部の『獣人の亡霊』が浮き上がる姿を見て、それがレイリアだと認識できず、恐怖で気を失い、倒れた。
◇ ◇ ◇
この時、グライフ一行と洞窟アジトを目指していたビトは、「ゾクゾクッ」と、背筋が凍るような感覚を覚えた。
(な、何じゃ今の悪寒は……⁉)
一緒に走るアルルも「ンーッ‼ ンーッ‼」と、いつもより強く鳴いた。
◇ ◇ ◇
一方その頃、ハイマー村では、銀色の鎧兜をフル装備している大柄な男・ヴィルヘルムが1人修練に励んでいたが、同じように背筋が凍るような感覚を覚え、動きを止めた。
遥か北にある
◇ ◇ ◇
「ぎゃあぁああああああぁああぁ‼」
「たっ! 助けてぇっ‼」
洞窟アジトの外から、入口の方の様子を見ていたハーディーは、逃げ惑う
「な、何が起きたってんだよ?」
「ひっ! ヒィイイイイイイィィ‼」
皆、恐怖でパニックを起こしている。「この状態なら……」と、ハーディーは盗賊団員に見られても構わないといったスタンスで、洞窟アジトに突入した。
何人もの盗賊団員とすれ違うも、誰もハーディーに目もくれない。床が血塗れの足跡でベタつく。奥に近付くと、凄まじく血生臭い……。肉体の一部が吹き飛んだ遺体が複数転がり、血の海が広がる。
ハーディーは洞窟アジトの奥にある〈開かれた牢屋〉の中で、倒れているレイリアとブラダを見つけた。
「お、おい! レイリア⁉ ブラダ‼」
既にアジト内には
ハーディーがブラダの手を縛る縄をナイフで切断していると、別の牢屋に幽閉されている男が、ハーディーに呼びかけてきた。
「お~い! 誰かいるのか~?」
ハーディーは意識を集中し、得意とは言えない『魔力感知』をして、安全を確認した後、ブラダとレイリアをできる限り楽な姿勢で寝かせ、声のする方に向かった。
奥に進むほど血生臭い死体がゴロゴロ転がっている。ハーディーは死体を見慣れてはいるが、それにしても気分が悪くなり、口を押さえた。
「おい! ここだ!」
声がした牢屋では、ドワーフにしては大柄な男が捕らえられていた。右腕がないようだ。床から伸びた左手の『手枷』のせいで、立ち上がる事もできずにいる。
大柄なドワーフの男は、赤茶色の長い髪に髭面で、太っている。年齢は30代半ば~40歳前後に見えるが、ドワーフなら実年齢はもっと上だろう。失われた右腕の断面には、機械の接合部のような金属が取り付けられている。
「あ、あんた!
「……どうして捕まったんだ?」
「……お、俺っちの兄貴が、
「なるほど……それは残念だったな。まぁ、盗賊に捕まっている人間なら、むしろ悪者ではなさそうだ……。しかし、牢屋の鍵と、その手枷の鍵はどこにあるかわかるのか?」
「あぁ、俺っちの牢番の野郎なら、そこに転がってる死体だ。血まみれで気色悪いだろうが、そいつの腰に鍵が付いてないか?」
「……あぁ、確かにあるようだな。仕方ない……。取ってやるよ」
ハーディーは死体の腰に下げられた血塗れの鍵に掌を向け、浄化魔法を使う。
「ピュリフィカトル!」
一瞬で……とは呼べず、数秒間、浄化魔法を発した事で、鍵の周囲ごと綺麗に浄化され、血の汚れは光の粒となって消し飛んだ。ハーディーは鍵を取った。
油断はせず、警戒心は持ちつつ、ドワーフの男の牢屋を開け、手枷も外した。
「うおおぉおぉぉ‼ あ、あんたぁ、本当に良い人だなぁ~! かたじけない‼ この御恩は一生忘れぬ……‼」
大きな男が大袈裟に喜んで立ち上がるものだから、ハーディーは少し引いた。
「いや……、気にするな……気にしなくて良い……」
「ドワーフは、御恩を一生忘れない‼ ……お? 抜けていた力も戻ってきたぞ……⁉ この手枷は厄介でなぁ……。魔力を封じられていた!」
「あぁ、もちろん知ってるさ……。ところであんた、その右腕はどうなってる?」
「あぁ、これか……。見ての通りだが、『魔動装具』の義手を取り付けていた。特別性の義手でな。この奥に持って行かれちまった……後で回収するつもりだ。ところであんた、ここら辺だと、ハイマー村の人かい?」
「……あぁ、そうだ。しかしあんた、ドワーフなんだろ? それにしてはデカいな……」
捕らえられていたドワーフの男が立ち上がると、ハーディーより大きい。
「俺っちは特殊……というか、ハーフドワーフさ。純粋なドワーフじゃないから、ちっこくねぇんだ。ちなみに兄貴の『ブロックル』は純粋なドワーフだから、ちっこいぜ」
「ハーフか……その点はレイリアと一緒だな……」
ハーディーはボソッと呟いた。
「……ん? 俺っちの名前は、『エイリーク』だ! あんたは?」
「ハーディーだ」
「ハーディー殿‼ 本当に心より感謝申し上げる!」
そう言って、エイリークは頭を深く下げた。
「……じゃあ、俺っちは〈奪われた右腕〉を探しに行くから、ここでお別れだ。だが、必ず礼はする‼ ハイマー村で待っててくれ!」
「……。あんた、律儀なんだな……。別に気にしなくて良いぜ」
ハーディーはエイリークが捕らえられていた牢屋を出て、振り向く。
「じゃあな。また捕まるなよ」
「おぅ! 本当にありがとうな‼」
エイリークは、「ドタドタ」と、洞窟アジトの奥に消えて行った。
おそらく他の死体を見たのだろう。「ひぇ~!」と、軽く悲鳴を上げた。
ハーディーがレイリアとブラダの元に戻ると、丁度、ブラダが目を覚ましたところだ。
「う……う~ん……」
「ブラダ‼」
「……ん……、あ! ハ、ハーディー⁉ 助けに来てくれたの⁉」
「あぁ……‼ 当たり前じゃないか! ……起き上がれるか?」
ハーディーが手を差し伸べて、ブラダの上半身を起こし、ブラダは横に倒れているレイリアに気付いた。
「レ、レイリア⁉ い、息は……、してるよね……。良かった……」
ブラダは三日月遺跡での出来事を思い出して少し動揺した。ハーディーが問う。
「何があった?」
「……えっと…………ごめん。思い出せない……」
ブラダはショックで気絶したため、何も思い出せずにいた。
「……そっか……。でも、無事で良かった……」
「……ありがとう……ハーディー」
ブラダはハーディーに微笑み、レイリアの方を向く。
「レイリア、起きるかな?」
「いや、無理に起こさない方が良い」
ハーディーは合計4本もの剣を装備している。
背中には『鳳翼双剣』という2本の剣を交差させて装着しているが、その背中の剣を装着している胸部から背中に繋がるベルトを外して置いた。
「レイリアは俺が背負って行く。悪いがブラダ、そのベルトを持っててくれないか?」
「うん、わかった。任せて」
ハーディーはブラダと共に、レイリアをおぶって洞窟アジトから連れ出した。
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