◆第二章⑰ 火炎耐性

 俺とブラダとアルルは、吹き抜け構造の広い空間に出た。巨大な柱があり、複雑に階段が折り重なっている。柱にはうねりがあり、ぶっとい木の幹のような形をしていた。


 吹き抜けの底は真っ暗で見えなかったが、周辺には、ほのかに青白く光る石が所々にあり、視界は確保されている。


 その時、下層から、「ドゴォンッ‼」という轟音が響いた。地響きもある。下層で誰かが戦っているのか……?


 直後、近くで「ガサガサガサガサッ」と音が聴こえた。


「何だ?」


 音の方向を見ると、「ガサガサガサッ」と音を立て、階段の上から、2メートル程の巨大な蜘蛛の魔物が現れ、「ビュビュビュッ‼」と糸を発射した。


「まずいっ! エルド・ヴォルン‼」


 瞬間、直感的にブラダが防火魔法『エルド・ヴォルン』を俺にかけてくれたが、その時はどうしてこの魔法をかけられたのか意味がわからなかった。そして、俺達2人は蜘蛛の糸で縛られ、壁面に拘束されてしまった。


 アルルは免れ、「ン~! ン~!」と鳴き声を上げた後、巨大蜘蛛の方を向き、立ち向かう構えを見せた。


(うぅ、アルル、無理だよ! 逃げろって!)


 俺はそう思ったが、口にも蜘蛛の糸が巻き付いて、声を出せない。


(……万事休す……ってやつ……?)


 しかしブラダは上手く、口に絡まないように腕で抑えたようだ。


「うぐっ、レ、レイリア! ヴラム! ヴラムを使って! 防火してるから、あなたが燃える事はないから!」


 なるほど、俺の身体は今、燃えない状態だ。ヴラムなら無詠唱で使える。


 いや待て。本当に燃えないのか? 一度『エルド・ヴォルン』の効果は確認済だが、ちょっと心配だ。迷いが生じた。


「う~、う~!」


 俺はブラダに話しかけて確認したかったが、無理そうだ。そうこうしていると、ガサッという音が聴こえ、巨大蜘蛛がケツから蜘蛛の糸を伸ばし、俺の目の前にゆっくりと降りてきて、カチカチカチカチと鋏角きょうかくと呼ばれる上顎で音を鳴らしている。


「レイリア! 早く! この状態で私がエルド・ヴォルンを使うと蜘蛛の糸にもかかって燃やせなくなるの!」


(ヤ……ヤベェ……絶体絶命……ってコト⁉ い、いや……、もうやるっきゃない!)


 俺は心の中で「ヴラム‼」と叫び、低級火炎魔法を発動した。


 ボゥッ!


 炎が俺の身体を包み、蜘蛛の糸を焼却していく。巨大蜘蛛は炎を避けるために、上昇して退避した。


「うわ、熱い! 熱い熱い熱い! 熱いよ‼ 本当に燃えてないのこれぇ⁉」


「だ、大丈夫! 大丈夫だから! 私の糸を切断して!」


 幸い、魔法の炎は持続時間が短く、俺に巻きついた蜘蛛の糸を燃やし尽くすと、炎は自然と消えた。俺はフラフラになりながらも、ブラダに巻き付いた糸を切断した。


 だが、そこで力尽きた。火傷を負ったわけじゃないが、これはもはや『火炙りの刑』の痛みを味わったようなものだ。精神力の限界を超えた。俺は「プツンッ」と意識が途切れた……。

 

 

 

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