◆第三章④ 不意打ち(後編)
「し、しまった‼ 数十メートルは離れてるってのに、こんなにでっけぇ斧を投げ飛ばして来るなんて⁉ 三馬鹿トリオを舐めてた……‼ に、逃げよう!」
テオが焦りを見せた。数十メートル先から
「いや、待て。迎え撃つぞ。テオは見つかるとマズい。隠れておれ」
何故かビトが制止した。テオは後方の岩の裏に隠れ、そこから逃げるそぶりはないようだ。俺達が逃げようとしないからか、敵はニヤニヤしながら歩いて向かって来る。
「あいつらが……‼」
俺は「キッ」と睨みつけ、怒りで魔力が燃え上がり始めた。
「ぬぅ……ワシとした事が……アルルに夢中になって〈ほわほわ〉し過ぎて、油断してしもうた。『感知の網』を張り巡らせるべきじゃった。すまなかったな、ブラダ」
「ご、ごめん。オイラもだ。いつもなら数百メートル先の危険も察知できるのに……‼」
ビトとテオは本来の感知能力を発揮できなかった事を悔やんだ。
「ちょっと! アルルのせいみたいに言わないでよっ」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「す、すまん! 言い訳にはなるが、レイリアの〈腕試しには丁度良さそうな相手〉じゃから、むしろ、こちらから出張って行くつもりじゃった」
「えぇ? マジで言ってる?」
「大丈夫じゃ! 勝てる‼ ワシにはおおよそのレベルがわかる。手前の小太りとその後ろの長身の男はレベル120程度じゃが……奥の巨大な男は、むしろ100程度と低い。全員、レイリアなら勝てるはずじゃ。お主1人で倒せ‼」
「えぇ⁉ て、手伝ってくれないの⁉」
「ワシが手を出したら腕試しにならん。目立ってしまうから、攻撃魔法は禁止じゃ!」
「ええぇえぇえぇぇ……?」
「防御魔法と俊敏魔法、強化魔法は使っても構わん。ただし、攻撃魔法は使わず、剣で倒せ! 行け、レイリア‼」
(嘘だろ……? 元々強化魔法は使えないけど……、今まで俺の戦い方は、ほぼ魔法頼りだったんだぞ……。魔法なしじゃ、全く勝ち筋が見えねぇ……。だって、あいつらデッカいし‼ あのパワーと、この体格差だぞ……⁉ ほ、本当に『魔力のレベル』ってのは、これほどの体格差を凌駕する程のもんなのか……?)
睨みつけたは良いが、魔法を使ってはいけないとなると、恐くなってきた。俺はビトの方をチラッと見た。腕を組んで俺を見ている。まるで強豪校の名監督だ。
(い、いや、とはいえ、確かに、ビトは俺達が倒せなかった大蜘蛛を倒してくれたんだ……ビトを信じろ……)
「ちょっとビトさん! どうして攻撃魔法は使っちゃダメなのよ⁉」
ブラダがビトに食ってかかった。
「……ブラダ。それは愚問じゃぞ」
「な……何よ……愚問って……」
「魔法を使うという事は、魔力の発動が起きる。即ちどうなる?」
ブラダは「ハッ」と気付いた。
「あ……、感知される危険性がある……?」
「そうじゃ。遺跡内は区画で遮られていたから、問題なかった。しかし外は違う。広がった空間を魔力の波動が伝播して、感知される危険性が高まる。『狙われている者』がする事ではないぞ……」
「な……なるほど……確かにそうかも……」
「特にレイリア程の強力な魔力を持っていれば、尚更の事じゃ。あの子は、自分のレベル以上の魔法を発動できてしまうようじゃからの……」
俺は2人の会話をしっかり聞いていた。ブラダと同じ反応になるが、「なるほど……確かにそうかも知れない……一理ありそうだ……」と、ビトの言い分を理解した。それにしても、レベル以上の魔法を発動しているだって? 自分の事とはいえ、驚きだ。
敵が迫って来た。とにかく言われるがまま、俺は『彗星の剣』を抜いて構えた。遺跡で遭遇した魔物は適当に斬って斬って斬りまくっただけだったが、対人戦ともなれば別だ。この世界での初めての対人戦。俺がガキの頃から父親に叩き込まれ、病気になった高校一年生まで習い続けていた『雷道武現流剣術』を披露する時が遂に来たようだ。
俺は、ゆっくりと『雷道武現流剣術』の構えを取った。おそらく蒼褪めているに違いない。正直言って、ビビっている。
「あの構えは、見た事がないわ……」
ブラダが俺の構えを見て呟いた。そりゃそうだ。この世界の剣術の構えじゃない。『雷道武現流剣術』を見せたら、〈何かに勘付かれる〉かも知れない。だからと言って、出し惜しみしている余裕はなかった。
◇ ◇ ◇
「おいおい……かわい子ちゃんが剣を構えてるぜ~。
リーダーのダナキがニヤニヤしながら言った。
「あ~、しまった‼ 斧を回収する事まで考えてなかったよダメキィ~‼」
大斧を投げ飛ばしたホツは頭を抱えた。
「お、おいぃ~ッ‼ 誰がダメキじゃ⁉ ボケコラ‼ 口に気をつけろホツ! 仕方ねぇ! おい、フー‼ お前が突撃して隙を作れ‼」
「オーッ‼」
奥にいた大男のフーが前に出て、レイリア達に迫る。
◇ ◇ ◇
フーと呼ばれた大男が目の前に迫ってきた。デカい……ちょっとチビりそうだ……。
今の俺の身長は、おそらく160センチ前後。ブラダよりも小さい。おそらく体重も40キロ台の華奢な体格だ。一方、相手の大柄な男は2メートル以上、体重も120キロ以上ありそうだ。俺は格闘技が好きだから、平均的なヘビー級の選手と比べてもかなりの巨体である事がわかる。真っ向から腕力で勝負するのは明らかに無謀だ。
しかし、俺よりも小さくて軽いビトは、魔法を使わなくても余裕であいつらを倒せそうだ。この世界の戦いは、体格と体重が全てではないはずだ。
「レイリアよ! 『魔霊気』を全開にするのじゃ‼」
「ん? ま……まれいき?」
ビトが口にした聞き覚えのない言葉に、俺は戸惑った。
「……あ、魔霊気の事、まだ教えてなかった……かも……」
「何じゃと……⁉ まぁ、大丈夫じゃろ……。よ~見たら、自然と纏えておるようじゃ……魔霊気は内から湧き上がる力じゃからな……」
(何言ってんだ? 2人とも……)
そう思いながら、俺は少し冷静になり、剣で戦うためにはどうすべきか考えていた。
「……ヴァロア・ソーマ!」
もう既に俊敏魔法『ヴァロア・ソーマ』は詠唱破棄で使えるようになっていた。ヴァロア・ソーマは体を身軽にする魔法。敏捷性は上がるが、軽くなるという事は、攻撃の重さは減少する=即ち、攻撃力が下がるという事だ。だが、武器は剣。斬る事ができれば、重さはそれほど重要じゃないはず……。スピードと手数、攻撃の鋭さ、切れ味で勝負だ。
「おい、フー‼ あんまり傷つけずに捕まえろよ⁉」
奥にいるモヒカン男が、俺の目の前に迫ってきた大男のフーに呼びかけた。
フーは、今の俺からしたら、まるで巨人だ。フーは「ゲヒヒ」と、気味悪く嗤った。
俺は心の底から恐怖を感じ、〈無くしたはずの金玉〉が縮み上がる思いがした。魔物とは違う。デカい人間は〈別の恐さ〉がある。震え、血の気が引き、恐怖心が込み上げる。
(あれ? これ無理じゃね……? こえぇ……こえぇよ‼ 何でビトは助けてくれないんだよ! もし勝てたとしても、下手したら人を殺す事になる……。人を……俺が?)
できる事なら、再起不能程度に抑えたい。しかし、それは俺の方が強く、余裕がなきゃできない事だ。今は倒す事だけを考えよう。
(勇気を出せ……逃げちゃダメだ! 逃げ……って、某アニメの主人公か!)
そう思ったら、少し恐怖心が吹き飛んだ。いざ、尋常に勝負だ‼
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