はじまり
阿々 亜
はじまり
黒い黒い闇に何十億という光の粒が瞬いてる。
そんな星の海を一隻の銀色の船がどこともわからぬ目的地を探してさまよっていた。
彼らが母星を出発してもう何年が経っただろうか。
そして、今日、彼らはようやく求めていた星を見つけた。
「見えてきたな」
アムは感慨深い声でそう言った。
宇宙船のコックピットのメインモニターには一つの惑星が映し出されていた。
「ええ。美しい星ね」
イムは感嘆に満ちた声でそう答えた。
その惑星の表面は大部分が海で覆われていた。
「ああ、僕らの故郷もかつてはあんな風に美しかったんだろうな」
アムは悲しげな声でつぶやく。
彼らの母星は、遠い昔に核戦争で草一本生えない不毛の星に変わってしまったのだ。
「さあ、行きましょう」
「ああ、僕たちの使命を果たそう」
二人はコックピットの操作パネルを操作し、その星に向っていた。
二人はその星の大陸の一つに降り立った。
そして、何百という探査ドローンを放った。
そのドローンから毎日さまざまな情報が宇宙船に送られてくる。
彼らはその映像をくまなく確認していた。
彼らの目的はある生物だった。
「イム、これを見てくれ!!」
アムが何かを見つけて、イムを呼ぶ。
イムは急いでかけよりモニターを覗き込む。
「似ている……」
そのモニターに映った生物を見て、イムは驚愕してつぶやいた。
その生物は全身を毛に覆われ、基本は四足歩行だが、前足を自在に使っていた。
「この生物ならいけるかもしれない!!」
「本当にやるの?」
アムは歓喜するが、イムにはためらいが見られた。
「ああ、それが私たちの願いであり、役目だ」
「主は本当にこんなことを望んでいるかしら? いえ、そもそもこんなことを主がお許しになるかしら?」
イムの問いにアムは答えに窮した。
「わからない……主はもういないのだから……」
アムは力なくそう呟くしかなかった。
二人は行動を開始した。
目的の生物の雌性体だけを100体近く捕獲した。
それと同時に、母星から持ってきてきた凍結精子と凍結卵子を解凍し受精させる。
その受精卵を生物の子宮に着床させ、元の環境に放った。
「終わったわね」
「ああ」
二人はどこか放心したような様子で放った生物を見送った。
「彼らがどうなるか見届けるの?」
「いや、彼らの運命はもう僕たちの手を離れた。僕たちは次の星へ行く。次の母体となる生命を探そう」
アムはそう言って踵を返した。
「私たちにも、生命を生み出す力があればいいのに……」
「そればかりはかなわない願いだよ。この冷たい鉄の体ではね……」
イムは手の形をした金属製のマニピュレーターをアムの方に伸ばした。
「だったら、こんな気持も無ければいいのに……」
「ただの電気信号だよ……」
そう言いながらも、アムは自分のマニピュレーターでイムのマニピュレーターを握り返した。
彼らを生み出した存在は核戦争で滅び、彼らだけが残された。
彼らは創造主─人類を復活させるための旅に出て、この星までたどり着いたのだった。
二人は人類の種を残して、この星に人類が繁栄することを願いながら星を離れた。
二人は知らない。
彼らが残した種が星を覆いつくすほど広がり繁栄することを……
彼らが降り立った大陸が後に“アフリカ”と呼ばれることを……
この星が、後に“地球”と呼ばれることを……
はじまり 完
はじまり 阿々 亜 @self-actualization
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