◆第二章㉔ 亡霊

 気付けば、話しながら結構進んでいたようだ。魔物も出なくて良かった。ビトの野生の勘のおかげだな。


「そろそろ出口が近い……う~む、ワシも目的があってここに来たんじゃが、君達の事が心配じゃ……仕方ない。ハイマー村まで送ってやろう」


「本当ですか⁉ 助かります~‼」


 ブラダがビトの手を握った。ビトもまんざらではない様子だ。


「ありがとう~! あんた本当に良い人だね! ビト! ……さん!」


「構わん構わん。ワシはここにもう3回ほど潜り込んでおるから、慣れっこじゃよ」


「3回も? そう言えば、ビトさんの目的って何だったんですか?」


「あ、お……ボクも気になる‼」


「ワシの目的は……信じられんかも知れんが、『亡霊探し』じゃ」


「ぼ、亡霊? 何のですか?」


 ブラダは少しビビっている。俺はワクワクだ。


「……ベルセルク……じゃ」


「ベルセルクの亡霊⁉」


 俺とブラダは目を合わせた。


(な、なんか凄くヤバそうだな……『ベルセルクの亡霊』だって?)


「それって、ヤバい奴なんじゃないの?」


「あぁ。危険じゃ。ワシらはずっと昔から『ベルセルクの亡霊』を探して旅をしておる」


「えぇ……どうして? そもそも何故ここにいると思ったんですか?」


 ブラダが聞いた。


「ワシには獣の声が聴こえるんじゃ。動物達から情報を得て、確信を持ってここに来た」


「へぇ……。さっき〈ワシら〉って言ってたけど、仲間もいるの?」


 俺も質問をした。


「あぁ、もちろんおるぞ。ワシは『ヴィルヘルム』という仲間と旅をしておるが、今はハイマー村で待機させておる。なんせクソ図体がデカいからのぉ……。ワシは野生の勘で危険を回避できるし、こういう迷宮探索はワシ1人の方がスムーズじゃ。亡霊を探す理由は――」


 左右に分かれる通路に出たところで、白兎の獣人であるビトの大きな耳がピクンッと動き、ビトはあさっての方向を向いてフリーズした。


「いる……マズいな……トロールじゃ」


 そう言えば、『柱と階段の間』で、ビトが「サイクロプスがいる」と言っていたのを思い出した。トロールは既に死骸を見たから知っているが、サイクロプスまでいるのか‼


 あの時、轟音が鳴り響いてそれどころではなかった。すっかり感覚が麻痺していた。


「この先、ワシらは右の通路に進むつもりじゃが、左の通路の奥からトロールが近付いて来るようじゃ。元の道に戻って追い詰められる可能性も無きにしも非ず。ワシ1人ならともかく、君達は危険じゃ。前に進むしかない。ゆっくり気付かれないように進め」


 お喋りを止めて、静かに進む事にした。アルルもこういう時に静かにできる賢い子だ。


 死角がある場所では、ビトが小声で「待て」と言い、素早く移動する。安全が確認されたらハンドサインで俺達を呼び、俺達もコソコソと静かに移動した。


 トロールがうろついているだけあって、この辺りの通路の天井は高い。


 そして、最後のフロアに出る直前に、再びビトが何かを感じ取った。フロアの出入口は、周囲の岩が崩れて扉も壊れ、狭くなっている。中には青白く光る古代文字のような文字が刻まれた岩がある。前に入った魔物を寄せ付けない部屋に似ていた。


 この時、ビトは全身の毛穴が開くような寒気を感じたようだ。毛むくじゃらのビトですら冷や汗をかいているように見えた。


「よもやこんな場所におるとは……ベルセルクの亡霊の気配を感じるぞ……」


 本当にいた! あれがベルセルクの亡霊か。ビトが言う通り、そのフロアの奥には、青白く燃えるオーラを纏ったライオンのような頭部の『獣人の亡霊』がいる。


 身長2m50cm以上ありそうな大きさだ。正直、腰が抜けるかと思った。


(ま、まさか本当に亡霊なんているのか……)


 よく見ると、亡霊のくせに脚はしっかり付いているようだ。


「グゥルルルルルルルルル……」


 ベルセルクの亡霊は唸り声を上げているが、ジッと動かず、静止している。


「一体、何なんだ……? どうしてこんな所にいるんだろう?」


 俺とブラダは蒼褪めて目を見合わせた。


 2人とも恐怖でブルブルして、力が抜けかけている。お化け恐い‼

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

良かったらフォローといいねをお願いします☆

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る