◆第二章⑨ 追跡者 その1

 三日月遺跡に侵入したサー盗賊団ペントは各々が松明を持ち辺りを照らしながら暗い回廊を歩み進んでいる。足下には崩れた岩や木の根が張り、非常に歩きにくい。


 パラパラパラ……と小石が落ちる。遺跡内は不気味な蟲が蠢き、カラスより大きいコウモリの群れが生息している。


「さて……我が愛蛇、ズミーヤを先行させてみましょう」


 ザハールが首に巻いていた蛇のズミーヤを下ろし、放つ。ズミーヤが先行すると、群れていた蟲がササーッと道を開けるように避けて行く。


 ダンケルが口を開く。


「グレース。もう一度『透視』してくれ」


 グレースは頷き、水晶を手にして静かに祈る。


「ハリの水晶よ……我が眼と成り代わりて、求めに応じなさい……」


 水晶が青白い光を放ち、再びグレースの周囲に吹き上がるような風が巻き起こり、グレースのローブがはためく。青白い光を嫌がって蟲達はその場から逃げ去った。


 前回と同じようにグレースの視界には、三日月遺跡が透過したように青白く見え、いくつかの強い光が浮かび上がった。


 遺跡内に侵入したため、前回と見え方は全く異なり、今いる地点より上層にぼやけた光が揺らめくように見えたが、やはり妨害ジャミングされたように視界の幻像がぼやけて見えなくなった。


 しかし、足下より下層の光はハッキリと浮かび上がり、水晶には棺のような物が映し出され、さらに透過し、青白い光が剣のシルエットを形作った。


「少女は確実にいる事はわかる……でもそれだけ……。位置まで把握できるのは『伝説の剣』だけ……」


 グレースは自信無さげにダンケルの顔色を窺った。ダンケルは無表情だが、明らかに不満そうに見える。


「……まぁいい……。ザハール」


「ひぇっひぇっひぇっ……では、コウモリを使いましょう」


 ザハールが右手で持つ杖を天井に向けると、数羽のコウモリがまるで磁石で引き寄せられるようにザハールの目の前に向かって飛んできて、ビタッと止まった。自らの意志で羽ばたいて飛んで来たのではない。翼は閉じたまま、無理矢理引き寄せられた。


 ザハールが無詠唱で拘束魔法『コンストレイン』を使ったのだ。


 コウモリ達はザハールの魔力によって空中に留められている。ザハールがコウモリ達に掌を向けて紫色に光り揺らめく魔力を放つと、バサバサッと回廊の奥に向かって自ら羽ばたいて飛んで行った。ザハールはこの程度の魔物であれば無詠唱で使役できるようだ。


 バサバサバサバサッ‼


 ザハールに使役されたコウモリに付いて行く形で、コウモリの群れは一斉に飛び立った。コウモリの群れは五月蠅く羽音を立て、吹き抜け構造の拓けた空間に出る。


 だだっ広い空間の中央には、幅20~30メートル程の樹木のようなうねりのあるゴツゴツとした柱があり、周囲には幾つも向きの異なる階段が複雑に折り重なっている。


 まさに迷宮。どこがどこに繋がっているのかわかりにくい構造だ。吹き抜けの底は真っ暗で何も見えないが、周辺には、ほのかに青白く光る魔霊石が所々にある。


 その『柱と階段の間』に繋がる中段の通路、即ちサー盗賊団ペントが居た回廊から、コウモリの群れが一斉に「バサバサバサバサッ‼」と飛び出て上層に向かい、複数の方向に分かれ、幾つかの狭い回廊に向かって飛び去って行った。


「ひぇっひぇっ……コウモリどもが、探し求める『アニマ・アルカの少女』を見つけてくれましょう」


「あぁ、少女は貴様に任せる。先に『伝説の剣』を手に入れる……行くぞ」


「はっ!」


 ダンケルが命じ、団員達が応じる。


「グレースさん……‼ だ、大丈夫ですか?」


 グレースの護衛兼荷物持ちで巨漢のトーマスがグレースに声をかけた。


「だ……大丈夫だから……気にしないで……」


「で、でもっ! ち……血が‼」


「⁉」


 グレースは自分自身で気付いていなかった。グレースの右目は真っ赤に充血し、血の涙が流れ、鼻血も出ていた。目の周囲は血管が浮き出て見える。ハリの水晶で透視能力を発揮するのは、本人が思っている以上に消耗している。


「まだ小さい赤ちゃんがいるんですから……無理しないで下さい……」


「……私は大丈夫……大丈夫だから……」


 グレースは鼻血と血の涙を拭い、気丈に振舞った。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

良かったらフォローといいねをお願いします☆

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る