第四話【対イルセラゴーレム戦】

 なんでイルセラが一時間後を指定してきたのか分かった。

 村の人達を集めて観戦させるためだったようだ。

 ファレーズの中央広場は村の人々が大勢集まっており、一種のお祭り騒ぎになっている。


 もともと娯楽の少ない田舎村ではこういうイベントごとはみんな大好きだ。

 もちろんリズとて例外ではなかったが、それは少し前の話。


 どうしよう……なんか凄いことになってる。

 いくらゴーレムの強さをお披露目したいからってこんなに集めなくたって……


 周りの村人たちは今か今かと口々にざわめいている。

 とても楽しそうに談笑を混じえながら待っている。


「あの子が昨日保護されたって子か?」

「あら〜メンコイ子ね〜」

「ディオンヌの魔法使いみたいよ」

「ゴーレムにメイド服着せてるぞ……」

「あ、あの子なら家に来たわよ? 黒と白のドレスっぽい服をくださいって」


 そんな村人たちの談笑を耳にしながらリズはフェアリーの方を見た。

 彼女はどこか険しい顔をして手に力を込めているみたいだが。


「フェアリー? どうしたの?」


「……【星剣】と【流星】が使えなくなってますね」


 そう言葉を発したフェアリーに、周りの村人たちが驚く。


「おい喋ったぞあのゴーレム」

「最近のゴーレムは喋るのね」

「凄いわね」


 みんなイルセラほど大袈裟に驚きはせず関心する程度だった。変な騒ぎにならなくて良かったと内心で安堵しつつ、リズはフェアリーに【星剣】と【流星】のことを聞く。


「【星剣】と【流星】ってなに?」


「我々妖精の剣と魔法です。【星剣】は二本の光の剣。【流星】はその剣から発する光線みたいなものです。私たち妖精はこれらを駆使してリーパーどもと戦いますから」


 どうやら妖精の標準装備らしい。


「そうなんだ。それがないのに勝負を受けちゃって大丈夫だったの?」


「大丈夫です。このゴーレムの身体は凄い力を感じます。魔力に満ち溢れてますよ。リズさん凄い魔力を持ってるんですね」


「そ、そう……」


 凄い魔力……

 嘘でしょ……

 アタシに凄い魔力が?

 

 じゃあやっぱりディオンヌが消えたのって、その凄い魔力を持ったアタシが【エクスプロード】を唱えてしまったから?

 やっぱりアタシが……お父さんお母さんを、ラッドを、村のみんなを、殺してしまった……


 目を背けたい現実が鮮明になってきて、身の毛もよだつ悪寒に襲われ、全身が震えるのを感じた。

 可能性が確定へと浮き彫りになってきて、逃げ場のない罪の意識がリズを蝕んでいく。


 やっぱり……フェアリーに憑依されて死ぬべきだったんだ……アタシ……


 アタシは……生きてちゃいけないんだ……


 もう幸せも何も……願っちゃいけない……


「リズさん? 大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」


 フェアリーが不意に顔を覗き込んできた。

 正直まったく大丈夫ではなかったが「大丈夫」と言ってしまった。


「……すぐに終わらせますから、待っててくださいね」


 フェアリーにもリズが大丈夫じゃないのがわかったらしく、優しい声音でそう言ってきた。

 

「おまたせ」


 やっと現れたイルセラは、土色のイルセラを連れていた。

 彼女のゴーレムだ。

 二本の剣を持っている。

 フェアリーは丸腰なのに。


「逃げずにちゃあんと来たわね」


「当然です。さぁ、早く始めましょう」


「あら、やる気満々ね。ワタシのゴーレムに勝てると思ってるの? 喋れるだけじゃ勝てないわよ?」


「早くしてもらっていいですか?」


 フェアリーに急かされ、イルセラはバツの悪そうな顔をしながら「行きなさい! ゴーレム! 手加減は無用よ! 本気でやりなさい!」と叫んだ。


 指示を受けたゴーレムがドンと石畳を踏み込むと、地面が爆ぜて一気に加速した。

 その速さは別格で、リズや村人たちには見えない速度だった。


 ゴーレムの攻撃は速度を利用した剣による突き。

 フェアリーの顔を狙った研ぎ澄まされた一撃。

 誰もがゴーレムの攻撃に反応できずにいる中、

 フェアリーは「遅い」と短く告げ、その突きを受け流す。

 そして次の瞬間、フェアリーの拳がゴーレムの腹部に叩き込まれ、ゴーレムは勢いよく吹き飛んだ。


 何本のもの木を薙ぎ倒しながら吹っ飛び、勢いが収まった時にはゴーレムは動かなくなっていた。


「リーパーに比べたら鈍足が過ぎますね。相手になりません」


 余裕の表情でフェアリーが言った。

 あまりに一瞬の出来事だったため、周囲の人間たちはイルセラを含めて呆然としていた。

 またリズもフェアリーの圧倒的な強さに驚愕していた。 


 つ、強い……一発で倒しちゃった。

 しかもあんな速い攻撃を簡単に避けてた。

 アタシまったく見えなかったのに。


「え……え? ワタシのゴーレムが……一瞬で……」


 イルセラが信じられないと言った感じに震えた声を出す。

 そんな彼女の前にフェアリーが立った。


「さぁ約束ですよ。リズさんに許可を出してもらいます。問題ありませんね?」


「な、何なのよアンタ! アンタも戦闘用ゴーレムなの!?」


「そんなことはどうでいいです。リズさんに許可を早く出してください。私も急いでるんです」


「は……はぃ……す、すぐにお婆ちゃんに言うから……自宅で、待ってて……」


「わかりました。早くしてくださいね」


 念を押したフェアリーはリズの元へ戻ってきた。


「大丈夫ですかリズさん? いったん戻って休みましょう。顔色が悪いですからね」


「ぁ……うん。ありがとう……」


 リズはそう返しながら、ゴーレムが吹っ飛んでいった方角を見た。

 フェアリーはちゃんと建物や村人がいない方向へゴーレムを吹き飛ばしていた。 

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