第六話【ゴーレムは老けない】

「いったいこれは……何があったんだろうねぇ……」


 ファレーズの領主フランシアが消滅したディオンヌを見て言った。

 ここには村があったはずなのに、巨大な穴だけが草原に空いている。

 本当に巨大な穴だ。向かい先が霞んで見えないほど広い。

 近くの土や草も焼け焦げた跡があり、とんでもない爆発がここであったことが窺えた。


「フランシア様。これは魔法の類でしょうか?」


 調査のために同行させた騎士が怪訝な顔で問うてくる。

 無論、こんなところで爆発が起こせるのは魔法に決まっているが、それにしたって威力が桁違いだ。


 村一つを消し飛ばすほどの魔法なんて聞いたことがない。

 少なくとも人間が出せる魔法の威力ではない。

 ではなんだ? と聞かれれば、考えられるのは一つしかない。

 

「魔法の類だねぇ。周りも焦げてるし炎魔法……【エクスプロード】かもしれないね」


「しかし……こんな威力の【エクスプロード】なんで聞いたことありません」


「私も72年生きてるけど見たこともないよ。こんな馬鹿げた威力の魔法は。人間の仕業じゃないかもしれないねぇ……」


「人間の仕業じゃない? ではいったい?」


「精霊の仕業かもしれないよ」


 騎士の目が点になった。


「せ、精霊……? あのおとぎ話によく出てくる?」


「おや? 信じてないね? 王国の古文書に精霊の存在が記されているんだよ?」


「はぁ……」


「まぁ誰も見たことがないから信じられないのは仕方ないけどねぇ……」


「誰も見たことがないのに、どうして記されてるんです?」


「さぁ……その人には視えたのかもしれないよ? 精霊は人間の敵(かな)う相手じゃないらしいのよ。圧倒的な力を持ってるから怒らせたら大変だって」


「圧倒的な力……だから精霊の仕業と?」


「おかしいかい? この威力を見たら、そう考えざるを得ないと思うよ」


「……確かに」


 騎士も納得したらしく、改めて大穴を見つめた。

 するともう一人の騎士が周囲の索敵を終わらせて戻ってきた。


「フランシア様。やはり誰もいません」


「ご苦労さま。……これ以上ここに居てもしょうがないね。ファレーズに戻ろうか」


「はっ! この一件は王国へは?」


「使者を出して報告を。何人亡くなったか分からない大事件だからね。なるたけ急いで」


「はっ!」


 敬礼した騎士は一足先に馬へ跨り駆けて行った。

 残った片割れの騎士も馬車馬に跨りフランシアを待つ。

 当のフランシアは高齢で足腰が弱く馬車へ乗り込むのも一苦労だが、魔法使いの特権であるゴーレムがフランシアを補佐してくれた。


 ゴーレムのおかげで馬車に乗り込めたフランシアは座席に座り、その隣にゴーレムも座った。


 そのゴーレムはフランシアが初めて召喚した十五歳時の姿のままであり、主より若く美しい姿を保っていた。

 主は老いていくが、ゴーレムが老いることはないのだ。

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