◆第一章③ いざ冒険の旅へ

 あくる日。 


 推定時刻 10:00 AM(ジーレンベルトの時刻で地球時間に相当する時刻)

 

 レイリアとブラダはピクニック気分の軽装で、山間の谷の【浮遊岩】の上を飛び跳ねて移動していた。ペットのアルルもレイリアに付いて来ている。


 


 レイリアの服装は、全体的に白と薄めのグリーン系を基調とし、動き易いショートパンツを履いている。腰にポーチを装着し、腰の後ろに小さなナイフが括り付けられている。


 ブラダの服装は、全体的に白と赤茶色や緋色を基調とした膝丈より少し上くらいのワンピースだが、腰の部分は絞られたデザインだ。背中には体操で使われるバトン程度の大きさで、両端に小さな宝石が埋め込まれたロッドが括り付けられている。


 実は軽装と言っても『圧縮魔法』で荷物を4分の1ほどに小さくしているため、意外と色々と持って来ているようだ。圧縮魔法で縮めた荷物の重さは半分程度になった上に、小さくなるため、圧縮前より格段に持ち運び易くなっている。


 専門の魔法職人に圧縮魔法をかけて貰っていて、自分達で解除はできるが、再度圧縮は難しい。つまり、そのまま消費しなければ、帰路では荷物が重くなる事を意味する。


 


「あ! 見てレイリア! 空溜まり!」


 ブラダが指を差した。無重力下で水が浮くように、空中に水の塊が浮いている。これは空溜まりと呼ばれている。


「あ、ほんとだ! お魚がいる!」


 不思議と、空溜まりに魚が2匹いる。


 


 空溜まりとは、空中で重力や引力が拮抗して、ラグランジュポイント(※)化した中空(浮きポイント)に水が溜まって浮遊する水溜まりの事である。


  ※本来は宇宙空間で重力の釣り合いが取れる場所の事。 


 ジーレンベルトはどういうわけか重力が不安定で、フラクタルノイズのようなランダムさで重力の強い場所と弱い場所がまばらに存在している。


 さらに、この世界は魔力に満ち溢れていて、大質量の物体には強い魔力が宿るが、強い魔力には魔力を持つ物体を引き付ける引力が発生する。


 そのため、大地に向かう重力の他に、崖の側面に対して引力が発生する事もある。岩盤の厚みや、宿った魔力にもよるのだが、山場の谷では両側に引き付けられる引力の影響で中空に浮きポイントが度々発生する。


 ここの空溜まりはどうやら下にある谷間の影響のようだ。


 


「ねぇ、ブラダ。ちょっと釣りしようよ。お腹空いたし。丁度2匹いるし」


「あ、良いねぇ。あの魚はマスモンだね。おいしいよね! マスモン。でもどうやってここに入ったんだろ?」


「確かに。何でだろうね~?」


「不思議だね~。マスモンは綺麗な水に棲むらしいけど、空溜まりの水は綺麗そうだね」


「おいしそうだね! とりあえず釣っちゃお~!」


 レイリアとブラダとアルルは、蔦が絡まって固定された浮遊岩の上に座った。


 レイリアがポーチをゴソゴソとして、圧縮魔法で小さくしていた釣り竿を取り出す。ミニチュアサイズの釣り竿はペンほどの大きさしかない。


「レドーモ!」


 レイリアが呪文を唱えると釣り竿が元の大きさに戻った。


 空中での釣りは、傍から見たら不思議な光景だろう。


 疑似餌を使って、レイリアがマスモンを釣り上げた。


「ここは狭いからあっちに行こう」


 2人と1匹は少し拓けた場所に移動した。


 レイリアは木の枝でマスモンを串刺しにして、それを地面に突き刺した。


 低級火炎魔法なら無詠唱でレイリアは使える。声に出して詠唱しなくても、心の中では無意識的に発しているもので、レイリアが心の中で「ヴラム」と呟く。


 レイリアの指先から小さな火が発せられ、マスモンをおいしく焼き上げた。


「ほらブラダ」


 レイリアの手には3cm程のミニチュアのような丸い大麦のパンが乗っている。


「あら? ちっちゃいパン?」


「レドーモ!」


 レイリアが呪文を唱えるとパンが4倍の12cm程のサイズに戻った。


「思ったより大きいね」


「えへへ、良いでしょ?」


 レイリアは得意気な表情を見せた。


「アルルも食べる?」


 ブラダがアルルに聞いたが、アルルは興味を示さず、眠そうにゴロゴロしている。


 2人が昼食を食べていると、蒼碧色に輝く美しいアゲハ蝶の大群が空を舞った。


「うわぁ~! ブラダ見て!」


「綺麗~!」


 レイリアとブラダが美しく舞うアゲハ蝶に目を輝かせて見ていると、突然、トンビに似ているが全く異なる甲高い動物の鳴き声が響き渡った。


「ブラダ、見て! ……飛竜だ。どうしてこんな場所に?」


 青緑色で腹部が白い『飛竜』と呼ばれるドラゴンが大空を舞っている。


 飛竜には馬の鞍のような物が装着されていて、背中には人が乗っているようだ。


「誰か乗ってる……あれって……ドラゴンライダー? 初めて見たぁ~」


「ね、ちょっと隠れた方が良いかも……だってほら、さっきの空溜まりの近くに留まろうとしてるよ」


「あ……このマスモンってもしかして……」


 2人は目を見合わせ、「ヤバッ!」って顔をした。


 


 飛竜が先程までレイリア達が釣りをしていた浮遊岩に留まった。


 飛竜に跨るガイウスは30代前半の男で、小麦色の肌で筋肉質な体格をしている。鱗模様の肩当て・胸当てを装着し、頬には真一文字のペイントをしていて、髪は長くウェーブがかっていて、ワイルドな容貌だ。左腕に蛇柄の刺青を入れていて、腰には魔法の布『魔布』で包まれた、杖のような物を装着している。


「あぁ……? クソッ……魚いねぇじゃねぇか……。こいつの餌だったのによ……」


 ガイウスはキョロキョロと辺りを見回す。ドラゴンライダーとして空を飛ぶガイウスは目が良い。レイリア達が食事をしていた場所の痕跡を見つけた。


 ガイウスは飛竜に乗ってレイリアとブラダがいた場所に降り立った。 


 レイリアが使用した釣り竿が地面に落ちている。


「釣り竿……クソッ……あんな所で釣りする奴がいるのかよ」


 再びガイウスが周囲を見回し、舌打ちして飛竜に乗り、飛び去って行った。


 


「良かった……」


 レイリアとブラダとアルルが茂みの奥から出てきた。


「ねぇ、レイリア。村に帰らない?」


 ブラダは不安になった。


「え……ここまで来たのに?」


 レイリアは三日月遺跡の方向を見る。


「ここまで来たんだから、ボクは行くよ。行きたい理由があるもの」


 レイリアは歩き出し、アルルは付いて行く。


 ブラダは立ち止まり、眉間に皺を寄せて頬を膨らませた。先に進む事に不満ではあるが、1人で帰るわけにはいかない。結局、「も~っ!」と言ってレイリアの後を追いかけた。

 

 

 

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