◆第二章⑳ 迷宮案内人
いやぁ、それにしても火炙りはキツかったな……。RPGの世界だと火炎魔法って初歩的だけど、あんなもん何度も喰らいたくないぜ。
魔力のコントロールが上手くなれば、魔法防御でもう少し痛みを軽減できるもんらしい。以前のレイリアならできたみたいだけど、〈また〉というのは変だが、覚え直すしかないようだ。全てのスキルを引き継げるほど甘いもんじゃないらしい。
とはいえ、何度も喰らうと耐性が上がるらしいし、火炎魔法そのものへの適正が上昇し、火炎魔法の攻撃力も上がる可能性があるようだ。そうなっていると期待したい。
極論を言えば、地獄の業火に焼かれて生き延びた人間は、最強の火炎魔法使いに成る可能性があるという事だ。いやそもそも、地獄の業火に焼かれたら塵も残らないと思うが……。死んだら元も子もないよな……。
ここから白兎の獣人『ビト』が遺跡の道案内をしてくれて、脱出させてくれるらしい。
「こっちじゃ」
巨大蜘蛛の『ギガント・スピンデル』と遭遇した『柱と階段の間』の下層で轟音が轟き、激しい戦闘があったようだが、この空間の中層まで降りる必要がある。
若干、危険に近付くという事だ。俺達は警戒して入り組んだ階段を下り、複数ある通路の中から最短で脱出できるという通路にビトが案内してくれた。
ビトは安全を確認しながら通路に進入したが、その時、「ピクッ」とビトの大きな耳が動いた。
「あのコウモリ……」
ビトは背中に装備していた小さな弓矢を構え、素早く天井にぶら下がっていたコウモリを射落とした。小さい割にはかなりの威力だ。
「え? 急にどうしたの?」
「今、射落としたコウモリは、お主らを監視しておったようじゃ……。ワシは『野生の勘』が働く。このコウモリからは使役されたような魔力を感じた」
俺とブラダは目を見合わせた。
「へぇ~……何かよくわかんないけど、ありがとう」
「あ、ありがとうございます……やっぱり私達を狙っている連中がいるって事ですか? さっきの蜘蛛もそうだった……むしろレイリアを狙っていたような……」
ブラダがジッと見つめてきた。
「え? ボクが狙われてるの? どうして?」
「理由はわからんが、警戒して進むしかなかろう」
ビトは野生の勘が働くらしい。直感的に敵意を感じる事ができるのだと云う。索敵能力が高いという事だ。
進入した通路は再び入り組んだ回廊となっていて、再び松明が必要になる場所もあれば、魔霊石の光で十分視界が確保されている場所もあった。
全く魔物と遭遇しないわけではなかった。例のムカデの魔物『スコロペンドラ』のように、向こうから嗅ぎ付けて近付いて来る魔物もいたからだ。しかし、強い魔物が出る場所はビトの野生の勘で避ける事ができた。
多くの場所は木の根や蔦で覆われていたり、壁が崩れて岩石が散らばって歩きにくい。床が抜けて落とし穴のようになっている場所もあった。
途中、潜り込んで匍匐前進するように進まなければならない狭い通路があった。
「この狭い通路も、ワシらなら通れるはずじゃ。『蛇』の連中は通れんじゃろう」
ビトは改めて俺とブラダを見て、体型を上から下までチェックするように見た。
「……うぅむ……通れるじゃろ」
「ちょっと! 今、私のお尻見て、ギリギリって思ったでしょ⁉」
「はは……」
俺が思わず苦笑いしたら、ブラダに「キッ」と睨まれた。怒った顔もかわいい。
俺達は何とか潜り込んで、匍匐前進するように進んだが、だいぶ埃まみれになってしまった。こういう時にブラダの浄化魔法『モーイ・モーイ・スクーン』が役に立つ。
汚れてからさほど時間が経過していなければ、すっかり綺麗にしてくれるのだ。逆に言えば、時間が経ち過ぎた汚れを綺麗にする事はできないらしい。
その後も、ビトには簡単に通れる木の根の隙間も、俺とブラダはナイフで切り開いて通る必要があった。しかし、つまりは人が通っていない安全な通路という事だ。狭い通路は先にアルルを通して、ビトが後ろを見張ってくれた。非常に気遣いのできる獣人さんだ。
「ねぇ、ビトっていくつなの?」
俺は気になって聞いてみた。
「ちょっとレイリア! ビト『さん』でしょ」
「構わんよ。どうしてそんな事を聞くのじゃ?」
「どうしてって……見た目の割に凄く大人って感じだし、その喋り方が気になってさ」
「ふむ……ワシは183歳じゃ」
「え? めっちゃジジイじゃん⁉」
「ワシはまだジジイと言われる程の年齢じゃないぞ」
「ちょっとレイリア、失礼だよ⁉ 獣人さんは人間より寿命が長いのよ。ね、ビトさん」
確かに失礼だった。言い訳になるが、この肉体になってから少年時代に戻ったような感覚が続いているんだ。肉体年齢・脳年齢が若いからかも知れない……。
「ふ~む……確か獣人の寿命は大体人間の4倍程度じゃったかのぉ……種族にもよるが」
「へぇ~。そうなんだ……。ん~、でもさぁ、ウサギの寿命って10年もないくらいじゃなかったっけ? 何で獣人はそんなに長いの?」
「確かに気になるわね」
ブラダも同調した。
「ワシにもわからん。ただ、獣人は、竜や天使と同じように、神話の時代に神が生み出したという伝説があるからのぉ……。そんじょそこらの獣とはちぃとばかし違うのじゃよ」
「竜⁉ 天使⁉ そんな存在も本当にいるの⁉」
俺はテンションが爆上がりした。
「そう言えば、私達もここに来る前に飛竜に遭遇したよ。危ないから隠れたけど……」
「そうなんだ⁉ 見てみたいなぁ~‼ 天使は見た事ある⁉」
「て、天使はないかな……」
俺のテンションの高さと圧にブラダはちょっと引いてしまった。俺は、「あっ……」と気付いて、反省した。
「あ、この子、今、記憶喪失なんです」
ブラダは、俺のおかしなテンションをフォローするように、ビトに説明した。
「そうなのか……。それは難儀じゃのぅ」
「天使って……、本当にいるんですか?」
ブラダがビトに聞いた。
「天使はのぉ……ワシも183年生きて、数回しか見た事ないのぉ……」
俺は心の中で、「い、いるのかよ‼」と興奮した。目が見開いていた事だろう。ブラダもその話を聞いて目を輝かせ、アルルも飛び跳ねていた。
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