◆第三章④ 不意打ち(前編)
ビトが10歳くらいの少年を連れて大岩から下りて来る。少年は腕をついて慎重に岩場を下りて来るが、ビトは大岩の中腹辺りから飛び降りて、数回転して、「ストンッ」と華麗に着地した。いわゆる〈ヒーロー着地〉だ! かっこいい。
「あの子は?」
「
心の中で「やっぱり俺か……」と思ったが、俺というかレイリアで……でもレイリアは俺で……まだ自分がどういう存在なのか全くわかっていない事に、改めて気付かされた。
「
ビトが手招きして俺達は素直に従った。一旦、岩場の隙間で腰を下ろし、質問する。
「……どうしてボクの事を?」
テオは目を見開き、「ニヒッ」と笑った。
「あはっ! 何だ? このお姉ちゃん。自分の事、『ボク』だって」
俺はちょっと恥ずかしくなって顔が火照った。
「な、何よっ⁉ 別に女の子が『ボク』って言ったって良いじゃない⁉」
それに対してブラダがほっぺを膨らませて反論してくれた。
「……ん、まぁ良いけどさ……」
テオは目を逸らして少し頬を赤らめた。ブラダは怒った顔も可愛い。
(何だ、お前もブラダに一目惚れしたのか? わかるよ……このマセガキめ)
「……そ、そんな事より、何でボクの事を見張ってたの⁉ 答えなさい!」
俺はちょっと「お姉さん」っぽい感じで言ってみた。そろそろこの女の子ボイスにも慣れてきた。厳密に言えば日本語ではないので、実際は日本語で感じるほどの言い回しの違いは起きていない。どちらかと言えば、男女での発声の仕方の違いと言ったところか。
「い……いや、だからさ。
「しらっ……〈しらが〉って……〈しらが〉じゃないもん……。せめて、〈はくはつ〉って言ってよ……」
俺は少し子供っぽい言い回しをして、ほっぺを膨らませた。
「え……そこ?」
テオはきょとんとした。だって狙われてるの知ってたし……。
「ちょっと! こんなに光り輝く綺麗な髪の毛を
「ン~! ン~!」
またもブラダが反論してくれた。アルルも一緒に怒ってくれた。何てありがたいんだ。ブラダとアルルは常に俺……というかレイリアの味方なんだ。まぁ、レイリアは俺なんだけど……とにかくありがてぇ……。こうやって第三者に突っ込まれると、改めて今の自分がレイリアという女の子になっている事に違和感を覚える。
そしたら急に、ほっぺを膨らませて子供っぽい言い回しをしてしまった事が恥ずかしくなってきた。また顔が熱くなる。さっきの言動は、いい歳こいたおっさん(いや、28歳はまだ若者だろ⁉ 違うか?)がとる行動じゃなかったか~‼
いやいやいや、待て待て待て。俺は今、超絶美少女だ! 超絶美少女の言動としては、至って自然と言える……はずだ!
う~ん……。それにしても、どうもこの肉体になってから、自然と子供っぽさを発揮してしまう。肉体が精神に影響を与えているような……気がしている。
またもや俺の脳みそは一瞬が長く感じられるほどグルグルと高速回転していたようだ。
「よ、よく見たら、な、何だその生き物? 見た事ない生き物だ……かわいいけど……」
「あ、やっぱり見た事ないんだね……」
テオは改めてアルルを凝視し、俺も「そうだよな」と思った。
「アルルはとっても珍しい種族なんだよね~。ね、アルル~」
ブラダがアルルの頬っぺたをツンツンして、「ン~」と、アルルも喜んでいる。
「これ、何て生き物?」
「……………………」
沈黙。テオの質問の答えは、誰も知らない。
「アルルはアルルよ。これって言わないで」
「そうだよ。アルルはアルルだよ」
「確かに、アルルはアルルじゃな」
「そっか……アルルはアルルか……」
テオも納得してくれたようだ。アルルを見ているとみんな気持ちが〈ほわほわ〉する。
それはそうと、既にビトから聞いていたから、俺が狙われている事に驚きはなかったが、どうして
「話が逸れまくりじゃな……話を戻すぞ。おい、テオ少年。何故レイリアが『蛇』の連中に付け狙われておる? そして何故お主が伝えに来た? お主のような子供が狡猾な罠を仕掛けに来たとも思えん……」
確かに罠の可能性も十分あったはずだが、この少年テオがそういった悪い人間だとは、とても思えなかった。まぁ、そういった〈印象の良さ〉で人は騙されてしまうので、油断はできないが、〈それにしても〉だ。この子は純粋な目をしているし、本物の子供だ。魔力も低いのがわかるし、魔導師が化けてきたわけでもなさそうだ。
「あ、あぁ、それなんだけど――」
テオが語りかけた時、ビトの大きな耳がピクッと動いた。
「伏せろォッ‼」
ヒュンヒュンヒュンヒュン……ドゴォンッ‼
突如、巨大な斧が風を切って飛んできて、傍らの大岩を砕いた。
「きゃあっ‼」
破片がブラダの頬をかすり、切り傷ができて出血した。
「ブラダッ⁉ ……大丈夫⁉ エ……、エレメ・ピセラ‼」
俺は何故か、覚えていなかった中級回復魔法『エレメ・ピセラ』を無意識的に詠唱破棄で発動した。どうして発動できたのかはわからない。
必死だったからか、元々レイリアが使えていたからか……?
この肉体の記憶とスキルが、少しずつ引き継がれている気がした。
俺の掌とブラダの頬が薄緑色の光に包まれ、ブラダの頬の切り傷は綺麗に治った。
しかし、ブラダの顔に傷をつけやがって……許せん‼ 俺の心の中で怒りの炎が沸々と沸き起こる感覚を覚えた。
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