◆第二章⑥ 『蛇』の侵入

 推定時刻 12:30 PM


 サー盗賊団ペントの一行が生い茂った森の中の岩場を進行している。


 先頭は頭領のダンケルが進み、ダンケルの妻で占い師のグレースが続く。グレースは相変わらず顔色が良くない。


 途中、小さな滝があり、1メートルほどの岩場を飛び越えなければならない箇所がある。足場が悪く、グレースにはキツい道程だったが、ダンケルがエスコートするようにグレースを支え、岩から岩へ跳び移る時には手を差し伸べ、身体を支える。


 グレースを護るように護衛のコールソンが続く。コールソンは30代前半の筋肉質な男で、グライフ、ガイウスに次ぐ実力者だ。『赫灼かくしゃくの剣』を腰に下げている。


 続いて同じく護衛でもありながら荷物持ちでもある、20代半ばのトーマスが続く。トーマスは圧縮したメイスを腰に装着している。出縁型メイスで、全て金属製だ。


 また、背中に『背負子しょいこ』のような背負い道具を装着しており、圧縮された魔法の杖を6本ほど括り付けている。トーマスは巨漢で肥満体のため、狭い岩場を進むのは一苦労に見えたが、見かけによらず軽やかな動きで狭い岩場も切り抜ける。 


 さらに後ろには8人ほど盗賊団員が続く。


 ダンケル一行が三日月遺跡の東門を見下ろす岩場に到着すると、先に到着していた秘術師のザハールが振り向いて、ニタァッと口を開いた。


「ひぇっひぇっひぇ。お待ちしておりましたぞ」


 ザハールは小柄で不気味な老人の秘術師。ローブを身に纏い、首に蛇を巻き付けている。

 しわくちゃの顔で、飛び出たように目が大きく、目の下には真っ黒なクマがあり、顔中に斑なシミがある。まるで蛇のような蜥蜴のような、爬虫類を想起させる顔をしている。

 ローブは深緑と深紫色で、金色の刺繍が施されており、大きなフードで顔には陰が落ちている。そして気味の悪い蛇の彫刻が施された杖を突いている。蛇の彫刻の両眼には赤いルビーのような宝石がはめ込まれている。


 ダンケルが問う。


「早いな。どうやってここまで来たんだ?」


「ひぇっひぇっひぇ。こう見えても身体は身軽な方でして……」


「まぁいい。魔法の力だろう。遺跡の侵入経路はそこだな?」


 ダンケルが指を差す。東門は閉じられているが、横側の壁面には亀裂が入り、穴が開いて崩れた岩場となっている。


「はい。そこからならグレース様や他の団員も容易に進めましょう」


 ダンケルが振り向いてグレースに声をかける。


「グレース。水晶を使って『透視』してくれ」


「はい……」


 グレースの首飾りから魔法の光輪が交差して現れ、その間から圧縮されていた水晶が現れ、元の大きさに戻った。20cm程度の大きさだ。


 グレースは両手で水晶を持ち、天に捧げるように掲げた後、胸元に近付け、目を閉じて念じる。不思議とグレースの周囲に吹き上がるような風が巻き起こり、グレースのローブがはためく。


「ハリの水晶よ……我が眼と成り代わりて、求めに応じなさい……」


 目を閉じたグレースの視界には、三日月遺跡が透過したように青白く見え、いくつか強い光が浮かび上がった。中層から下層に向けて動く光は朧気で、複数に分かれて消えたり揺らめいてハッキリしない。もう1つ、最下層の地下に光が浮かび上がっている。


 そして、水晶には白い髪の少女の『像』がぼやけて映し出された。続いて棺のような物が映し出され、さらに透過し、青白い光が剣のシルエットを形作った。


「ターゲットは『アニマ・アルカの少女』と『伝説の剣』の2つ。少女の存在は感じるけど、どこにいるかまでは靄がかかって見えない……。何か邪魔されているかのよう……」


 グレースは眉間に皺を寄せ、少し苦しそうな表情を見せた。


「何? お前の『透視能力』の邪魔だと?」


「強い妨害が入っている……結界……? いえ、違う……」


 水晶がバチバチバチッと、電撃を放ち、バチンッとグレースの頭部を弾き、グレースは膝を突いた。コールソン、トーマス他、団員達は心配そうにうろたえるも、ダンケルとザハールは微動だにしない。ダンケルは無表情だが、ザハールはほくそ笑んでいる。


「うっ……何者かに邪魔されているわ……これ以上は無理……。『伝説の剣』の位置なら手に取るようにわかるのだけど……」


「……そうか。ここでの『透視』では限界があるな。突入するぞ。立てるか?」


「はい……」


 グレースは辛そうだが、ダンケルが手を取って立たせた。


「よし、ザハール。全員にヴァロア・ソーマをかけろ」


「御意にございます……」


 ダンケルに命じられ、ザハールが杖を振るうと、全員に俊敏魔法『ヴァロア・ソーマ』がかかり、ボワッとほのかに輝く。ザハールは無詠唱で魔法を使った。


「……行くぞ!」


「はっ!」


 ダンケルが命じ、団員達が応じた。

 

 

 

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