第13話 男手が増えた長所と短所
「ルードリヒ様ッ…………おんぶッ…………」
「ルード様〜だっこ〜」
「違うよッ…………ルードは僕を今日は『羽だし飛行訓練』してくれるって約束したもんッ…………!!」
「やだ〜やだ〜ルード様は俺達を肩車するんだもん!」
「こらこら順番だ。お転婆め。誰に似たんだ?」
「「「「「きゃ〜」」」」」
『………………意外』
野原で孤児院の子供達ともみくちゃになっているルードリヒの『愉快そう』な声がする。
無骨な無愛想な声色しか聞いたことがなかったが意外にも『子ども好き』らしい。
竜人族の中でも身体が大きいらしいルードリヒはさながら動く『アスレチック』なのだろう。
身体を使った大胆な遊びは確かに殿方の得意分野である。
それにしてもルードリヒに戸惑いがない。
子供と戯れるのに慣れているらしい。
「ふふッ…………ねえ?そうね?」
シンシアとリアは比較的大人しい部類の女の子や幼子を相手している。
その傍らで家庭菜園をスバルは耕している。
「子供は『純粋なもの』はわかるのでしょうね?
私には寄り付きもしないですよ」
どちらかというと優男のスバルと大男のルードリヒでは立ち位置が逆かと思っていたから驚きである。
『不思議ね?貴方こそ美形優男だから懐かれそうなのに。
院長も惚けたらしいじゃない?』
「この『危険な雰囲気』に弱いのは酸いも甘いもわかる貴婦人くらいなものです。
女の子達はそれなりに寄ってくるんだけどな………?」
「女の子人気は半々って所ね?
後は貴方達が来てくれたから良いことがもう一つ増えたのよ?まあ………。表裏一体ではあるのだけど」
シンシアがクスクス笑ったそばから後方から黄色い声とパタパタした足音が聞こえた。
「「「「おじゃましまーす」」」」
「スバル様ッ…………。精が出ますね?
クッキーを焼いてきましたの?妖精族は甘い物お好きでしょう?」
「力仕事の後は『蜂蜜レモン水』ですわ?いかが?」
「まあッ…………たくましいルードリヒ様は子供達の相手を?優しい方なのね?」
「ルードリヒ様ッ…………?そのくらいで休憩なさったら?
ワインもありましてよ?」
そうなのである。
孤児院に『美形の男手』が増えたのが街に伝わったのか毎日のように乙女が訪問するのである。
孤児院が賑やかになることはいいことである。
どうしても施設内は『閉鎖的』になりがちなのだから、子供達が外部の人との交流があるのは良いことである。
『皆様方?本日の『奉仕申請』の方々ですね?
助かりましたわ?
今夜の
「………………………あ。そうでしたわ?お仕事手伝います!」
「リア先生、シンシア先生よろしくお願いします!」
リアが声をかけると元気な声が集まってくる。
『本来の目的』はどうであれ『慈善活動』に関心が持てることは良いことである。
孤児院には日頃から「奉仕」の名目で入れ替わり立ち替わり街の御婦人や気の良いおば様が訪問してくれるのだけど、最近は『若返り』が起こったのである。
母親の代わりに年頃の娘たちが押しかけるようになった。嬉しい『男手』効果である。
それも『上手く機能すれば』であるが。
「「では私達は華を添えることと殿方の癒やしが仕事ですので〜」」
「雑用は得意な方々でよろしくお願いしますわ?
私達せっかくのお化粧を崩したくありませんの?
妖精族は『手先が器用』なんですよね?
お互い『得手不得手』を熟しません事?」
『………………………………』
「リア先生ッ…………笑顔が怖くなってますよ」
『………』
「あ。表情がなくなっちゃった」
偽善なら偽善の『奉仕』を全うしてほしいものである。
すでに農作業の手を中断して乙女の相手を始めたスバルの戸惑いの声がする。
しきりに休憩と言う名の『お茶会』に誘われているらしい。
何回かこの現状を院長が諌めたのだけど『恋する乙女』の熱意は凄まじい。毎日のように来る『不純』な乙女を院長も規制できずにいた。
またやっかいなのがこの図々しい乙女達は『街の小金持ち』の娘達なのである。
所謂『出資者の娘』である。
大して労働も炊事もしたことがない乙女たちである。
手も柔らかくたおやかで美しいのだろう。
男はみな美しいものが好きであるからと着飾り日々訪れる。
リアはそっと自身の荒れた手を擦った。
(おむこ探しの気分なんでしょうね?
しょうがないよね。外部の麗しい殿方だもの)
リアはため息をつきながら『奉仕』の意志のある乙女を引き連れ炊事場に向かった。
仕事の意欲のある乙女達もリアが『視力が悪い』ことをにわかに信じられないようであった。
光と色がぼんやり見えているから『なんとなく』で生活していることに驚いていた。
リアの炊事仕事はきめ細かいらしいのだ。
(フローリアがマメな性格だったか働き者だったんだろうな。普通の貴族の令嬢にしては身体が炊事の仕方もコツも覚えている感覚だもの)
炊事中のリアに悪戯をするマオを華麗に捕捉し締め上げ放りだした時には歓声があがった
「リアちゃんなんでも出来るから学園でも人気者だったのよ?なんでも出来て『可愛げない』『加護欲がそそられない』って言う男のヒトがいたけど。
リアちゃんには大きなお世話だったから。
そこは変わらないのね?」
『可愛げ………。確かに私には難しいかもね?』
「「リア先生は優しいし可愛らしい方ですよ?」」
「私達……お役に立てるかはわかりませんけど。
買い出しとか。難しい読み書きは出来ないんですけど………。お手伝いさせてください!」
「リア先生にお父さん怪我を治してもらったと聞きました!
マオも昔は施設を脱走しては街で悪さをしていたのが、今は時々お手伝いしてくれるんですよ?
孤児院が明るくなったのはリア先生とシンシア先生のお陰です!」
町娘達が声を張り上げた。
リアは嬉しくなって頬が引き攣った。
そしたら街娘たちが歓声をあげた。
「リア先生ッ…………すっごく可愛らしい。
照れると赤くなりますね?」
「日頃ツンとした美人なのにそんなに柔らかく微笑みますの?もうッ一回!」
「リア先生の信奉者が増えましたね?」
シンシア先生がクスクス笑った。
「シンシア先生も癒やし系の妖精族らしい素敵な方ですわ?」
「街にはシンシア先生ファンも多いですよ?
皆大人しい男ばかりだからここに口説きにくる度胸がないやつらばかりですけど」
『ここまで用もないのにくるのはあの『クラ―ク商会会長の御子息クレバーさん』くらいで充分よ』
「リア先生ッ…………。
『噂をするとなんとやら』ですわよ?」
「「「「「『こわい〜』」」」」」
リアは同年代の語らいが新鮮であった。
竜人族の乙女達は肌の色こそ妖精族より浅黒いのだけど、見目の違いは大柄か小柄かくらいしか大差はなかった。
あったとしてリアには関係なかっただろう。
声が大きく快活で気持ちの良い娘達が多かった。
「リア先生出来た〜」
「こっちも〜」
リア達に付いてきた女の子達も皮むき作業を終わらせたらしい。リアの膝で遊びだした。
『お上手。豆煮は時間がかかるから皆でおやつにしましょうか?あ。薪は足りるかしら………?後で補充しとかないと………』
天気がいいからと皆で野原で『ピクニック』をすることになった。
さっきの『熱狂的な乙女達』と合流する形になるのだけどそちらでは一足早くお茶会がされているのだろう。
野原のほうに皆で歩いていくと何やら空気がおかしい。
乙女達の啜り泣く声がするしスバルの
『どうされたのですか?この騒ぎは………?』
リアが問いかけると野原にいたヒト達は我に返ったらしい。
停滞していた時間が動き出した音がした。
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