114:母なるモノ
SAWが設営していた仮拠点。
そこを発ち、輸送機は上空を静かに飛行していた。
後ろからは一定の距離を開けて代行者の乗る輸送機が追走してきている筈だ。
俺の強化外装を積んだ輸送機は隣を飛行していて……目の前には気まずそうな顔をするヴァンがいた。
「……その……悪かったな……ちょっとばかし、考え事をしていてな……ごめん!」
「……」
ヴァンが俺に手を合わせて謝罪をしてくる。
その眼には、もう俺への恐怖は無い……いや、まだ少しあるか?
気にならない程度だ。だから、まぁいい。
傍から見れば何時も通りのヴァンであり、イザベラが何かを言ってくれたのか。
イザベラは何も教えてくれなかったが。
彼女は心配はいらないと俺に言ってくれた……別にいいんだ。
俺は怒っていない事を伝える。
理由を知りたい気持ちは勿論あったが……何故か、聞かない方が良い気がした。
胸騒ぎと言うのだろうか。
聞こうとすると胸がざわめく感覚がするんだ。
嫌な予感とも言えるそれを感じて、俺は何も聞かない事にした。
……いや、何れはヴァンが話してくれるだろう。
俺はそう思いながら、ヴァンに再び神に会いに行くことを伝えた。
すると、ヴァンは少しだけ眉を顰めるような表情をする。
やはり、ヴァンも皆と同様に会いに行くなと言いたいのだろう。
ベン・ルイスの話を聞いていた時も、ヴァンは何か怒っているような話し方をしていたからな。
マサムネと言ったか。災厄となった人間の名前であり、ヴァンはそれに反応していた。
俺はヴァンに思い切ってその事を尋ねた。
すると、ヴァンは少しだけ気まずそうな顔をしていた……聞かない方が良かったか。
俺が話したくないのなら、無理に話さなくても良いと伝えれば。
ヴァンはハッとしたような顔をしてから、慌ててそういうものじゃないと言ってくる。
「……その、な。俺の過去については話しただろ? 親に売られて、ある施設で育ったって……実はな、それはある男を生み出す研究をしていた場所なんだよ……此処まで言えば、何となく分かるか?」
「……つまり、その男が……」
「……ヴァンも、苦労したんだな」
操縦席で輸送機を操縦しているミッシェルが呟く。
苦労していたの一言で片づけられるような話ではないとミッシェルも分かっているだろう。
しかし、俺も彼女もヴァンの口から聞く情報では全てを理解できる訳が無い。
詳しく話さないのは、その施設でやられていた事が説明できるほど簡単な事じゃないからだろう。
ヴァンは気まずそうな顔をしながら「俺はそこの生き残りなんだよ」と言う。
恐らく、ヴァンの口ぶりからして正規の実験施設ではないのだろう。
幼い子供が集められたその施設で行われたのは人体実験であり……俺が施された”教育”よりも過酷なんだろう。
代行者が知っていたのなら、神が命令して実験を行っていた可能性が高い。
奴らはそれらを公表する事無く、裏で実験を行っていたのか。
何故に、そのマサムネという男を生み出す研究を行っていたのか……いや、推測は出来る。
神のプランにおいて重要な存在だったその男。
最大の過ちを犯したとはいえ、神は未だにその存在を希望と思っていたのかもしれない。
だからこそ、自分の手で蘇らせて何かをさせようとしていたのか。
俺がそんな事を考えていれば、ヴァンは笑みを浮かべる。
「……俺以外は死んじまってな。計画自体が白紙になっちまったんだよ……希望の子なんて呼ばれてたけど。結局、俺は神にとっては失敗作だったんだよ。だから、あっさりと捨てられて軍で使われていた訳だ……笑えるだろ?」
「……笑えねぇよ……分かっただろ、ナナシ……神ってのはお前が思っているほど、清い存在じゃねぇ」
「……分かっている。俺も神が清廉潔白とは微塵も思っていない……だが、それでも俺は知る必要があるんだ……それに、あのベン・ルイスが本当に元異分子でウィルスを除去できたのなら……本当の自由を手に出来るかもしれない」
「…………そんな事言われちまったなら、俺にはもう何も言えねぇよ……どうすんだよ、ヴァン」
ミッシェルは操縦を続けながら、ヴァンに話を振る。
ヴァンを見れば、顎に手を当てて考えている。
これ以上は、俺の考えを改めさせる事は出来ないと分かってくれたのか。
何を言うのかと思いながら見ていれば――ヴァンはニカっと笑う。
「分かった! そこまで言うんだったら……俺はお前を止めねぇ。そもそも、文句は言わねぇって言ってたからな……ただし、一つだけ頼みがある……聞いてくれるか?」
「……何だ?」
俺はヴァンが何を言うのかと考えた。
神を信じるなか。それとも、話していた内容を聞かせてくれか。
「何があっても――これから先も俺たちを一緒に連れて行ってくれよ」
「……? あぁ、それは当然だ……それだけか?」
「あぁ、それだけだ……何だぁ? もっと凄い事言うとでも思ったのかぁ?」
「いや、別に……ミッシェルは?」
「あ? 俺か? そうだなぁ……あ、じゃ無茶な事はするな。これでいいか?」
「……ふふ」
「……んだよ」
「いや、ミッシェルらしいと思ってな……分かった。努力する」
「……そこはお前。絶対に守りますって言えよ……はぁ、まぁいいけど」
ミッシェルは少し呆れながらもそれで納得してくれた。
俺は頷きながら、イザベラにも話を通しておいた方が良いかと尋ねる。
すると、ヴァンがもう納得していたと言って来た……本当か?
「アイツは口ではあぁ言ってたけど。ナナシの性格を知ってるからな。行きたきゃ行けって言ってたぜ?」
「……そうか……なら、今此処で奴と話をする。皆も聞いていてくれ」
「分かった……よし、ミッシェル。操縦をオートに、モニター借りるぞ」
「へいへいっと……よし、何時でも良いぜ? 端末ともリンクさせたからな」
「ありがとう……それじゃ、繋ぐぞ」
俺が二人に確認すれば、静かに頷いて応えてくれた。
俺は端末を取り出してから、正常にリンクされている事を確認して。
渡されたアドレスを使って、ベン・ルイスにコールをした。
端末が震える。
ワンコール、ツーコールと鳴り――繋がる。
天上から吊るされたモニターが起動し、マスクをつけたベン・ルイスが笑みを浮かべて現れる。
俺の隣にはヴァンとミッシェルが立ち、ジッとモニターを見つめていた。
俺はベン・ルイスに答えが出た事を伝えて、神に会いに行くと言った。
すると、奴は静かに頷いてから「そう言ってくれると思っていた」と言う。
《彼女には私から伝えておこう。念の為に言っておくが……1人で来て欲しい。誰であろうとも同行は認められない》
「ふざけんじゃねぇ!! テメェらみてぇな胡散くせぇ連中の中に仲間を放り込めってのか!?」
「落ち着けミッシェル……でも、こいつの言う通りだぜ。せめて、俺の同行は認めろ。でなきゃ、この話は無しだぜ」
《……私はナナシ君と話をしているのだが……君の意見を聴こう。彼について来て欲しいのかな?》
ベン・ルイスは俺に視線を向けて尋ねて来る。
優しく聞いているように見えるが。
そのマスクの奥の瞳から嫌な視線を感じた。
まるで、この答えによっては取る手段を変えると言いたげで……。
「……いや、俺一人で行く」
「ナナシ? お前、何言って」
《――決まりだ。彼の意見を尊重しようじゃないか。希望の子》
「……次、その名前で呼んだら……お前の眉間に鉛弾を撃ち込んでやるぞ」
《ふふ、それは楽しみだ……だが、君に割く時間は無い。だからこそ、君の要望は聞いておこう……ありがとう、ナナシ君。神との対話は決して君にとって不幸を齎すものではない。君の願いを叶えて、希望の火を灯してくれるだろう》
「……だといいがな……それで、何時行くんだ」
俺は今すぐなのかと問いかける。
すると、ベン・ルイスは早い方が良いだろうと言ってくる。
「――準備はいいかな?」
「「「――ッ!?」」」
背後からベン・ルイスの声が聞こえた。
振り返れば、背後で笑みを浮かべた奴がいる。
咄嗟にヴァンが俺の前に立ち、ミッシェルも拳を構えていた。
俺は汗を流しながら、何処から侵入したのかと聞く。
すると、ベン・ルイスは腕を捲り端末を見せて来た。
「君には言ってなかったが。我々は好きな場所へと一瞬で移動できる装置を持っているんだ……と言っても、移動できるのは人間二,三人くらいで。未知の場所や神の庇護下に無い場所へは移動できない……座標を入力し、時間を設定すれば――こうなる」
「「「――!」」」
奴の体が光となる。
そうして、一瞬の内に操縦席の横に立っていた。
まるで手品であり……移動中の輸送機内へも侵入できるのか。
未知の技術であり、ミッシェルは喉を鳴らしていた。
気になっているのだろう。しかし、相手は敵のようなもので。
彼女は拳を握って質問する事をしないように自分を抑えていた。
奴はゆっくりと歩き出す。
そうして、俺の前に立ち手を差し出してきた。
「私の手を取ってくれ。そうすれば、すぐにでも神の元へと連れて行こう」
「ナナシッ! 俺の後ろに――っ!?」
ヴァンが俺の前に立とうとした。
しかし、俺はそれを片手で制した。
ヴァンが止める事はしなくていい。
準備は既に出来ている。
俺は一人で神に――会いに行く。
ベン・ルイスの手を取る。
ゴツゴツとした手を握りしめれば、奴はニコリと笑う。
そうして、俺と奴の体は光に包まれて――――…………
…………――――ゆっくりと視界に色が戻って行く。
眩いばかりの光。視界一面に広がった白。
それに色が浮かび上がって来て、周りを見れば……黒と青だけだ。
黒い壁や床であり、そこには青いライン状の光がある。
脈動する様に光が強くなったり弱くなったりを繰り返している。
不思議な空間であり、何故か。無性に体が冷えるように感じた。
此処は何処だ。俺がそう思っていれば、隣にベン・ルイスが立っていた。
「さぁ、行こうか」
「……あぁ」
俺は奴の背中を追う。
中心に立つ大きな黒い円柱。
そこへと近づけば、何も無かった筈の空間に板のようなものが出現した。
奴はその板を踏みしめて、上へと昇って行く。
俺は動揺を隠しながら、奴を真似て上へと上がって行った。
ベン・ルイスは螺旋階段のようなものを上がりながら。
此方に視線を向ける事無く説明を始めた。
「此処は神が眠る場所……平たく言えば、寝所のような場所だ」
「……普段は眠っているのか」
「そうとも言えるし、そうではないとも言える……神は傷を癒す為に、普段は力を使うことなく此処で眠っている。だが、それは我々のようにベッドの上で横になり瞼を閉じるようなものではない……広い海。その水底へと魂を沈めるように。何も見ず何も聞かず。黒より黒い世界で、無になるんだ」
「……難しい事を言うな……だが、それでは何も分からないじゃないか。どうやって奴は世界の情報を」
俺は純粋に疑問に思った。
無になると言う事は、言葉通りに取るのであれば考える事もしないのだろう。
夢も見ないのであれば、どう考えても世界を知る事なんて出来ない。
しかし、奴は大神官が碧い獣によって殺されると予知していた。
それが正しかったのかは未だに分からないが。
少なくとも、彼が死ぬ運命自体は当たっていた。
奴は階段を上がりながら、静かに言葉を発した。
「言った筈だ。彼女は全てを創り出したと――この世界は彼女の体だ。起きた事も起こる事も、全ては彼女の”記憶”だ」
「……記憶だと……それは……全て予め知っているとでも」
「――そうだ。彼女は全てを知っている。記憶だから、起きて当然なんだ。未来も過去も現在も、彼女の知る記憶の一部に過ぎない」
「……」
にわかには信じられない。
幾らこの世界の創造主であろうとも、膨大な量の情報を……世界の全てを知っているだと?
あり得ない。
普通であれば、そう断言できる。
だが、相手が神であるのなら……否定する事が出来ない。
相手は此方の遥か上の存在で――次元が違うんだ。
空腹で死ぬ人間とは違うし。
そもそも奴は肉の体なんて持っていない。
世界を生み出すだけの力があるのであれば。
世界全ての情報を持っているのは当然だ。
寧ろ、世界を生み出せるのに全てを把握していない方がおかしい。
否定しようとしていた感情が消えていく。
そういうものだと納得し、俺の中の疑問が消えていった。
不思議だ。さっきまで疑っていたのに、今では信じてしまっている。
自分の気持ちの変化が奇妙に感じるが……まぁいい。
階段を上がっていけば、その終わりがやって来た。
ゆっくりと足をつけた場所は床になっている。
俺が階段から足を除ければ、板は全て消えていった。
そうして、目の前には大きな扉がそびえたっていた……感じる。気配を。
この先に神がいると本能で分かる。
体が震えそうになっていて、手は小刻みに触れていた。
俺はそれに気づいて硬く拳を握りしめる。
ベン・ルイスはゆっくりと振り返り――微笑む。
「あの先だ……此処から先へは、君一人で行くんだ」
「……分かった」
何故、付いてこないのか。
聞こうとしたのに口から出たのは別の言葉だった。
足が動き始めて、扉の前に立つ。
すると、扉全体に青い光が伸びていく。
音を立てながら、重厚な扉が開かれていく。
俺は開かれていく扉の先に向けて足を動かして行った。
ゆっくり、それでいてしっかりとした足取りで進む。
そうして、扉を潜り中へと入れば背後で扉が閉まって行く音が聞こえた。
俺は周りを見渡した。
しかし、気配は感じるのに神はいない。
やがて、扉は完全に閉じられる。
「……何処にいる。姿を見せろ」
俺は誰もいない空間で神を呼ぶ。
しかし、奴の声は聞こえてこなかった……揶揄っているのか?
広い部屋の中には何も無い。
ただ中心に向かって青い光の線が集まっているだけだ。
俺は足を動かしてその中心に向かって歩いていく。
コツ、コツ、コツと靴の音が響き――足を止める。
光が集まる中心に立つ。
そうして、ジッと床を見つめて――ッ!?
光が弾ける。
強い閃光が迸り、俺は咄嗟に視界を両手で塞ぐ。
目を閉じたが、あまりにも強い光で瞼の裏まで白に塗り潰された。
「何だ――何を――ッ!!」
《目を開けなさい》
「――!」
女の声が聞こえた。
鈴の鳴るような美しい声で。
頭に響くその音を聞いただけで、心が熱を持つような感覚を覚えた。
俺は女の声に従うように、ゆっくりと両目を開けていった。
視界に広がるのは白だ。何処を見ても白であり、何も無い。
床も壁も天井も無い。全てが白だけであり、それ以上の情報は無かった。
床に足をつけているような感覚はある。
しかし、目に見えるそれは床という情報を脳に与えない。
ただの白であり、俺自身の影すら無かった。
俺が狼狽えていれば、横を何かが通り過ぎていく。
驚き警戒しながら見れば、純白の布のようなものを全身に纏わせた何か人間で――いや、違う。
そいつは顔を覆い隠すように白いベールをつけていた。
纏う空気が人間のそれじゃない。
足音が聞こえるだけで心臓が高鳴り、全身が熱くなっていくような感覚を覚えた。
呼吸が乱れそうになるのを必死に堪える。
そうして、血が滲むほどに手を握りしめてこの奇妙な感覚に抗う。
ぼたぼたと俺の血が下へと落ちていき、そのまま遥か下へと落ちていく。
俺はその不思議な光景を見てから、ゆっくりと目の前の何かを睨む。
骨格から女だと分かる。
ひたひたと音がして見れば靴すら履いていない。
シミ一つ無く、歪さをまるで感じない美しい足。
透き通るような白い肌に、ベールから見える髪は見たことも無いような黒であった。
まるで、引力を感じるほどに引き込まれる色だ。
俺は此処でようやくこの女が顔を隠している理由が分かった。
肌を隠し、顔を見せないのは……俺への配慮だ。
聞いたことがある。
遥か高みの存在たちは、その姿が恐ろしいまでに完璧で。
その姿は人間が見れば猛毒のようなものだと。
心を掻き乱し、正常な判断力を奪うほどの魅力。
全てを虜にし、魂を奪うそれは一種の奇跡だ。
「……お前が、神なんだな」
《はい。その認識で合っています》
「脳に、直接――っ!」
《貴方に私の声を聞かせるのはリスクがあると判断しました。不快であるのなら、別の方法にします》
「……いや、いい……本題に入りたい。お前の目的を、聞かせろ。そして、俺をどうするつもりなのかを」
俺は奴を見つめながら聞く。
油断しないように心を奪われないように常に手を硬く握りながら。
奴はゆっくりと腕を振る。
すると、何も無かった筈の空間に白い椅子とテーブルが現れた。
その上にはカップとポッドが置かれている。
《分かりました。先ずは座りましょう》
「……」
《毒は入っていません。貴方に危害を加える意思はありません》
「……っ」
何も言っていなかった。
それなのに、奴は俺の心を読んで言葉を発した。
俺は動揺しながらも、神なのだからそれくらい出来て当然だと理解する。
そうして、これ以上不用意に心を読まれない為に椅子に座った。
奴は俺の対面に座り、手を動かさずにポッドを動かす。
トクトクと白い湯気が上がったそれの中身は美しい紅色の液体だった。
鼻に届いたそれは、香ばしい花の香りがして。
奴は無言で俺を見つめて来る……っ。
飲めと言いたいのだろう。
俺は勝手にそう解釈し、カップを摘まみ持ち上げて――っ!
手を見れば、痛みを発していた筈のそれが”治っていた”。
血が滲んでいたそれは元通りとなり、痛みもいつの間にか消えていた。
俺は動揺する。恐れを含んだ目で奴を見たが、奴は首すら傾げない。
揶揄っているのか。それとも、俺を動揺させて交渉を有利に――いや、違う。
奴は神だ。俺よりも遥かに優れた存在だ。
策を弄さずとも、奴は俺程度であれば好きなように出来てしまう。
分かっている。最初から理解していた。
こいつには絶対に勝てない。俺の本能がそう認めてしまっている。
抗う意志を奪われ、少しでも優位に立とうとしていた自分の浅ましさだけが露見した。
動揺している時点で……いや、こいつの前に立った時点で、俺に勝ち目はない。
「……っ……ふぅ」
強く歯を食いしばる。
そうして、全身に張り巡らせた緊張を無理やり解く。
静かに息を吐きだしてから、俺はポッドを今度こそ掴んだ。
心臓がドクドクと鼓動しているのを感じながら、ゆっくりとカップに口をつけて――
「……美味い」
《そうですか。安心しました》
「……」
カップを静かに置く。
奴は安心したと言ったが、その声色に変化は無い。
機械的に人間らしい事を言うだけで、まるで感情を感じない。
俺は眉を顰めながらも、不用意に指摘する事はやめた。
俺は奴を見つめる。
すると、奴は俺を見つめ返してきて――
《エマという少女を私は生き返らせる事が出来ます》
「――!」
今、こいつは何を言った……?
エマを、生き返らせるだと……?
俺は大きく目を開いて動揺する。
隠す事は出来ない。隠したって意味は無いんだ。
それだけ、こいつが言って来た最初の言葉は俺の感情を激しく揺さぶった。
歓喜、疑念、不安――希望だ。
奴は何も言わない。
ただジッとベール越しに俺を見つめるだけだ。
俺は口を小さく開けながら、奴を見ていた。
何を考えている。何を企んでいる。
俺がそう考えていれば、奴はゆっくりと真意を明かした。
《ある男を、私の元へと連れてきてください。その男の名は――ノイマン》
「……そいつを連れてくれば……エマを、蘇らせると?」
《はい。約束します。そして、貴方を異分子から解放しましょう》
神は、この女は簡単に言って来た。
俺はノイマンという男を名前だけしか知らない。
それなのに、こいつは俺がそいつを連れて来られると考えている。
何が見えている。どんな未来があるっていうんだ。
俺は激しく混乱する。
感情が渦を巻く中で、俺は奴を睨む。
「…………分かった…………だが、聞かせろ。そのノイマンの事も、この世界の事も…………俺が知りたい全てを」
《分かりました。では、教えましょう――”世界の真実”を》
奴はそう言って指を鳴らす。
その瞬間に――俺の頭の中に何かが流れ込んできた。
「――――」
視界に映るのは様々な人間や見たことも無い物たちで。
映画でも見るように、奴の保有する記憶が勢いよく流れて行った。
情報の濁流の中で俺は逆らう事も出来ずに流されて行き、俺はその全てに目を向け続け――――…………
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