はじまりの物語
木曜日御前
これが、僕のはじまりだ
「スタート切りたいんだけどなあ」
小説投稿サイトの新規作品投稿画面を、見ながら僕は頭を抱えた。
処女作にして傑作な本文は、しっかりと書ききった。下書きとして投稿設定も最終話まで終わっており、一話目の下書きを公開へと変更するだけだ。
総文字数は約十八万字、僕にとっては大作だ。
タイトルも勿論決めた。『はじまりの物語』。
長いタイトルや、伏線等凝ったタイトルが人気の中で、さっぱりとシンプルなタイトルは目が引くと思ったからだ。
ジャンルは、やはり人気の異世界ファンタジー。タグだって、「異世界転移」「悪役転生」「もふもふ」「マッチョ」「男の娘」「追放」「ざまあ」「スローライフ」を連ねた。どれもこれも人気な要素だ。
キャッチコピーも決めた。
「最強で最凶、そして、最嬌の勇者、ここに爆誕!」
なんとゴロがいいキャッチフレーズ。脳内でなるリズムがいいのと、謎の単語があるのが頭に残りやすい。いいぞいいぞ。
しかし、そんな調子よくしていた僕の前に、突如として大きな壁が出現したのだ。
『あらすじ』だ。
この十八万文字を入力する欄。言わば、小説の自己紹介文、ここで誤れば誰も見てくれない作品になってしまう。二千文字ほどで書かないといけないのだが、最初から頭を抱えてしまう。
「最嬌の意味が、異世界転移した勇者が筋肉マッチョなオカマでドラァグクイーンという出オチがバレてしまうじゃないか!」
そう、この小説は出オチが一番インパクトがあるのである。しかし、あらすじにこの部分を省いたら、他の小説との差異が出てこずに、凡作として埋もれてしまう。
筋肉ムキムキ、身長は二メートル超え、美しきケツ顎ドラァグクイーンが異世界転移。また、異世界転生したのに、王位継承権による内部紛争から命を守るために女装を強いられた悪役の王子様がタッグを組み、すべての悪の根源である、もふもふハムスター神獣の正体である第666宇宙から侵略してきた宇宙人を倒すってのが見所なのに!
「ああ、どれも書いたらネタバレじゃないか! とりあえず、寧ろ省いて書いて……駄目だ。こんなんじゃ、この小説良さが出てこない。主人公のケツアゴカチワレーヌこと菅野健三郎の良さが出てない!!」
頭を捻りながら、とりあえず、ケツアゴカチワレーヌが勇者となる聖剣のくだりを、端的に書いてみる。
「だめだ!! 台座に刺さった聖剣は実は偽物で、ケツアゴカチワレーヌの力の源である、ひげの毛を一本一本減らしていた下りがバレてしまう! そして、本当の
ぐしゃりぐしゃりと髪を掻き乱し、血走った目で天井を見上げる。
「しかも、ハムスター神獣についても書けないし、悪役として最初対峙する悪役王子の
最強の武器である七色に光るスライハルコンの斧になる下りも! 出せない!!」
あああああああ、っと全てを音でつんざくような唸るような叫び。しかし、もう時間はない。ここで出さないと、予約投稿時間に間に合わない。夢で、ケツアゴカチワレーヌが指定した時間に間に合わない。あと、一分しかない。
仕方ないもう、あらすじはシンプルに行こう。
僕は、震える指であらすじに文字を打ち込んだ。これが、僕のはじまりの物語だ。
『読めばわかる』
はじまりの物語 木曜日御前 @narehatedeath888
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