合格証を探します
一瞬だけ目をつむってから、足に地面の感覚を覚えつつ目を開くと、そこはもう森の入り口じゃなかった。
俺は瞬間移動で、木々の茂る森に飛ばされたようだ。
転生してからここに来るのは初めてだけど、『ソーサラー・アウェイク』でプレイした感覚が確かに、この場所がどこであるかを伝えてくれる。
「……ゲームで見た『試験の森』と、まんま同じだな……」
ゲームで5級魔法士の試験を受けた時と、同じスタート地点だ。
ということは、目的地やゴール、道順も大体同じはず。
問題は試験の内容がゲームとほとんど違うところ、ルナとフローレンスと合流できるかどうかというところだな。
下手をすれば、俺ひとりで試験を受ける可能性もある。
「お兄様!」
しかし、それは
鳥のさえずりすら聞こえない静かな木々の間から、ルナが駆けてきたからだ。
「無事か、ルナ? 途中でモンスターに襲われてないか?」
「ご心配には及びません! モンスターとは遭遇していませんし、仮に遭遇していたとしても、けだもの如きに後れを取るルナ・オーンスタインでは……はっ」
ルナは自分の強さを力説してくれていたが、ふと何かに気付いたような顔を見せる。
「……ひ、ひとりの時間が長く、不安でした……お兄様!」
それから、急にちょっぴり不安げな表情を見せて、俺の胸に飛び込んできた。
俺には何となくわかるよ、ルナが強がっていたんだってな。
オーンスタイン家の才女としてずっと気を張っていたと思うし、誰もいないところならこうして、不安を
試験中に弱みを見せるなと言うなら、そこは俺がしっかりカバーするさ。
「安心しろ、俺がいるからもう大丈夫だ」
「お兄様……私、とっても幸せです……!」
頭を優しく撫でてやると、ルナのとろけた声が胸元から聞こえた。
よほど寂しかったのか、俺の背中に手を回してくる。
本当ならルナが落ち着くまでこうしてやりたいんだが、同じパーティーメンバーのフローレンスが見つかっていない以上、ずっとここに立っているわけにもいかない。
「ところで、フローレンスの姿が見えないな。まさか、あの子だけ遠くに飛ばされたか?」
俺が辺りを見回すと、ルナが顔を上げた。
「それはとても残念ですねー、わざわざ探すのも大変ですねー、仕方ありませんからお兄様と私だけで試験を攻略しましょうー」
なんだろう、めちゃくちゃ棒読みな上に不満げな表情に見えるのは、俺の気のせいか。
まるで、俺との二人きりの時間を邪魔されたくないかのようだ。
……いやいや、品行方正なルナに限って、あり得ないよな、そんなのは。
「――リオン君! ルナちゃーん!」
そうしているうち、森の奥からフローレンスの声が聞こえてきた。
「声が聞こえたな。近くにいるみたいだ」
「そうですかー、私には聞こえませんねー、
ルナは幻聴だと言ってきかないが、俺の耳は節穴じゃない。
妹を優しく離してやると、今度はもっと近いところから声が聞こえる。
「ふたりともーっ! こーこーだーよーっ!」
ほんの数秒も経たないうちに、フローレンスが草木の間から飛び出してきた。
彼女もルナ同様、ケガもなければ何かに襲われた様子もないみたいだ。
「フローレンス!」
「チッ」
どこかから舌打ちが聞こえた気がするけど、それこそ幻聴だな。
「ケガはないみたいだな。よかった、てっきり君だけ遠くに行ったかと思ったよ」
「ふたりも無事で安心したよーっ! ケガをしたらいつでも言ってね、私、防御魔法と同じくらい回復魔法が得意だから!」
「ああ、頼らせてもらうよ」
なるべくなら魔法の回復に頼らないまま試験をパスできればいいんだが、ヒーラー兼ブロッカーがいるのといないのとじゃ、安心感が段違いだな。
この3人が揃って初めて試験開始、って気分だ。
「ところで、ここってどこだろ? 『試験の森』の中なのは分かるけど、どこも木が伸び放題で、右も左も分かんないよ~っ!」
さて、フローレンスの心配は、地図も目印もない状況だ。
これに関しては、俺もマップを完全に暗記しているわけじゃないし、ゲーム内で移動するのと実際に歩くのとじゃ勝手が違う。
――ま、自分で言うのもなんだが、俺がいればそこら辺は問題ないさ。
「その点は、俺に任せてくれ。行くべきところは分かってるよ」
「ですがお兄様、アイテムは
「分かってるって言ったろ? 安心しろ、地図よりも便利なものを持ってるからさ」
眼帯で隠した左目に、魔力を集中させる。
右目を閉じ、左目をゆっくりと眼帯の内側で開くと、俺の目が青く光った。
「『
そして、視界が白と黒だけに変わった。
正確に言うと、真っ黒に塗りつぶされて、輪郭だけが白くはっきりと見える空間。
ルナもフローレンスも、木々も地面も真っ黒だけど、白いラインで形が形成されているので、どこに誰がいるかはっきりとわかる。
しかもそれだけじゃない――目そのものにズーム機能が付いたかの如く遠くまではっきりとものが見えるし、魔力だけは金色に輝いて映るんだ。
俺の仲間の心臓あたりに光る球体が、魔力の証。
当然、同じ受験者達がうろついているのも見えている。
――いろんなところに隠されている、合格証の
(魔力限定の探知能力だけあって、遠くまで見える。さっきのダリーヴィー準3級魔法士の場所も、合格証の場所もよく分かるな)
魔法で隠したものを探すのに、魔力を探知できるこの目以上にうってつけの力はない。
しっかりと合格証の場所を覚えてから、俺は能力を解除して頷いた。
「よし、合格証の場所はおおまか把握できた。まずは3人分、さっさと集めよう」
「ええーっ!? もうアイテムがどこにあるか分かったの!?」
「さすがお兄様……私の想像の遥か先を行かれるのですね……!」
主人公&妹に褒められると、流石の俺でもちょっぴり顔がにやけてしまう。
「おいおい、褒めたってなにも出ないぞ――」
それを誤魔化すように、頭を掻いた時だった。
「おんぎゃあああああっ!?」
男の悲鳴が、森の奥から聞こえてきた。
明るい雰囲気から一転、俺達の間に緊張が
誰が、何に遭遇してあんな声を上げたのか、想像に
「……どうやら、モンスターのお出ましらしいな」
俺のつぶやきとともに、遠くの草木が揺れた。
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