第40話 特製カラフルベリーのココラータがけ②

 作るものは決めてあった。

 まず、昨日大量に収穫したカラフルベリーを洗って巨大なボウルの中へと色別に入れておく。

 それから次に、濃茶色のココラータの木の実を割って、中身を別のボウルへと注ぎ込んだ。そこにベリーを投入し、全体に満遍なく液体がつくようにコロコロと転がす。空気に触れるとあっという間に乾いて固くなってしまうので素早く作業することが大切だ。コーティングが済んだココラータは、平皿にどんどん並べていく。これをひたすら繰り返した。

 ココラータの甘い香りがキッチン中に満ち溢れ、ルインがフンフンと鼻を動かしながらキッチン台に足をかけ、赤い瞳で興味深そうに覗き込んできた。


「何を作っているんだ?」

「できてからの、お楽しみ〜」


 アイラは弾む口調でそう言いながらせっせと作業を続けた。

 濃い甘い香りに包まれながら、各色のベリー百個ずつ、合計で四百個のカラフルベリーと、二百個のココラータを割って作り上げたのは……。


「できた! カラフルベリーのココラータがけ!」

「おぉ!」


 アイラがじゃーん! とお皿を両手で指し示して出来上がったばかりのスイーツの紹介をする。

 空気に触れて固まった、艶やかな茶色いココラータを纏ったカラフルベリー。ルインが尻尾をちぎれんばかりに振りながら叫んだ。


「絶対美味いやつ!」

「そう! 絶対美味しいやつ!」


 アイラはルインの皿に赤いカラフルベリーの実を十個ほど置き、自分でも一粒、食べてみた。

 硬いココラータがパキッと割れ、濃厚なココラータの味わいが口いっぱいに広がる。かと思えば、ジューシーなカラフルベリーの酸味と果物の爽やかな甘味が後からきて、それが口の中をさっぱりとさせてくれた。


「〜〜美味しい!!」

「うむ、美味いな!!」


 まさに至福。

 まさに絶品。

 天上の如き美味しさに、「森に潜った甲斐があったー!」とアイラは叫んだ。


「……わあ、本当にココラータもカラフルベリーも料理したんですね」

「あ、エマーベルさん」


 アイラとルインが今しがた出来上がったばかりのスイーツを堪能していると、エマーベル、ノルディッシュ、シェリーの三人が共同キッチンに入ってきた。


「素材換金終わったの?」

「はい。いいお金に変わりました。おかげさまで今日の夕食は、酒場で肉を食べることができましたよ」

「それはよかったねえ。お肉食べないと力でないからね」

「アイラさんはぁ、この大量のカラフルベリー、どうするつもりなんですかぁ?」

「よくぞ聞いてくれました! これはね、バベルで暮らす子供たちにプレゼントするんだ」


 アイラが言うと石匣の手のメンバーのみならず、その場にいた冒険者たちもギョッとした。ノルディッシュが引き攣った声を出す。


「……子供たちに、だと!?」

「うん」

「こんな高級な材料を使って作った菓子を、ですか?」

「そう」

「あのう……さっき、シングス様にはあげないって言ったのにぃ、どうして子供たちにはプレゼントするんですかぁ?」

「あの人たちは自分でも採れるでしょ? でも子供たちはそうはいかないから、あげるの」


 シェリーは全く理解ができないといった面持ちで首を横に捻っている。エマーベル、ノルディッシュにしても同様だ。


「失礼ですが……そのプレゼントに何の意味があるんですか? あまり、得になる様な気はしないのですが……」

「え? だって、子供の時に大人になんかしてもらえたら、嬉しいでしょ?」

「嬉しい、ですか?」

「そう。あたしは子供の時、周りの大人からたまにご褒美もらえると嬉しかったし、やる気が出たからさ。ここの子たちもなかなか苦労してそうだし、たまには美味しいものでももらったら嬉しいんじゃないかなーって」


 アイラは、自慢ではないが、あまり良い幼少期を送っていない。村を魔物に焼き尽くされ、親と一緒に放浪を余儀なくされ、挙句に両親は旅の途中で死んでしまった。

 ただ、その後に出会ったシーカーは、身寄りのないアイラを拾って育ててくれた。旅の最中に美味しいものがあれば教えてくれたし、分けてもくれた。たまに採れる甘い果物、珍しい木の実、街に寄った時に買ってくれた焼き菓子の味などは、幼少期のアイラの胸に刻まれた特別大切な思い出だ。ダストクレストの人々もアイラに面白い料理を教えてくれて、振る舞ってくれた。

「これ食べなよ。子供はいっぱい食べて大きくならないと」と言ってシーカーが差し出してくれた食べ物の数々は空腹にうめいていたアイラにとってとてもありがたいものだったし、「これ俺が作った料理なんだ、食べてくれ!」と言ってダストクレストの住民がこぞって食べさせてくれた料理はどれもアイラの胃袋に染み込んだ。満腹になればそれでおしまいというわけではなく、そうした食べ物たちはアイラの心の奥深くに根付いて、忘れられない大切な思い出の味となっている。


「だからさ、損得とかじゃなくって、あげるんだよ」


 アイラはそう言って、にっと口の端を持ち上げて笑う。

 石匣の手のメンバーを筆頭にその場にいた冒険者たちは呆気に取られた顔をして、後片付けをしてから部屋に引っ込んでいくアイラを見つめていた。

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