◆第二章⑤ 魔法のいろは
レイリアとなった俺とブラダとアルルは『祭壇の間』から出た。
祭壇の間には三カ所の出入口があったが、中央の最も大きな出入口は扉が閉まっていて、周囲は落下した岩やトロールの死骸があっただけでなく、木の根や蔦で覆われ、出れそうになかった。
俺達が居た場所から近い出入口と奥の出入口は同じくらいの大きさで、扉がなく、すぐに下り階段に繋がっていた。中央の大きな出入口よりは小さいが、それでも7~8メートル程の高さがあった。
ブラダの話を聞く限りでは、俺達が居た場所から遠い方の出入口が東側、近い方が西側のようだ。つまり中央の出口は南向きという事になる。
ブラダから聞いていた俺達が帰るべきハイマー村は西側にあるようなので、安易な考え方だが、西側から出る事にした。
西側の出入口から出ると、広めの回廊に出た。西側から出たので、左側を向けば南側の中央出入口側に通じるはずだったが、岩崩れが酷く、木の根で覆われてもいたので、そのまま真っ直ぐ進む事にした。
先に進むと、『祭壇の間』からのわずかな光が徐々に届かなくなり、奥は暗くて見辛い。
意気揚々と動き出したのに情けない事だが、俺はお化け屋敷にいるような感覚になり、正直言ってビビりまくっていた。
「ね、ねぇブラダ……く、暗いの恐くない?」
「あ、もちろん灯りをつけるつもりよ。心配しないで」
ブラダはニコリと笑ったが、その後、物凄く心配そうな顔になったのを俺は見逃さなかった。前のレイリアとは度胸が違うんだろうな……。仕方ないだろ!
「ね、レイリア。魔法が使えるか試してみよっか? ヴラム使える?」
「……ヴ、ヴラム?」
俺がそんな事を考えていると、ブラダが左手で落ちていた木の枝を拾った。
「だよね。忘れちゃってるよね……。じゃあ、本当は詠唱しなくても使えるけど、きちんと詠唱するね。……
ブラダは低級火炎魔法の呪文を詠唱し、右手の指先から小さな火の玉を出す。火の玉はゆっくりと空中を揺らめき、拾った木の枝に着火して松明のようになった。
「おぉ~」
俺は思わず「スッゲ!」と叫びそうになったが、元々のレイリアならきっと驚かなかっただろうから、ぐっと堪えた。おそらく目が星のように輝いていた事だろう。
「今のは凄く威力を抑えたよ。見て。このままだと、木の枝全体が燃えちゃうの。だから手で持つ柄の部分を燃えにくくしつつ、火が長持ちする魔法を使うんだ」
「ふんふん……」
「一度、消火魔法で火を消すね。淵源の
ブラダの掌から白い光線の束が出て、松明の灯をフッと消した。
俺は思わず両手を胸まで上げて拍手しそうになったが、これも堪えた。
「消火魔法みたいに、複数の精霊を呼び出すパターンもあるよ。では、松明にするために、柄の部分は燃えにくくします。その後、火が消えにくくなる『おまじない』も入れたヴラムを使ってみます」
ブラダは先生のような喋り方をし始めた。ブラダが松明の柄の部分に掌を向ける。
「寒月の凍土。雪消の春泥。蔽扞の
水色に輝く光が松明の柄の部分を照らした後、少し光沢が増したように見えた。
「これは防火魔法。これで柄の部分は火が着かなくなったから、再度着火するよ。デュラ・ヴラム!」
ブラダは今度は呪文を詠唱せずにさっきと異なるヴラムを放った。松明に灯がつく。
「今のヴラムは、持続性魔法を追加して使ったんだ。私には弱めの低級魔法じゃないと使えないんだけどね……あ、めんどくさいから詠唱破棄しちゃった」
ブラダがかわいく舌を出した。かわいい……。
「リアクション薄いけど、大丈夫?」
「あ、ちゃ、ちゃんと聞いてたよ! ボ、ボクもそれできるんだよね?」
俺は感動しまくっていたが、格好つけてぐっと堪えてたので、ちゃんと話を聞いてない感じになってしまっていた。
「うん、レイリアはこのくらいの魔法だったら全部詠唱破棄で使えるはずだよ。じゃあこっちの木の枝でやってみて」
ブラダが違う木の枝を拾って渡してきた。
全く自信がない……。とりあえずやってみるか。って、さっきの詠唱、何て言ってたっけ⁉ 全然覚えてないや……。とりあえず、名前だけでやってみる事にした。俺は掌を木の枝に向けて、呪文を唱えてみた。
「ヴ、ヴラム‼」
出るわけがない……。と思ったら、掌が少し明るくなったように思えた。しかし炎は出なかった。
「う~ん。やっぱり使えないか……とりあえず詠唱から覚え直してみよっか?」
「……はい」
俺達は回廊を進みながら、魔法の練習をする事になった。
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