◆第一章④ 『蛇』という名の盗賊団

 推定時刻 11:00 AM


 空中で飛竜に乗るガイウスが方向転換し、地面に降り立った。


 そこには複数の男達がいる。彼らは『蛇』(サーペント/ヘビ)と呼ばれる盗賊団だ。


 ガイウスと同じように各々左腕に蛇柄の刺青を入れている。腕が露出していない者も、衣装に蛇柄の紋様が入っている。


 サー盗賊団ペントの面々がガイウスに注目する。ガイウスが飛竜から降り、飛竜をひと撫でして落ち着かせ、緊張した面持ちで、1人の屈強な男の前で立ち止まった。男の隣には華奢で若い女性が寄り添っている。


 屈強な男の名はダンケル。30代後半のサー盗賊団ペントの頭領である。

 体格が良く、恐ろしいまでに目つきが鋭い。オールバックで短めの金髪。肌は日焼けしていて、差し色にゴールドが入った漆黒の装束を身に纏っている。

 装束には所々に黒く染め上げられた蛇革があしらわれ、左肩には黒い金属の肩当てが装着され、左腰に『月下げっかの剣』を帯剣している。


 寄り添う女性はダンケルの妻で占い師のグレース。20代半ばの美女だ。

 所々に金色の刺繍の入ったシルク製の美しいローブを身に纏い、フードを被っているが、少し顔色が悪いようだ。グレースは両手で大事そうに水晶を抱えている。


 ガイウスが地図を取り出し、指を差して空から見た地形の説明をする。


「ここを進めば、三日月遺跡の最下層に入れそうです」


「そうか。ご苦労だったな。しばらく空から道案内をしてくれ。遺跡に着いたらお前はアジトに戻って飛竜を休ませてやれ」


「はっ」


(何だ……? 今日はやけに落ち着いてるな)


 ガイウスは心の中で呟いた。


 グレースがダンケルに声をかける。


「ねぇ……、あの空……あの雲……。まるで私達を見ているような気味の悪さを感じるの……。まるで、巨大な目に見られているような……」


 ダンケルが空を見上げる。確かに少し渦巻いて、窪んだ眼のように見えなくもない雲の形をしているが、ダンケルは意に介さない。


「グレース……。お前は少し休め……」


 ダンケルはグレースを連れて奥に設置されたテントの前に進み、彼女を中に入れた。


 ダンケルは振り向いて、盗賊団の団員達の間を睨みを利かせながら歩き進み、岩場で武器の手入れをしていた男に声をかける。


「おい、グライフ。お前は洞窟アジトに戻れ」


「え? 何でだよ?」


 グライフと呼ばれた28歳の男は、背が高くスマートだが筋肉質で、他の団員より高級な銀色と漆黒に近い藍色の鎧装束を身に着けている。

 黒に近い紺碧の髪色で、ダンケルほどではないが鋭い目つきだ。他の団員と同じく、左腕に蛇柄の刺青を入れている。


 グライフは光り輝く大剣を手に持ち、手入れ中だった。


「さっきグレースが危険を察知したらしい。洞窟アジトで何かヤバい事が起きる……と予知したようだが、俺達は目的を優先する。お前は手下を連れて戻れ」


 グライフはムスッと不服そうな顔をした。


「……わかったよ。グレースはどうした?」


「あぁ、あいつは今はテントで休ませている」


「そうか……グレースには無理をさせないでくれ。半年前に出産したばかりだろう?」


「あぁ。俺の女房だぜ?」


「……そうだな。……おい、お前ら。行くぞ」


 グライフは手下のブレン、フォルカー、ロルフの3人を連れ、その場から立ち去った。


 


 ブレン、フォルカー、ロルフは元山賊で、グライフを慕って入団した者達だ。他の団員と同じく、左腕に蛇柄の刺青を入れている。


 中でも、ブレンは平均的な身長だが、目を惹く。上半身は裸で、凄まじく筋肉質で引き締まった筋骨隆々の肉体に、日焼けした肌の23歳の男だ。

 体格に反して少年のような顔立ちで、ショートの茶金髪。前腕に『魔布』を巻いている。腰には獣の毛皮が巻かれ、2本の剣鉈のような幅広の刀『火獣の双剣』をぶら下げている。


 フォルカーとロルフは、ブレンと同世代の元山賊だ。

 この2人は似たようなベストを着て、ブレンと同じく腰に毛皮を巻いている。

 フォルカーは目元が隠れたボサボサな髪型で、体格は痩せ細っており、胸から腹部にかけてさらしを巻いている。対してロルフは少し脂肪がつき、それほど引き締まっているわけではないが、身軽に動ける男だ。


 


 グライフ達4人が立ち去った後、1人の少年盗賊団員がグライフが居た場所にやって来て、キョロキョロと辺りを見回した。


「あれ? グライフさんは?」


「おい、テオ。グライフなら『お頭』の指示で洞窟アジトに向かったみたいだぜ」


 近くにいた大人の盗賊団員が少年の質問に答えた。


「え~⁉ グライフさん~‼」


 その少年・テオは、グライフを追って全速力で走って行く。


 テオは、浅黒い肌で焦げ茶のボサボサ頭の若干10歳の少年だ。サー盗賊団ペントの装束で肌が露出した軽装である。

 同い年の他の少年より小柄だが運動神経が良く、鼻が利くタイプで、サー盗賊団ペントでも一目置かれる存在だ。

 

 

 

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