◆第二章⑫ 遭遇
俺とブラダとアルルが再び遺跡内の暗く狭い通路を進んでいると、再び後ろの方でカサカサと何かが動く気配を感じた。ザザッ! と音を立て、突然、前方に体長2メートル程の巨大なムカデのモンスターが現れた。
「うわっ! で、でか! 気持ち悪っ!」
「あ、あれは【スコロペンドラ】! レイリア、『エルド・ヴラム』で追い払って!」
ブラダはアルルを抱きかかえた。
「よ、よ~し……エルド・ヴラム‼」
ボボッと掌がオレンジ色に輝いた気がした。が、やっぱりダメだ。まだ強くイメージしても詠唱破棄で発動できない。当たり前か……。
「ちょっと! ちゃんと詠唱してよ!」
ブラダに叱られた。スコロペンドラが、「シャーッ……カチカチカチ……」と、不気味な音を立てながら迫って来たので、後ろに引き下がりながら詠唱を試みる事にした。
「払暁の
ボボッと炎の塊が掌か飛び出したが、かなり勢いと威力が弱い。スコロペンドラにヒットしたが、スコロペンドラの厚い甲殻にはあまり効かなかった。
だが、少し嫌がったのか、足止めする事はできた。
「レイリア、それはただのヴラムだってば! 攻撃魔法はエルド・ヴラムだよ!」
あ~、俺のマヌケ! 自分に苛立つ。そもそもただのヴラムは詠唱破棄できたのに!
「ご、ごめん! え……っと、黄昏の紅霞! 晩暉の反照! 焰魔の法灯! 炎の精霊よ! 燃え盛る燎火で排撃せよ! エルド・ヴラム‼」
俺は大きな炎の塊を出す明確なイメージを持って詠唱した。
すると、「ボボッ! ボボボボボ‼」と、掌から自分が思っているより大きな炎の塊が出て、スコロペンドラに向かって行った。
バゥッ‼ ボッ! ゴウゥッ‼
思っていた以上に火の手が強く、周囲の壁面に張り巡らされた木の根や、壁面のコケまで燃やし尽くす勢いの炎だ。
「う、うわぁっ‼ ちょ、ちょっと! 火の手が強過ぎる‼」
ブラダは少し引いた表情をして、アルルもビックリしているように見えた。ブラダは右手でアルルを抱きかかえながら、左手で消火魔法『スレッカ・エルデン』を発動しようと、左の掌を前に出し構えたが、様子を見た。
幸い、燃焼の持続時間が短く、数秒で炎は消えた。魔法で出した炎は厳密には本物の炎と異なる性質を持つらしい。燃料となるのは、魔力そのものなのだ。
ボボボボボ…………プスプスプス……
俺はムカデの魔物・スコロペンドラを倒す事に成功した。しかし、まだ上手く魔法のコントロールができそうにない。狭い空間で使うのは危険かも知れない……。
実はこの時、ブラダは衝撃魔法『パイネ・アールト』や電撃魔法『イクレア』で攻撃ができたのだが、あえて使わなかったようだ。きっと雑魚モンスターだったから、魔法の練習になると思って俺に任せてくれたのだろう。
「まだ上手く魔法がコントロールできないや……」
「ううん、発動できただけでも凄いよ! でも、いきなり実戦は無理があったかもね?」
ブラダは俺の事を否定せず、慰めてくれた。優しい。もう好き。
しばらく歩くと、水路のある空間に出た。四角いブロックで構成された水路は、直角に曲がって蛇行している。四角いブロックで構成された空間は、まるでレトロゲームで見たような光景で、何故か懐かしさを覚えた。
(何かここ、来た事がある気がする……)
そんなわけないのだが、俺は心の中でそう思ってしまった。
「今更だけど、武器はないの?」
本当に今更だ。あまりにも魔法が便利過ぎて、武器の存在を意識できていなかった。
「あぁ、それなら腰にナイフがあるじゃない? 私達、魔法メインだから、あんまり武器使わないんだけど、念のために持って来てるんだ。あんまり斬ったり叩いたりしたくないし……返り血も浴びたくないしね」
返り血か……自分も今となっては女の子になっちまったが、女の子ならではの考え方だな……と思った。あくまで俺のイメージだけどね。
腰に手を回すと、小さな鞘付きのナイフが括り付けられていたが、文房具のカッターナイフくらいの大きさだ。
「こんな小さいナイフ、戦うのに使えるわけないじゃん……」
「それ、圧縮されてるよ? それ、実は『剣』なんだ。解除してあげるからその辺に置いて。持ってると危ないよ」
言われるがまま、俺は小さなカッターナイフを床面に置いた。
「レドーモ!」
ブラダが圧縮魔法の解除をすると、ブォンッと風を切る音が鳴り、刃渡り50cm程、日本刀の脇差くらいの長さの片刃の剣になった。
刀身は全体的に紺色で、星屑のような粒子がキラキラとしている。刃は氷山のような水色でとても美しい。元の大きさだと、装飾もしっかりしている事がよくわかる。
「お、おぉ~……。ありがとう! この剣の名前わかる?」
「あ~、確か『彗星の剣』じゃなかったかな?」
「へぇ~、この剣、『彗星の剣』って言うんだ……‼」
心の中では「彗星の剣とか、バリかっけぇ~‼ 装飾も綺麗だな~‼」と〈はしゃいでいた〉が、大袈裟に喜ばないという事を心がけていた。
しかしテンションが上がってしまった。心と体が裏腹に、鞘から剣を抜き、無意識的に笑顔でブンブンと『彗星の剣』を振り回していた。
心の中では「うっひょ~!」という気分になって目を輝かせていた事だろう。見た目が美少女じゃなくて元の俺のままだったら、ただのヤバい奴だ。
「ちょ、ちょっとレイリア! 危ないから振り回さないでよ‼」
「ン~!」
ブラダに怒られて、アルルも「やめろ」と言いたげだ。見た目が美少女でも、軽くヤバい子になっていたかも知れない……。
「あ……、ご、ごめん!」
「もう~」
ブラダは呆れ顔だ。俺は反省して手を合わせた。
「あ、あのさ、せっかく武器持ってるし、しばらくは武器で戦ってみるよ!」
「そ、そうだね! それが良いかも!」
ブラダは苦笑いをした。
「魔法を使うにしても、火炎魔法は危なっかしいから、しばらく使わない。防御魔法のアミナ・エスクードと、衝撃魔法のパイネ・アールトなら危険はなさそうだから、そっちを試してみるよ」
「確かにそれが良いかも知れないねぇ……」
「……ところで、さっきの圧縮解除って、ボクにも使える?」
「できると思うよ。じゃあ、私の『蒼玉のロッド』で試してみなよ」
ロッドとは、短い杖状の武器の事だ。『蒼玉のロッド』も中々かっこいい。
「や、やってみる。『レドーモ』……で良いの?」
ブラダはコクッと頷いた。
「元の大きさに戻れ~って、強くイメージして詠唱したら発動するよ」
「わかった。やってみる。……元に戻れ……元に戻れ……レドーモ!」
何故か一発で成功して、ブラダの『蒼玉のロッド』が元の大きさに戻った。
「やったじゃん! レイリア。成功だね!」
ブラダがニッと笑顔を見せた。可愛過ぎる。俺はちょっとドキッとして照れ笑いした。
「え、えへへ……」
やっぱり武器は大きくなるとかっこよく見える。
一発で成功したのは、『元に戻れ!』と、強く念を籠めるのが重要だったのだろう。
て事は、他の魔法も〈何をしたいのか〉明確に念を籠めて唱えれば、結構上手く行くのかも知れない……とコツを掴み始めた。ブラダは『
そう言えば、魔法に成功した時って肉体の内側で何か熱くなる箇所が現れる気がする。隠された魔法の刻印が熱を持つ感じというか……。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
良かったらフォローといいねをお願いします☆
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます