魔法士試験当日です
ルナとの訓練からさらに2日後、フローレンスを加えた俺達は、ヴァンティスの街を少し離れた、とある森の前に集まっていた。
もちろん、森林浴とかバードウォッチングとかが目的じゃない。
試験の応募の際に、当日の朝にここに集まるように指示されてたからだ。
そして俺は、ここがどこかを知っている――『ソーサラー・アウェイク』最初の大イベント、5級魔法士の資格試験が始まる『試験の森』。
自然に存在する森じゃなく、魔法士が管理する森だ。
「『試験の森』……まさかもう一度、ここに来るとは思わなかったよ」
思わず
「お兄様、森に来たことがあるのですか?」
「ああ、いや、こっちの話だ」
話を逸らす俺の隣で、フローレンスは目を輝かせている。
「すごいすごい、すっごーいっ! 魔法士になりたい人が、あたし達以外にこんなにいるなんて! つまり、みーんな同じ夢を持ってるライバルってことだよね!」
試験を受けに来た未来の魔法士が、俺達のまわりにたくさん集まっている。
強面の男からひょろりとした女性まで、老若男女、多種多様。
「どう見ても20人はいるな。で、試験に受かるのは……」
「この中の1割、もしくはゼロじゃよ」
辺りを見回す俺のつぶやきを遮ったのは、しゃがれた声だった。
ルナでも、フローレンスでもない声を聞いた俺が振り返ると、いつの間にか杖をついた老人が立っていた。
たくわえた白いひげと深い青色のローブは、いかにも魔法使いのそれだ。
「あなたは……?」
俺が問うと、老人はふぉっふぉ、と笑った。
「初めまして。わしは5級魔法士の資格試験の試験官を務める、ダリーヴィー準3級魔法士じゃ。今日は君達に、試験内容を伝えに来たんじゃよ」
ダリーヴィー、とやらが自己紹介をすると、受験者達がざわついた。
「じゅ、準3級魔法士……」
「魔法の達人だぜ……!」
この反応を見るに、準3級というのは相当なエリートみたいだ。
ルナも驚いているから間違いないんだろうけど、ゲームの中じゃあ見たことがないキャラクターだから、俺の中じゃいまいち凄さが伝わらない。
もしかすると、帝都の魔法士モブの中に混じってたのかもしれないな。
「では、早速今回の試験内容を伝えるとするかのう」
なんて思っているうち、ダリーヴィーが話し始めた。
「君達には、『試験の森』に隠してある『
参加者20人超に対して、たった5人。
とんでもなく少なく聞こえるが、2割が合格できると考えれば、ルナが話していた試験よりはずっと
「5人か……俺とルナ、フローレンスを除けば、2人しか枠がないわけだな」
「私達が独占すれば、奪い合いになる可能性もありますね。その時はお兄様と私だけで逃げて、あの女狐には生贄になってもらうとしましょう」
「意地悪を言ってやるなよ、ルナ」
俺がルナの肩を軽く小突いている間にも、話は続く。
「ただし、森にはテイムされたモンスターが放たれておる。お主ら受験者を見つければ、容赦なく襲うように指示されてるんじゃ。油断しても死にはしないじゃろうが……診療所からはしばらく出られんのぅ」
ダリーヴィーの説明で、受験者達の間に不安の声が飛び交った。
「も、モンスター!?」
「どんなのがいるんですか、数は……」
「それを教えてしまっては、試験にならんじゃろうが」
ダリーヴィーの声が、少しだけ鋭くなった。
「魔法士になれば、冒険者や研究者について回る仕事を頼み込まれるし、命がけの仕事を任されることもある。その覚悟がないのなら、試験をここで降りるべきじゃのう」
まあ、彼の言い分は正論だ。
魔法士は資格を取ってから、ただ部屋にこもって魔法の研究を続けていればいいわけじゃないし、そんなのは大前提である。
モンスターを討伐したり、帝都で講義を開いたりといった行動で帝国に
ま、つまりは簡単にお金を稼げる手段なんかじゃないってこと。
「はいはいはーい! あたし、冒険大好きでーすっ!」
そう考えれば、純粋に憧れだけで魔法士を目指して、1級になるまでの活動が苦にならないフローレンスなんかは、適性があると言ってもいいかもしれない。
金色の髪を揺らして跳ねる彼女を見るダリーヴィーも、どこか楽しそうだ。
「……ほう、面白い子じゃのう」
「
ルナはこう言うけど、俺もフローレンスの元気さは見習いたいくらいだよ。
「そうか? 俺はあれくらい元気な子が、けっこう好きだぞ」
「私、冒険大好きですっ! よろしくお願いしますっ!」
「ほっほっほ。やる気があるのは嬉しいが、空回りせんようにのぅ」
ルナが仁王立ちして彼女らしくないセリフを叫ぶと、ダリーヴィーが笑った。
「ついでに言っておくが、合格証は魔法で隠されておるから、やみくもに探したところで
受験者の皆がつばを飲み込む音が聞こえる。
ダリーヴィーとしてはちょっとした脅しのつもりだろうけど、そんなのじゃ俺もルナも、フローレンスも動じないな。
「宝さがしにモンスター退治……なんだかワクワクするね!」
「呑気なものですね。調子に乗って、モンスターに食われて手足が欠けても知りませんよ」
「そうならないように、俺が守るさ」
「ありがと、リオン君っ♪」
「お兄様!?」
素っ頓狂な声とともに跳び上がるルナを尻目に、ダリーヴィーが杖で地面を叩いた。
「さてと、そろそろ試験を始めるとするかの。先に説明しておくとじゃの、わしの合図でこの場にいる全員が森の中のいずこかに、魔法で送られるようになっておるんじゃ」
「「……え?」」
ほぼ同時に、その場にいる全員の目が点になった。
「ああ、そんな決まりもあったかな」
俺だけは、思い出に浸ってたけど。
「呆けておる暇はないぞい――試験、開始じゃ!」
勢いよくダリーヴィーが杖で地面を叩くと、俺の視界が急に歪んだ。
いや、俺だけじゃなく全員が――ふわりと浮いている。
「「うわああああああっ!?」」
悲鳴が上がるのと、ふっと内臓が浮く感覚が襲ってくるのは同時だった。
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