◆第二章④ 親の思い

 同時刻、レイリアとブラダの故郷のハイマー村の酒場兼道具屋で、店主でブラダの父親のジョナスがそわそわしている。


 ジョナスはレイリアの育ての親でもある。昔は伝説的な勇者の一行に加わり旅をした事もあったようだが、今ではすっかり肥えてしまった。

 まだ頭は禿げているほどではないが、おでこは広くなり始め、髭を蓄え、優しげな顔立ちをしている。白いシャツにネクタイで、お腹が出ているので、サスペンダーでパンツがずり落ちないようにしている。


 ジョナスの店は道具屋としてはそれほど品揃えが良いわけではないが、酒場の客繋がりで何かとレアアイテムが入荷する事が度々あり、マニアックな常連に好まれている。

 とはいえ、日頃から売れ行きが良いわけではなかった。


 酒の品揃えは山奥の田舎にしては悪くないとジョナスは自負している。


 ジョナスは料理も得意で、お勧めはオムライスと、マスモンの香草焼きだ。レイリアとブラダはこの二品が大好物だ。


 


 酒場は、一般的に『冒険者のギルド』としての役割を持つ。酒場の内と外には掲示板があり、依頼の張り紙が掲示されているが、ハイマー村は田舎なので、数は少ない。


 最近掲示された依頼は、『近隣の森で巨大な魔物の目撃情報有り 退治した者に報奨金20万リングル 村長より』というものと、『X月X日 ハイマー村【巨月のオヴム祭】開催‼ 警備兵求む‼』の2枚しかない。

 他にも張り紙はあるが、ボロボロになって何が書かれていたのかわからない。


 ハーディー一行は前者の依頼を受けて魔狼を退治したというわけだが、依頼者である村長も正体が『魔狼』であった事は理解していなかったようだ。


 


 酒場には一定数の客が入っている。


 主に傭兵や冒険者で、他の数名は飲んだくれの村人だ。


 オヴム祭の警備兵として、街から派遣されて来た傭兵団『シルバー・ウルヴス』は男女比5対3の8人。20代から40代までメンバーにいる。顔に傷がある屈強な男の戦士や、赤髪で筋骨隆々の女戦士に、魔法使いも2人いるようだ。


 放浪冒険者集団の『ノーマッズ』は男だけの3人組で、昼間から顔を真っ赤にして酔っ払い、大笑いしながら喋っている。実はこう見えてそれなりの実力派の3人だ。


 1人、図抜けた巨躯で全身を〈銀色の鎧兜〉で身を包む、異様な雰囲気の重装騎士がいる。フルフェイスの兜で顔が隠されている。


 彼の名前はヴィルヘルム。立ち上がったら身長は2m50cmはありそうな体格で、背が高いだけではなく、肩幅も広く、肉体の厚みが凄まじい。武器は巨大で分厚い斧槍ハルバードだ。彼なら1人でも巨大な魔物を倒してしまうだろう。


 只者ではないオーラを醸し出しているため、他の客は誰1人構わないでいる。酒場でも兜を脱がず、コソコソと兜をズラして飲み食いしている変わり者だ。隙間からは硬そうな毛質の茶色い髭が見えている。


 「意外と繊細なのかも知れない」と、他の者には思われている。一見すると恐ろしい雰囲気の男だが、ジョナスは彼と顔見知りで、よく気遣って話しかけていた。


 


 ジョナスは天候が悪化した事を受け、レイリアとブラダが気がかりになっていた。


「天気が急激に悪化しちまったなぁ……あの子達は大丈夫なのか……」


 そう独り言を呟く。出かける前に遠出する事は聞いてはいたが、まさか三日月遺跡に行っているとは思ってもいなかった。日頃から厳しく言い聞かせてきたし、彼女達の素直さを信じていた。普段は言いつけを守る良い子達だったからだ。


 この辺は比較的安全な地域だ。それに2人はその辺の男どころか、魔物にも負けないほど強い。しかし何故か胸騒ぎがする。


「探しに行くべきか……しかし行き違いになったら元も子もない……」


 ジョナスは店内をウロウロとして、どうすべきか迷っている。

 

 

 

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