第三話【フェアリー】

「それよりアンタ……ワタシのゴーレムとそのゴーレムで勝負してみない?」


「え!?」


 イルセラの発言に耳を疑うリズ。

 いきなり何この人?

 

「ワタシのゴーレムは強いのよ? その辺のお手伝いゴーレムとは違って戦闘に特化してるから。ふふふ、ワタシのゴーレムの強さお披露目したかったのよねぇ〜」


 そういえばゴーレムって主に教えられたことをある程度は学習してくれるんだっけ?

 それでこの人は戦闘寄りに学習させたんだ。


 というかなんで勝負しなくちゃならないんだろう?

 お披露目が目的で勝負だなんて冗談じゃない。

 少なくとも今は勘弁してほしい。


「いえ、あの……アタシそういうのはちょっと……」


「いいじゃない別に。減るもんじゃないんだから。ただでさえ退屈な田舎生活よ。これくらいの娯楽はあってもいいと思うのよ」


 退屈な田舎生活……元々は都会人だったのだろうか?

 そう言われてみるとイルセラの格好はかなり都会に住む者の身なりに見えた。


 田舎に似合わぬパープルのドレスとフサフサの帽子。それらはどれも高級そうで、さらにイルセラ自身も凄まじい美貌とスタイルを誇っている。

 もしかして都会で合格してここの領地を任されたのかもしれない。次期領主として。


「あ! ちょっと! 待ちなさい!」


 イルセラが勝手にどこかへ行こうとするフェアリーを呼び止めた。フェアリーは足を止めて振り向く。

 

「申し訳ありませんが急ぎの身なので失礼します」


「失礼しますじゃな………………え?」


 イルセラが凍ったように止まった。

 どうしたんだろう?

 

「ゴーレムが喋ったああぁあ!?」


 大袈裟に仰け反ったイルセラ。

 フェアリーはキョトンとしていて、リズはリズで今更ながら(そういえばゴーレムって普通は喋らないんだ)っと思い出した。


「ど、どうなってんのよアンタのゴーレムは!?」


「え? え〜と……フェアリーっていう妖精が憑依してまして……」


「は? フェアリー? 妖精? なに言ってんのアンタ?」


 本当の事を言ったのに信じてもらえない。

 予想はしてたけど。


「……では、先を急ぎますので」


 またも前進を開始したフェアリーにイルセラが叫ぶ。


「ちょっと! どこ行くのよ! アンタあれ止めなくていいの!? 勝手に動きすぎだわ! ちゃんと指示しなさいよ!」


「いえ、あの子、なにか行きたい場所があるみたいなんで、別に無理に止めなくても……」


「なによそれ? あのゴーレム自我があるの? だとしたらアンタから離れたらマズイわよ? ゴーレムは主から離れすぎると魔力の供給が出来なくなって消えてしまうわ」


「え!? ちょ! フェアリー! 待って! 止まって! フェアリー!」


「え、なんです? まだ何か?」


 リズに引き止められたフェアリーが怪訝な顔をする。


「フェアリー。あんたアタシから離れ過ぎるとそのゴーレムの身体が消えてしまうみたいなの」


「ええ!? じゃあリズさんもついてきてください」


 なんて理解と切り替えの早い奴だ。


「な、なんでアタシが……」


「あなたから離れるとこの身体は消えてしまうんですよね? ならついてきてもらうしかないじゃないですか」


「それは、そうだけど……」


 なんでアタシがこんな得体の知れない生き物についていかなきゃいけないの……

 こんなにまいってるのに……正直、放っておいてほしいくらいなのに。


「あら? この村を出て行きたいなら許可が必要よ?」


 割って入って来たのはイルセラだった。


「リズ……だったわね? アンタ今ファレーズに保護されてる事になってるから、ファレーズの名簿に名前書かれてるわよ? この村から出て行くならワタシかお婆ちゃんの許可を得ないとダメよ?」


「……てことは」 

 

「ふふん……ワタシのゴーレムに勝てたら許可してあげるわ」


 やっぱり……

 そうまでしてゴーレムを戦わせたいの?

 いくら退屈だからって……


「なるほど。あなたのゴーレムに勝てばリズさんを連れてっていいということですね?」


「え!? あ、ええ! そうよ!」


 リズではなくフェアリーに答えられて驚くイルセラ。

 当然だがゴーレムに話しかけられるという事にまだ慣れていない様子だ。


「ではその勝負、受けて立ちましょう」


「ちょっ!」


「んふ、言ったわね。勝負する場所はファレーズの中央広場よ。みんなにワタシのゴーレムの強さをお披露目するにはもってこいだわ。一時間後に来なさい。逃げたら許さないわよ」


「当然です」


 キッパリ返したフェアリーに、イルセラも不敵な笑み浮かべながら去っていった。

 まったく面倒な事になってしまった。


「ちょっとフェアリー! あんたあんなこと言って大丈夫なの? 勝てるの? っていうかアタシはまだ行くなんて一言も言ってないでしょう!」


「ついてきて貰わなきゃ困ります。星樹がリーパーにやられて枯れれば世界も枯れてしまうんですよ」


「世界が枯れる? なによそれ……壮大すぎてついて行けないわ」


「……まぁ、今は目先の問題を解決しましょう。お願いがあるのですがいいですか?」


「な、なによ?」


「この無駄に長い髪の毛を切ってもらっていいですか? この触手みたいなの」


 触手?

 まさかツインテールのことを言っている?

 人のオシャレに失礼な。


「別にいいけど、邪魔なの?」


「はい。戦う時にこれは邪魔です」


「……まぁ、たしかに」


「あとこの服も変えて頂けませんか?」


 フェアリーの格好はリズと同じ母お手製の赤いローブだ。

 ゴーレムを召喚する時、そのゴーレムは主と同じ格好で出てくる。

 その服は脱ぐと消えてしまうので、使い回しはできない。


「やっぱり動きやすいのがいいの?」


「いえ、それより黒と白の服はありませんか?」


「黒と白? なんで?」


「その方が落ち着くんです。この赤い服はどうにも落ち着きません……」


 なんだそれ……

 あ、でもコイツの妖精の時の姿って確か黒い身体で白いドレスを着てたわね。

 なるほどそういうことか。

 元の姿に似てるから落ち着くのか。


「ちょっと待ってて。空き家に何かないか見てくる」


「お願いします」


 空き家を調べると台所に包丁があって、それでフェアリーに髪を切らせた。

 割と丁寧に切っていて、前髪もしっかり切り揃えていた。

 実はオシャレには気を使うタイプなのだろうか?


「……フェアリーって女の子なの?」


「え?」


「声も女の子っぽいし」


「いえ、妖精に性別なんてないですよ?」


「そうなんだ……」


 性別はないのか。

 でもコイツはたぶん女の子寄りな気がする。

 なにせ注文してきた服装がこれだ。


「黒と白のドレスっぽいものが良いです」


 なんだそれは。

 そんなもの空き家にあるわけもなく、リズはファレーズを駆けずり回るハメになった。

 あちこちで『黒と白のドレスっぽい物ありませんか?』と聞いて回った。


 なんでアタシはこんなことをしているのだろうと思いつつ、ようやく貰えた黒と白のドレスっぽい物。


 それはメイド服だった。


「……どう?」


「おお! これは良いですね! ヒラヒラで黒と白があって、とても落ち着きます!」


 どうやら気に入ってくれたみたいだ。


「そう……なら良かったわ。はぁ疲れた……」


「ありがとうございますリズさん。リズさんって凄く優しいんですね」


「……知らない。それより気に入ったのはいいけど、その格好じゃ動きにくいんじゃない?」


「大丈夫です。慣れてますから。大事なのは動きやすさより落ち着くか落ち着かないかですよ」


「……」


 さっきツインテールが邪魔だからと言って切り落とした奴の言葉とは思えなかった。

 でも疲れてたので突っ込まなかった。

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