◆第二章㉑ サイクロプス急襲

 サー盗賊団ペントは、一旦最下層の横穴から出るところだ。


 ダンケルは、団員のショビク、ボリダン、シーショウの3人に命令して、先行させた。目視で何もいない事を確認させる。わずかな魔霊石の朧げな光しかない『柱と階段の間』では見上げても、上層の空間は暗闇で、ほぼ何も見えない。


 その時、暗闇の中から、『闇の帷』を纏って〈巨大な魔物〉が落下してきている事に、先行している3人は全く気付いていない。   


 闇の帷は光を吸収し、暗闇に溶け込む魔法だ。


 この空間は広い。数十メートル先で、〈巨大な魔物〉が最下層に降り立った。


 着地の瞬間にブワッと風が巻き起こり砂煙が舞ったが、着地の直前に無詠唱で衝撃吸収魔法『アエラス・クシーノ』を発動し、若干の反発力を発生させて着地の衝撃を和らげたため、巨大な魔物が降り立ったような轟音は響いていない。


 先行している3人の目の前にいる存在は暗闇に溶け込んでいる。


 まだグレースは横穴から出ていなかったが、生まれつき感知能力が鋭いため、ハリの水晶を使わずとも魔物の存在を感知した。


「いけない!」


 グレースが前に出ようとすると、ザハールが蛇の杖を出して止めた。


「いけませぬぞグレース様。危険があるやも知れませぬ……」


 これまで先行していたザハールの蛇のズミーヤは、先行せずにザハールの首に巻きついている。最下層の拓けた空間を先行しているショビク、ボリダン、シーショウの3人は、砂埃が舞った事に気付いたが、風が吹いたのだと思い、さほど気にも留めなかった。


「大丈夫そうだな。合図をするか」


 壁面に魔霊石が埋まっていて、わずかに光を放ち、ショビクが視界に違和感を感じた。


「なんだ?」


「どうした?」


「何か……、大きな影が動いたような……」


「俺達の影じゃねーの。ほら、そこの魔霊石の光が当たってるし」


「そ、そうか……」


 ボリダンはポジティブに解釈した。その時、大きな影が再び動いたように見えた。


「ん?」


 ブンッ……ドゴッ‼


 とてつもない質量の衝突。前方にいたボリダンが後方に吹き飛び、身体が四散した。


「う⁉ うわぁあああああ‼ ボリダンッ⁉」


 ショビクとシーショウはボリダンの血飛沫を浴び、絶叫した。


「な、何だ……? 何か……いる⁉」


 ブンッ! ザンッ‼ グシャッ!


 残ったショビクとシーショウも見えない何かの一撃を喰らい、ショビクは上半身と下半身を一刀両断にされ、シーショウは頭からぺちゃんこに踏み潰された。血飛沫が舞う。


 壁面の魔霊石によって、徐々に魔物の闇の帷が剥がされていく。


 魔物の姿が少しずつ姿が浮かび上がったところで、グレースが吐き気を我慢しながらハリの水晶の光を放ち、魔物の闇の帷を吹き飛ばした。


 闇の中から、サイクロプス1体とトロール2体が現れる。


「闇の帷か……。俺の得意技をパクリやがって」


 ダンケルはそう言うが、元々闇の帷は魔物の魔法である。


 


 中央後ろに立つサイクロプスは、大きな『1つ目』の怪物だ。黒目の部分は大きな赤目で、中心の真っ黒な瞳の周囲に数本、山吹色の円環が見える。


 くすんだ赤茶けた褐色の肌で筋骨隆々の肉体。スキンヘッドに尖った耳に、下顎の牙が大きく露出している。トロールと同じような腰布を身に付けているが、体格はまるで違う。素肌に白っぽい泥で古代の紋様がペイントされている。


 そして太い鎖の首飾りには『魔法の鍵』が取り付けられている。


 サイクロプスの武器は、金属の刃の大鉈だ。それだけで3~4メートルの巨大さ。人間に扱える大きさではない。形状は前後幅が短い斧と上下幅がある鉈の中間の形をしている。錆汚れがあり、ゴツゴツしていて切れ味は鈍そうだ。

 しかし棘のような装飾も多く、見るからに恐ろしい武器だ。


 サイクロプスの巨大な1つ目は魔力の流れを見る事ができる。また、ズーム可能な『遠視能力』も持つ。ハリの水晶ほどの高性能ではないが、この魔物は遺跡内の状況をある程度把握していた。


 残りのトロール2体もこれまでのトロールとは肌の色が異なっている。


 サイクロプスより左手前にいるのは、赤みのある肌の色に深緑の髪色のレッドトロール。武器は幅広でゴツゴツした刀。刃と柄の間に鍔の代わりに獣の毛が生えている。


 右手前にいるもう1体は、深緑がかった肌の色で赤髪のグリーントロール。武器は柄の部分まで全て金属製の斧だ。ゴツゴツした見た目で、古代文字が彫られている。


 体長はレッドトロールがわずかに大きい。この2体の武器も巨大で、大柄な人間の身長ほどの大きさがある。2体はサイクロプスと同じように素肌に白っぽい泥で古代の紋様がペイントされている。


 この3体はまるで三日月遺跡の守り神のような、異様な雰囲気を醸し出している。


 


 ダンケルが3体まとめて倒そうと、単身で接近して行く。彼は油断していた。手前のグリーントロールに攻撃を仕掛けようとしたところで、素早く回り込んだサイクロプスから、左側頭部目掛けて一撃を見舞われた。


 ガンッ‼


 金属の大鉈はダンケルの肉体を覆い防護する『魔霊気』を貫通して、ダンケルの頭部に直撃した。常人ならこの一撃で頭部はバラバラに飛び散っている事だろう。


 ダンケルは10メートル以上弾き飛ばされて、頭部左上から鼻の辺りまで、顔面の皮膚がベロンと捲れ、人体解剖人形のように筋肉が露出してしまった。


「ウグ……さすがに痛ぇな……」


 コールソンとトーマスが、「いかん‼」「お頭‼」と叫んで助けに行こうとしたが、ダンケルは手を前に出して首を振って止めた。


「お前らはグレースを護ってろ‼」


 ダンケルは全身を強化魔法『フォルサ・ソーマ』で強化防御している。時と場合によるが、戦闘巧者ほど骨格と重要な臓器を最優先で強化する。

 皮膚の強度も上がってはいるが、優先順位は低くなりがちだ。彼は頭蓋骨を破壊されない事を最優先に骨格の強度を高めたが、皮膚の強度はサイクロプスの一撃に耐えられなかったのだ。

 

 

 

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