第77話 素材採取①
「そもそも何を持って帰ってくるよう依頼されているんだ?」
「雪華「六つの花」、白樺の冬芽、擬似氷花、オーロラの種、アリリイル貝、ドスカルパラのヒレ、万年氷、
アイラはボニーに渡された羊皮紙を広げて読み上げる。
「雪華は雪、白樺の冬芽は名前の通り、擬似氷花は花のふりをした魔物で、オーロラの種は緑色に光る石のこと。湖の周りに転がってるらしいよ。万年氷はピエネ湖の氷だって。雪と氷は保管用の瓶を預かってる。氷虹石は表面が虹色に光る石で、もっと奥の湖にあるんだって」
「氷と雪は簡単に手に入るから最後にするぞ。荷物を増やしたくない」
「うん」
二人はまず、オーロラの種なるものを探すことにした。目を凝らして湖の周囲を歩いていると、雪の中にかすかに緑色に光るものを発見して、手で雪をかき分けた。すると確かに、小石ほどの不思議な物体を掘り当てた。魔石と異なり軽く透明で、内側から発光している。光はカーテンのようにゆらめき、静かに瞬いていて、時折紫や青、赤に変化した。
「どのくらい必要なんだ?」
「えっとね……二十個って書いてある」
「よし、掘ってみよう」
ルインが前足で雪をどんどんかき分けてくれる。オーロラの種は一、二個見つかったが、それ以上同じ場所にはなかった。場所を変えて探し続ける。ピエネ湖を半周したあたりで、ようやく指定数が手に入った。
「次は擬似氷花と白樺の冬芽!」
「樹氷林に行こう」
「案内よろしくね、ルイン」
「どっか行くのか、嬢ちゃんたち?」
湖上を横断して樹林に向かおうとしたところ、未だ釣りを楽しんでいる冒険者が問いかけてきた。
「擬似氷花と白樺の冬芽を採取するために、樹氷林に行くんだ」
「そうか。もうすぐ日没だから気をつけろよ。場所によってはバベルに戻るより探索拠点に行った方がいい。拠点の場所知ってっか?」
「そういえば知らないや」
「樹氷林から北西、銀雪山脈を登った先にある。登ると言ってもたかが知れているし、みんなが使う上にギルド職員がこまめに整備して道が出来上がっているからすぐにわかるはずだ。魔物避けの魔導具が使われているから道なりに魔物は出てこないし、夜には明かりもついている」
「わかった、ありがと」
「気をつけてな!」
アイラは冒険者に手を振り、湖上を歩いて横断した。
樹氷林はうっそうと木々が繁り、全てが雪と氷に覆われている。雪を積もらせた木々は日の光を受けて煌めいている。まるで木が粉砂糖を被っているかのようだった。今アイラたちはルインが先ほど行き来した道であろう、雪が溶けている箇所を進んでいる。楽ちんだ。
「突然魔物が飛び出してくるから気をつけろ。特にオレの毛色は目立つらしく、やたらに攻撃された」
「たしかにルインは目立つよね」
白一色の世界で、ルインの燃えるような毛色は目立って仕方がない。攻撃されるのも無理からぬ話だ。
「あ、ルイン。あの魔物なんだろう」
「ぬ、あれか。あれはよくわからない」
アイラは林の一角で、じっとひとかたまりになっている魔物を発見して足を止めた。
なんだかもふもふした魔物だった。二本足で立っているが、手はヒレのようで、嘴がついている。胴体が長く、雪の中に半分埋もれていて足は確認できなかった。お腹は白く周囲の毛は黒っぽい。全体的に、可愛らしい見た目をしていた。丸いつぶらな瞳でこちらをじっとみつめているが、攻撃してくる様子はない。アイラは込み上げる衝動を口にした。
「……近づいてもふもふしたい……抱っこして抱きしめたい……」
「やめろ。あんな見た目だが魔物だぞ」
「でも、可愛いよ!? あのお腹に頬擦りしたいと思わない!?」
「思うわけないだろう! その魔導具使って正体を見てみろ!」
言われるがままにアイラは鑑定魔導具を使った。
【
可愛い見た目で油断させ、射程距離に入ると集団で襲いかかってくる。食用不可。
「射程距離に入ると集団で襲いかかってくるって。あと、食べられないみたい……」
「なら用はないな。行こう」
ルインはそれ以上は人暴鳥なる魔物に興味を示さず、ぷいとそっぽを向いて歩き出した。アイラはかなり未練があった。五十匹あまりで寄り添っている彼らは平和な顔をしており、凶暴そうには見えない。しかし相手が魔物であり、鑑定魔導具にもはっきりと出ているならば、諦めるほかないだろう。アイラは未練タラタラに手をワキワキさせた。もふもふしたかった。あの豊満ボディを覆う毛を、思う存分撫でくりまわしたかった。あの魔物には、人にそうした衝動を思い起こさせる何かがあると思った。もしかしたらそういう魔法なのかもしれない。シングスの魅了魔法のようだ。知らないうちにアイラを虜にして、もふもふの魅力に抗えないようにしたのかも知れない。恐ろしい。
「……もふもふ……」
アイラのグーパーしていた手に、ルインの頭が乗っかった。わしゃわしゃした感触が、グローブから出ている十本の指に伝わる。
「オレの頭で十分だろう」
そう言うルインの顔は、若干すねているようにも見えた。アイラは目をパチクリさせてルインを見た。
「え……えぇ〜、もしかしてルイン、すねてる?」
ルインは鼻からフンッと息を吐き出し、是とも否とも答えなかったが、その態度こそがもう答えのようなものだ。アイラは両手でルインの頭の毛をわっしゃわっしゃとかきまぜた。
「嘘だよ〜、ルインのことが一番大好きだよっ」
「フンッ」
ルインが顔をのけぞらせ、アイラの掌にますます顔を密着させる。
「可愛いな〜、ルイン可愛いな〜!」
アイラは思う存分ルインを撫でて、撫でて、撫でくりまわした。
そうしていたらいつの間にか、人暴鳥をもふもふしたいという衝動が治った。
「ハッ、あたし、さっきまでどうかしてた」
「落ち着いたか」
「うん、ありがとルイン」
「お安い御用だ」
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