第16話  神々の遊び


 「フローリアッ…………くそ。増援はまだかッ…………。

竜が出せるものはいないのかッ…………?!」


「公爵様。貴方様ほど完全体の〝竜〟をだせる民間人はおりません。

戦地の猛者ほどの強者は………。それにこの脆さ………。

無闇矢鱈に掘り進めたら倒壊して二人の命は………」


「リアッ…………。聞こえるか?

キャサリンッ…………返事をしてくれッ……!」


ルードリヒが街のものと院長、公爵を連れて小屋に戻る頃には雨が止んでいた。

それなのに眼の前の光景に皆が言葉を無くした。

小屋は見る影もないのだ。

そこは裏山からの土砂に押し潰され見るも無惨に土砂や倒壊した木々の山となっていたのだから。


「ルードリヒ。嘘だと言ってくれ。

ここにいるのか?家の娘もリア嬢も………?」


「俺も嘘だと思いたいッ…………リアッ…………」



街の人達は必死に土砂を掻き分けた。

すると地響きが鳴り響いた。

その一帯を揺るがすような揺れだった。


「こんな時にまた地震か………?」


「土砂がまた崩れちまうッ…………」


その場で作業していた皆が絶望した。

ルードリヒだけが土砂を取り除く手を止めなかった。


すると土砂の中から虹色の閃光が漏れ出し溢れた。


皆が眩しくて目をつむる。


次に目を開けた時には皆は自分の見た光景を疑った。


目の前に赤い肌の大男がリアを抱いていたのだ。

空中にはキャサリンもバリアに護られたのか無傷で浮いている。


「『土の精霊王ノ―厶様』?!」


ルードリヒの背後からスバルが声を上げた。

スバルは驚きを隠せなかった。妖精族のスバルにはお馴染みの『精霊王』であっても竜人族の地でこの方が具現するなど初耳であった。


「精霊王………?」

「あの童話の世界の………神様か?」

「まさか。でも………?」


街の人達は童話の世界でしか馴染みのない『精霊』という言葉にも唖然としている。

でも皆語らずともわかるのだ。

身体が震えが止まらなかった。

ヒトならざる『高次元の存在』だと言うことは本能がわかったのだ。



〝お。竜の民ヨ。我が名は『土の精霊王ノ―厶』。

『虹の女神様』を守護するものである。

あ。

資格のない者は寝な〟


大男は語りだした。

何故か大多数の男達が地面に倒れだした。

今意識があるのは街の有力者、公爵、院長、ルードリヒとスバルのみだった。

あまりの『神力』に院長などへたり込んだ。

竜人族にとって子供の時に読み聞かせられた『虹の女神アガペ―』の童話はお馴染みである。

『癒やしの女神』であり、『豊穣の女神』であり。

竜人族を救うことで知られる女神様なのだから。



〝皆のものよく聞け。

この『リア』を大事にせよ。

彼女はこの地を愛した。

彼女は『虹の女神』なのだ。

さすればこの地の厄災は徐々に解けていくだろう。

この娘に見限られたら最後だと思え〟


赤い肌の大男は空中に浮かせたキャサリンをそっと地面には降ろしたのだけどリアを恭しく横抱きにした。


〝彼女に『告げる』なよ。

彼女に『願掛け』もするな。

彼女が望んでたすけることこそ、この地を『浄化』することになる。

彼女の自由にさせろ。妨害するな。

今回のような『慈悲』は彼女が望んだから救われた。

彼女が望まなかったらこの娘は死ぬ運命だったと心得よ〟


精霊王ノ―厶が横たわるキャサリンを指さした。



〝それともう一つ。

竜人族〝王家〟に知られるな。


奴らは知ると『奪いに来る』ゾ。

虹の女神は愛がないと力は発揮しない。


〝宝〟を守れヨ〟


〝あんた喋りすぎ。リアが死にそうになったからって『干渉』し過ぎよ。

『Kiss』してもらったからって〟


虹色の光と共に今度は水色の光が具現した。

現れたのは妖艶な蒼い髪の美女であった。

空中の雨水を纏いながら尾びれを揺らし微笑んでいる。


「『水の精霊王ウンディーネ』様ッ…………?!」


スバルが叫び倒れた。

キャパオーバーだったらしい。


〝今回は『リアが辛うじて抜け出た』でいいと思うわよ。

あまりリアが『女神』とわかると下々のものは邪な思いを抱くわ?

記憶のないあの子は無防備よ。

前回のフローリアよりか弱い。早まらないで。

あんた『干渉』した罰として『石』にするから〟


〝はあッ…………?!

おいおい。

俺様の威厳ッ…………?力の発揮はッ…………?!〟


〝知らない。

彼女にいっぱい『Kiss』してもらえば戻るんじゃない?〟


〝ちょッ…………ちょっとタンマッ…………〟


土の精霊王ノ―厶は光り輝く『金剛石』になった。

それを水の精霊王ウンディーネがネックレスにしてリアの首にかける。

彼女はまだふわふわ空中に浮いていた。


〝『常に』一緒にいなさい。

望み通り彼女の危機になったら具現出来るようにしたから。

そっから『願う』かは彼女次第だけど〟


〝ちょッ…………ッ…………ッ…………ッ…………〟


石はしばらく虹色に輝きながら暴れたがリアの胸元に落ち着いた。

水の精霊王ウンディーネは微笑みを称えている。

浮いているリアを優しく撫でながら啄んでいる。幼子を愛でる母のような手付きである。


 一連の流れを見せられた者達は唖然とした。

『神々の遊び』を目の当たりにしたのだ。

商人達など震えて拝みだしている。

俄に信じがたいが『あまりに高位』の存在との遭遇に彼等の精神は限界であった。

神の機嫌次第で指1つで変わるのだ。

今同格のはずの神すら石に変わる光景はヒトなど簡単に石にできることも示唆していたのだ。

 

 今この場に立っているのはエ―デル公爵とルードリヒだけだった。

その光景を見てウンディーネはその艷やかな笑みを一層深めた。


〝ふ〜ん。二人も残ったのね?

なら『君等』には記憶を残す。

他の資格ないものは『潜在意識』でリアを大事にする気はあるみたい。

そこだけ残そうかな。〝眠れ〟〟


院長や商人達はバタバタ倒れていく。

その様を水の精霊王ウンディーネはウットリ見下ろしている。

さながら『甘い蜜』をすするような顔をしている。


〝彼女が『虹の女神』なのは真実なのだから。

彼女の『寵愛』がなかったら我等は助けないのだぞ?


君等は………。言わなくてもわかっているよね?

彼女をどうすれば良いか〟



「護りますッ…………。決して目を離しません。

この身を犠牲にしても」


ルードリヒは跪いた。


「愛し慈しみます」


エ―デル公爵も跪いて胸に手を添えた。


〝彼女を『不幸』にしないことだよ。

それしかアドバイスしないからね?

この地にいない『恋敵』にも周知しなさい。

そのくらいは許そう。


彼女の『幸せ』がこの呪われた土地も彼女も救うことになるんだから〟



あたりはまた虹色に輝いた。

そして元の暗闇に戻った。

リアはふわりと公爵とルードリヒの腕の中に着地した。

リアの身体は土に汚れていたが健やかだった。

男二人は安堵のため息をついた。


「………………………どうする。これ」


エ―デル公爵は辺りを見渡した。

彼等以外が皆が地面に伏している。

彼等の記憶がどこから『消されている』かわからないがなんとか『辻褄合わせ』が必要だろう。


「『地滑りに皆が巻き込まれ。雷も落ちた。

閃光が辺りを照らし………皆がショックで卒倒した。

リア嬢とキャサリン嬢が運良く『土から出てきた』』で宜しいのでは?

ちょうどシンシア嬢も来た。皆を起こしましょう」


 ルードリヒはリアを抱えた。

公爵がリアを運ぶことを立候補したが起きたキャサリンに縋りつかれ、もたついている間にルードリヒが運ぶことになった。

リアは昏昏と眠り続けている。

遠くからシンシアや増援の街の男衆の呼ぶ声が聞こえた。

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