◆第三章③ テオ 

 推定時刻 16:00


「ハァ……ハァッ……」


 サー盗賊団ペント・最年少の少年『テオ』は、洞窟アジトに向かうグライフの一行を追っていたが、胸騒ぎがして三日月遺跡の近くに戻って来ていた。


 しかし、ここは三日月遺跡の北東側にあるサー盗賊団ペントのキャンプがあった場所ではない。テオは、三日月遺跡の北西側で白い髪の少女を探していた。


(何となく……何となくだ。根拠はないけど、この辺りで会える気がする……)


 テオは直感力が優れた子である。自らの脚で行ける最も高い岩の上まで登り、三日月遺跡の方角を俯瞰で見る事にした。しかし、高い岩に登った事で、空で渦巻く雲が気になった。まるで窪んだ眼のような形をしている。


(昼頃よりは天気は良くなってきたけど……不気味な雲だな……まるで空に見られているような……)


 その時、テオは眼下の森の茂みから良からぬ気配を感じた。


 ガサガサガサ……と、草をかき分ける音が聴こえ始め、3人の男の影が見えた。


(あ! あいつら、グライフ隊から外された、三馬鹿トリオだ! 何でこんな所に……)


 テオは腰を低くして3人の様子を岩の上から見る。


 長身で痩せたモヒカン頭の男を先頭に、サー盗賊団ペントの3人の男達が茂みをかき分けて出てきた。モヒカンの男はサーベルで草を薙ぎ払いながら先導している。


「ダ、ダナキの兄貴ィ〜。こんな所うろついててもよぉ〜……何も得るもん無くねぇ? あっしはもう疲れましたよぉ〜」


 後ろに続く小太りで角のある半球型の兜を被った男が汗だくになりながらブツクサ言っている。小太りの男は巨大な斧を手に持っている。


「うるせぇぞ、ホツ! とりあえず、この辺りを見廻るのが俺達の使命だ」


「し、ししっ、使命! おで達の大事な使命ッ‼」


 ホツと呼ばれた男の横にいるボサボサ頭で筋肉質で大柄な男が鼻息荒く言った。身長は2メートル以上ある。


「そうだぜ! フー。これが俺達の使命だ! 辺りをよ〜く見て歩けよ‼」


 フーと呼ばれた大男は、棘付き鉄球型メイス=『モーニング・スター』を持ち、肩に乗せている。モーニング・スターとはいえ、鎖がない一体型の形状だ。


「でよぉ〜、兄貴ィ。何のために見廻りしてんだ?」


 ホツが再びダナキに問う。


「あぁ~? お前、話を聞いてねぇのかよ⁉ 白髪しらがのガキを探して捕まえるんだ‼」


「しっ! シラガッ! シラガノガキッ‼ ガハハハハハ!」


 フーは特に何も考えていない。


「なーんでガキなのに白髪しらがなんだよ? ダニキィ〜?」


「し、知るわけねーだろ‼ ……あっ⁉ 今、オメェ、ダニキって言いやがったな⁉ 名前のダナキと兄貴を混ぜんじゃねぇよ‼」


「あ~、ごめんごめん~。ダナキニキ~。……それにしても白髪しらがなんて、若いのに苦労してるんだろうなぁ……かわいそうなガキじゃねぇかぁ〜? 何でそのガキを捕まえる必要があるんだァ?」


「オメェ、質問ばっかだな! ザハールさんの命令だからに決まってんだろ! 俺達はここで成果を上げてグライフの野郎に一泡吹かせてやるんだ! 気合いを入れろォッ‼」


「オーッ‼」


「……お、おぅ~……」


 大柄なフーは雄叫びを上げたが、小太りのホツは気怠そうにしている。


「だから、ザハールさんが求める理由が知りたかったんだけどな……ダメキめ……」


 ホツは小声でぶつくさ言った。


「何だァ? 何か言ったか?」


「な、何も言ってねぇよぉ~……」


 


 テオが上から見下ろして3人を観察していると、反対側の森の中でコソコソと動く2人と1匹に気付いた。レイリア、ブラダ、アルルである。


「し、白い髪……‼ あの子か……!」


 ガサッ


「おい」


「えっ⁉」


 テオが振り向くと、白兎の獣人・ビトが『月兎の短剣』を抜いて構えている。短剣とはいえ、小さなビトにとっては『剣』のようなもの。背中に『月兎の弓』を装着している。


「何じゃ……子供か……」


「い、いい、いつの間にッ‼ う、兎ッ⁉ 兎の獣人か……⁉ は、初めて見た……。オ、オイラの『感知の網』を突破してくるなんて……! ど、どうやって⁉」


「ほぉ……ガキのくせに感知能力に自信があるようじゃのぉ……。なぁに。気配を消して静かに素早く動けば良いだけじゃ……」


(……な、何を言ってるんだこの兎⁉ そんなの簡単にできるわけないだろ……‼)


 テオはビトのハイレベル過ぎる隠密行動に驚愕し、感動すら覚えた。


「お主、何をしておったのじゃ? とりあえず、この岩から下りよ」


 ビトが首をクイッと動かして指示する。


「……わ、わかったよ……。でも、ちょっと待ってくれ。あ、あの白髪しらがの女の子、あんたの仲間だろ? この岩の反対側に、白髪の子を狙ってる連中がいるぜ?」


「ぬ……やはりそうか。気付いてはおったが……ふむ。腕試しには丁度良さそうな相手じゃの……他の仲間は近くにはおらんようじゃし……」


「……な、何言ってんだよ! あいつら、サー盗賊団ペントだぞ‼ 知らないのか⁉ あぁ見えて、レベル・ハンドレッドクラスなんだぞ!」


「……わかっておる。じゃから丁度良いと言っておるのじゃ。それに、その服の柄……お主もサー盗賊団ペントじゃろう? さすがに子供じゃから刺青は入れておらんようじゃな」


「……オ、オイラは、もう『サー盗賊団ペント』を抜ける事に決めたんだ……‼ あいつら、とんでもない事を企んでるんだ!」


「ほう……。下でゆっくり聞こう。とりあえず岩から下りるのじゃ。お主、名は?」


「……テオ。……あ、あんたは?」


「ビトじゃ」


         ◇         ◇         ◇


 一方その頃、ハーディーとランバートは三日月遺跡を目前にしていた。


 ハーディーは再びレイリアから渡された、〈レイリアの探知機〉である『魔霊魂波守コンパス』を取り出し、居場所を探知しようとしている。


「コンパスよ、レイリアの居場所を指し示せ。ディレクティオ!」


 ハーディーはレイリアの魔霊魂波守に対して、方角を指し示す呪文を唱えた。


 コンパスの先端は三日月遺跡の北西側を指し、チェーンがしなって細かく振動するように動き続けている。


「何? 既に三日月遺跡を脱出したか……。 おい、ランバート、あっちだ」


「渓谷がある方ですね。もう安心なんじゃないですか?」


「いや、何だか胸騒ぎがする……急ぐぞ!」


 ハーディーとランバートは急ぎレイリアのいる方角へ向かった。

 

 

 

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