第五話【フェアリーは一般兵士】

「あんたって強いのね。びっくりしたわ」


 借家に戻ったリズは椅子に座ってそう切り出した。

 イルセラのゴーレムを一発で倒してしまったフェアリーの実力には正直言って感服した。


 なにより村人や建物に被害を出さないようにしてたのは好感さえ抱ける。

 しかし当のフェアリーは苦笑していた。


「私が強いというよりはこのゴーレムの身体が強いだけですよ」


「そんなに凄いの? その身体」


「ええ。凄く頑丈ですし、力も凄まじいです。【星剣】や【流星】が使えないハンデも気にならないくらいですね」


「ふ〜ん……」


 その【星剣】と【流星】とやらがどんなのか知らないからなんとも言えないが、リズのゴーレムはかなり高性能らしい。

 

「それよりリズさんこそ体調は大丈夫なんですか? さっきよりは顔色が良くなりましたが……」


「ああ……うん。ありがとう。大丈夫よ」


「なら良かったです。これから星樹へ戻るために精霊さま方を探さなければいけませんからね」


 ……やっぱりアタシもついて行くことにされてる。

 いや、それよりも。


「精霊さま方って?」


「この世界を浄化する四大精霊さまです。【火の精霊サラマンダー様】と【水の精霊ウンディーネ様】【風の精霊シルフ様】そして【土の精霊ノーム様】がいらっしゃいます」


「な……なにそれ? 聞いた事ないんだけど……」


「それはそうです。精霊さま方は人間には視えません。私だって本来なら視えないはずなんです。リズさんはなぜ我々の姿を目視できるんですか?」


「そんなのこっちが聞きたいわよ……」


「そうですか。しかしおかげで私は助かりました。正直あのまま消えるしかなかったですからね。リズさんがいなかったら」


「そうね……でも、その、精霊? サラマンダーとかウンディーネとか、本当に存在するの?」


「しますよ。星樹さまが世界と生命を創り、四大精霊さま方が水・火・風・土らを常に浄化しています。四大精霊さま方がいなかったら世界はすぐに汚れてしまいますからね。そうなると生物たちが生きられなくなりますから」


 なんか……凄い話を聞かされてる気がする。

 妖精とか精霊とか星樹とか。

 星樹が世界と生命を創ってる?

 どういうこと? 理解が追いつかない。


「難しいですか?」


「難しい……というか理解が追いつかなくて。この世界はその星樹と四大精霊に支えられてるってこと?」


「ええ。それで大丈夫です。星樹さまが世界と生命を創り、我々フェアリーがその星樹を守護する。そして創られた世界は四大精霊さま方が常に整えてくださっている。そう理解して頂ければ幸いです」


「……ちょっと待って? 星樹が世界と生命を創ってるってことは牛や馬や豚とかも?」


「そうですね」


「に、人間も?」


「人間は……ちょっと違いますね」


「え?」


「人間は星樹さまの意図してない存在でして、海から突然生まれてきたんです。これには星樹さまもビックリしてました。他の世界でも人間なんて生物は生まれたことがなかったからです」


 他の世界?

 他に世界があるってこと?

 壮大すぎてついてけないわ。


「人間が生まれたのは今から25万年前……ん? 30万年前だったかな……あれ? 40万年前? ……すみません。昔の話なので忘れました。たぶん35万年前くらいです」


「そんなに前なら忘れるわよね……。っていうかあんた何歳なの?」


 人間が生まれた時からいるわけだから、少なくともリズなんか比較にならないくらいの年齢のはず。


「ん〜……私は星樹さまがこの世界を創った時に生まれた最初期の妖精です。つまり第一世代ですから少なくとも70万年歳かと……」


「すっごいババァじゃん」


「バ…………あのですねリズさん? そもそも妖精には年齢なんていう概念はないんですよ。性別と同じで。人間と同じにしないでください」


 フェアリーが不機嫌になっている。

 年齢の事で不機嫌になるのはやはり女の子みたいだ。

 

「人間と同じにしないでって言うけど、人間の言葉を喋ってるじゃない。魔法の事だって知ってたし」


「違いますよリズさん。人間が我々の言葉を喋ってるんです」


「え!?」


「人間に言葉を教えたのは我々ですから」


「なにそれ矛盾してない? 人間には妖精とかの姿は視えないんでしょう?」


「星樹さまの加護があれば話は別です」


「加護?」


「昔、生まれてきた人間を調べるために一人のフェアリーが下界へ派遣されました。星樹の加護で下界にしばらく滞在したんです。その妖精の名前は【ステラ様】。星樹さまに唯一名前を与えられた私の部隊の隊長でもあります」


 部隊の隊長?

 フェアリーって軍に所属してるの?

 戦列とか言ってたし、星樹には妖精の軍隊があるのかも。


「ステラ様が人間を調べ、かなりの知性があることが解り、言葉を教えたそうです」


「そうなんだ……だからあんた言葉ペラペラだったのね」


「それは私のセリフなんですよ。リズさん」


「あ、そっか……」


 不思議だ。

 こんなにも現実味のない話をされてるのに酷く冷静な自分がいる。


「そういえばそのステラって妖精がフェアリーの隊長って言ってたけどさ。フェアリーは軍に所属してるの?」


「はい。所属してます。フェアリーはたくさんいますからね。部隊もたくさんあるんですよ。私は数いるフェアリーの一人に過ぎませんから」


「つまりたくさんいる一般兵士みたいな感じ?」


「そうですね」


「でもフェアリー強かったじゃん」


「ですから……私が強いのではなくてリズさんのゴーレムが強かっただけですよ」


「でも敵のゴーレムの攻撃を簡単に捌いてたじゃない。あんなの素人じゃ反応できないし無理よ」


「あれくらいフェアリーならみんな出来ますよ?」


「……じゃあ妖精ってみんなフェアリーくらい強いってこと?」


「みんな同じです」


「そ、そうなんだ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る