第34話 三度ギリワディ大森林へ④
バベルの外を探索するのはいつだって緊張する。魔物はどこにでも潜んでおり、いつ牙を剥くのかわからない。しかも今回は、いつも先に危険がないかを知らせてくれるクルトンがいないので尚更だ。
しかしエマーベルたちの先を行くアイラには、そうした気負いや緊張感と言うものが皆無だった。ルインと連れ立って歩きながら、時々エマーベルたちに質問をしてくる。
「ねーねー、この蝋燭みたいな形のキノコって食べられる?」
「それは毒キノコなので食べられません。即死です」
「そうなんだ……こっちの植物は?」
「それは煮込めば食べられますが、味はあまり美味しくありませんよ。食料が他に何もなくなった時の最終手段です」
「なるほどねー」
しかし彼女の質問内容は食に関することばかりだ。普通、一時的とは言えパーティを組むことになったなら、戦力や役割、魔物と遭遇した時にどう動くかなどを尋ねて確認するものだが、そうした質問は一切されない。
これは、こちらの戦力などはなから当てにしていないということだろうか。我々は、ココラータを見つける以外の役割を期待されていないのか。
そうだとしても無理はない。ジャイアントドラゴンを一人で仕留められる実力者と行動を共にできるのだから、むしろ足手まといにならないよう動くことに注力すべきだろう。
(何としてでもココラータを見つけなければいけませんね……!)
エマーベルが決意を新たに固めていると、ノルディッシュ、シェリーと目があった。彼らも瞳に強い意志を漲らせ、小さく頷いている。きっと心は同じなのだろう。
ジャイアントドラゴンと出会った場所までの道中は、かつてないほどに安全だった。アイラが全て魔法で吹き飛ばしてしまうからだった。彼女は魔物を殺さず、絶妙に追い払う。単純に殺すより難しい芸当だ。おまけに勘が鋭く、エマーベルたちがまだ発見していない魔物をあっさりと見つけ出してしまう。そして威嚇に魔法を放ち、追い払うので、エマーベルたちは本当にいる意味がなかった。
「前にココラータを見たのって、どのへん?」
「この先すぐです」
アイラが片手間にワイドエイプを氷魔法で半分凍らせながら聞いてきたので、エマーベルが慌てて答えた。
ココラータがいた場所を辿るのは非常に簡単だった。
アイラがジャイアントドラゴンをバベルまで引きずって来たため、そこかしこで枝葉が落ち、草が薙ぎ倒され、地面がえぐれていたためである。
向かってくる敵をアイラが倒すわ、道を辿る必要すらないわでここまでのエマーベルたちは全く出番がなかった。これほどまでに快適な探索は初めてだ。ここが世界樹の正反対に位置する過酷な場所であるとは到底思えない。
「あっ、ここです、ここ」
「ここ?」
「はい。間違いありません」
エマーベルは意識を集中させた。
「ここにココラータのいた魔力残りがあります。これを追っていけば……どこにいったのかが、わかるはずです」
言うほど単純な魔法ではない。魔力残りは細く、こま切れで、儚く頼りない。日数が経てば経つほどに跡はおぼろになり、無数の魔物が入り乱れる様な場所では一つの魔力残りを辿るのは、砂漠で砂金を見つけるにも等しい難しさがある。
しかしエマーベルはそれをアイラに告げるつもりはなかった。
自分達は、ココラータを見つける役割によって同行を許してもらったのだ。ならば全身全霊で期待に答えるべきである。
こちらの内心の緊張など全く知らぬアイラは、ヒラヒラと手を振り、「じゃ、よろしく!」と明るく言った。
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